10 / 29
〈決意と悪意〉1
しおりを挟む
「けど真人間になるって実際どうするの?」
「それを今から考えるんやろが」
昼飯を食べ終えると、秋人は言われるでもなく自然に二人分の食器を片付ける。
「そうだ!この前みたいに見た目から変えれば良いんだよ!例えば髪型とか~」
「アホか!これは俺のポリシーやぞ!死んでも変えんわ」
そう言って自慢げに髪型を調える虎太郎に「そんな頭の真人間いないよ~!」と秋人は口を滑らせ、ばつが悪そうに黙って下を向く。
「見た目以外でも他に色々有るやろ!」
「そんなの思い付かないよ~」
虎太郎の鋭い視線が気になるのか、秋人は如何にも考えてもいなさそうな返事を返す。
「そうだ~!子供に好かれるようになれば良い人だよ~!」
「良い人じゃあなくて真人間や」
「そんなの一緒だよ~」
「‥‥で、何すればええんや」
「自然に話しかけて一緒に遊んだら良いんだよ~」
仕方なさそうに虎太郎がため息を漏らすと、秋人は誘い込むような笑顔で立ち上がった。
一階の待合室に着いた二人は、まるで異常者のようにキョロキョロと子供を探す。
秋人が念のため持ち歩いているギターが、更に異様さを増しているが他の患者達は気付いてもいない。
「あの子なんてどう?」
まだ生まれたばかりの幼児を抱き抱える母親を秋人が指差すと、気付いた母親はさりげなく視界から遠ざかって行く。
「自分で探すからええわ」
そう言って虎太郎が見つけた小学生に近寄って行くと、小学生は走って母親の近くに逃げてしまう。
「もっと笑顔じゃないと駄目だよ~」
もっともらしい言葉で、講師振る秋人を睨む虎太郎は「こんなん出来るようになっても意味無いから、もうええわ」と今にも八つ当たりで手を出しそうだ。
「決めた!もっと真面目に練習するわ!」
急かすように虎太郎は立ち去ろうとするが、きょとんとした表情の秋人は意味を理解してはいない。
「約束を守る為に練習するんや、正に真人間やろ!」
迷い無く言い切る虎太郎に、秋人は一瞬驚いていたが「だったらギター貸しといても良いよ!その方がいつでも練習出来るだろうし!」と虎太郎の気持ちを応援するように、笑顔でギターを手渡す。
自分の覚悟を試すかのように虎太郎は一人で練習に向かい、秋人は静かに見送り病室に戻って行った。
1時間も経たないで病室に帰って来た虎太郎は、いらついた様子でギターをベットに投げ捨てる。
「駄目だよ~、壊れるよ~」
秋人は心配そうにギターを見つめているが、虎太郎は無言のまま気にもせず携帯電話を取り出す。
「練習どうだった‥‥?」
恐る恐る尋ねる秋人に「ミュートもピッキングも、どれも上手くいかんな‥‥」と虎太郎は不満げにギターを睨む。
「ギターは悪くないよ~、もっと練習しないと上手くならないよ~」
「もう今日は止めや!」
窘める秋人を見向きもせずに、虎太郎は不機嫌そうに携帯ゲームを始める。
「こんな時はガチャしかないやろ!オラッ!!」
必要以上に気合いを入れて虎太郎は携帯に触れるが、遠慮の無い舌打ちで結果は明白だった。
それから数分間二人しか居ない病室には会話も無く、虎太郎のしている携帯ゲームの音だけが響いている。
「そうだ!練習しないならお見舞い行こうよ」
「お見舞いって誰のや?来てもらうの間違いやろ!」
「だから~千夏ちゃんだよ~!病室なら患者しか居ないし、きっとヒマしてるよ~」
「アホか!さっき会ったばかりやぞ」
手を止めて話していた虎太郎は、バカらしそうに再び携帯を操作する。
そのまま数分間無言の状態が続くと、秋人は退屈に耐え切れなくなったのか「だったら一人で行ってくるよ~」と病室から去って行った。
病室に着いた秋人は千夏を探すが、室内には清掃員しか居ず部屋を出ると「もしかして‥‥、今の彼氏かしら‥‥」「かわいそうにね、まだ若いのに‥‥」とボソボソと噂話が聞こえてくる。
秋人は思わず立ち止まり聴き入るが、如何にも関係の無い話題に変わったので慌てて虎太郎を探しに戻った。
病室に着いた秋人は険しい表情で虎太郎に駆け寄るが、何も知らない虎太郎は呑気に携帯ゲームを続けている。
「虎君短いんだよ!!」
「何や‥‥、まだ練習時間の事言ってんのか」
秋人の気も知らず、返事を返す虎太郎は面倒臭さそうに頭を掻く。
「違うよ、千夏ちゃんだよ!」
「‥‥それどういう意味や?」
千夏の名前を聞いた途端、虎太郎の表情は真剣に変わる。
「さっき病室で聞いたんだよ~、掃除の人が話してて‥‥、若いのにかわいそうだって‥‥」
「直る病気と違うかったんか‥‥」
見るからに落ち込む虎太郎に、返す言葉も見つけられない秋人は静かに俯く。
病室には携帯ゲームの音が響いているが、虎太郎は自分に出来る事を考えてか触れようともしない。
「‥‥どうしよう、教えてあげた方が良いかな‥‥」
松葉杖で動きづらいはずなのに、落ち着きの無い秋人は座ろうとしては止めてしては止めてを繰り返す。
「何も言わん方が良いやろ‥‥」
「え~、無理だよ~!言わなくても態度で絶対気付かれるよ~」
「そんなもん自然にしとけばええんや‥‥」
そう言い切る割に虎太郎は片方の足を不自然に揺り動かし、明らかに動揺をごまかしていた。
「それを今から考えるんやろが」
昼飯を食べ終えると、秋人は言われるでもなく自然に二人分の食器を片付ける。
「そうだ!この前みたいに見た目から変えれば良いんだよ!例えば髪型とか~」
「アホか!これは俺のポリシーやぞ!死んでも変えんわ」
そう言って自慢げに髪型を調える虎太郎に「そんな頭の真人間いないよ~!」と秋人は口を滑らせ、ばつが悪そうに黙って下を向く。
「見た目以外でも他に色々有るやろ!」
「そんなの思い付かないよ~」
虎太郎の鋭い視線が気になるのか、秋人は如何にも考えてもいなさそうな返事を返す。
「そうだ~!子供に好かれるようになれば良い人だよ~!」
「良い人じゃあなくて真人間や」
「そんなの一緒だよ~」
「‥‥で、何すればええんや」
「自然に話しかけて一緒に遊んだら良いんだよ~」
仕方なさそうに虎太郎がため息を漏らすと、秋人は誘い込むような笑顔で立ち上がった。
一階の待合室に着いた二人は、まるで異常者のようにキョロキョロと子供を探す。
秋人が念のため持ち歩いているギターが、更に異様さを増しているが他の患者達は気付いてもいない。
「あの子なんてどう?」
まだ生まれたばかりの幼児を抱き抱える母親を秋人が指差すと、気付いた母親はさりげなく視界から遠ざかって行く。
「自分で探すからええわ」
そう言って虎太郎が見つけた小学生に近寄って行くと、小学生は走って母親の近くに逃げてしまう。
「もっと笑顔じゃないと駄目だよ~」
もっともらしい言葉で、講師振る秋人を睨む虎太郎は「こんなん出来るようになっても意味無いから、もうええわ」と今にも八つ当たりで手を出しそうだ。
「決めた!もっと真面目に練習するわ!」
急かすように虎太郎は立ち去ろうとするが、きょとんとした表情の秋人は意味を理解してはいない。
「約束を守る為に練習するんや、正に真人間やろ!」
迷い無く言い切る虎太郎に、秋人は一瞬驚いていたが「だったらギター貸しといても良いよ!その方がいつでも練習出来るだろうし!」と虎太郎の気持ちを応援するように、笑顔でギターを手渡す。
自分の覚悟を試すかのように虎太郎は一人で練習に向かい、秋人は静かに見送り病室に戻って行った。
1時間も経たないで病室に帰って来た虎太郎は、いらついた様子でギターをベットに投げ捨てる。
「駄目だよ~、壊れるよ~」
秋人は心配そうにギターを見つめているが、虎太郎は無言のまま気にもせず携帯電話を取り出す。
「練習どうだった‥‥?」
恐る恐る尋ねる秋人に「ミュートもピッキングも、どれも上手くいかんな‥‥」と虎太郎は不満げにギターを睨む。
「ギターは悪くないよ~、もっと練習しないと上手くならないよ~」
「もう今日は止めや!」
窘める秋人を見向きもせずに、虎太郎は不機嫌そうに携帯ゲームを始める。
「こんな時はガチャしかないやろ!オラッ!!」
必要以上に気合いを入れて虎太郎は携帯に触れるが、遠慮の無い舌打ちで結果は明白だった。
それから数分間二人しか居ない病室には会話も無く、虎太郎のしている携帯ゲームの音だけが響いている。
「そうだ!練習しないならお見舞い行こうよ」
「お見舞いって誰のや?来てもらうの間違いやろ!」
「だから~千夏ちゃんだよ~!病室なら患者しか居ないし、きっとヒマしてるよ~」
「アホか!さっき会ったばかりやぞ」
手を止めて話していた虎太郎は、バカらしそうに再び携帯を操作する。
そのまま数分間無言の状態が続くと、秋人は退屈に耐え切れなくなったのか「だったら一人で行ってくるよ~」と病室から去って行った。
病室に着いた秋人は千夏を探すが、室内には清掃員しか居ず部屋を出ると「もしかして‥‥、今の彼氏かしら‥‥」「かわいそうにね、まだ若いのに‥‥」とボソボソと噂話が聞こえてくる。
秋人は思わず立ち止まり聴き入るが、如何にも関係の無い話題に変わったので慌てて虎太郎を探しに戻った。
病室に着いた秋人は険しい表情で虎太郎に駆け寄るが、何も知らない虎太郎は呑気に携帯ゲームを続けている。
「虎君短いんだよ!!」
「何や‥‥、まだ練習時間の事言ってんのか」
秋人の気も知らず、返事を返す虎太郎は面倒臭さそうに頭を掻く。
「違うよ、千夏ちゃんだよ!」
「‥‥それどういう意味や?」
千夏の名前を聞いた途端、虎太郎の表情は真剣に変わる。
「さっき病室で聞いたんだよ~、掃除の人が話してて‥‥、若いのにかわいそうだって‥‥」
「直る病気と違うかったんか‥‥」
見るからに落ち込む虎太郎に、返す言葉も見つけられない秋人は静かに俯く。
病室には携帯ゲームの音が響いているが、虎太郎は自分に出来る事を考えてか触れようともしない。
「‥‥どうしよう、教えてあげた方が良いかな‥‥」
松葉杖で動きづらいはずなのに、落ち着きの無い秋人は座ろうとしては止めてしては止めてを繰り返す。
「何も言わん方が良いやろ‥‥」
「え~、無理だよ~!言わなくても態度で絶対気付かれるよ~」
「そんなもん自然にしとけばええんや‥‥」
そう言い切る割に虎太郎は片方の足を不自然に揺り動かし、明らかに動揺をごまかしていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる