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〈嘘と夢〉2
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「もしも~し‥‥、虎太郎君?」
悪気無く虎太郎の目の前で手を振る秋人に気付いた虎太郎は「オッ‥‥、オウ!」と辛うじて男らしく返事を返すが、まだ様子はおかしい。
「あっ‥‥、そうだ紹介するよ千夏ちゃん、僕と同じ病室の虎太郎君」
虎太郎の見た目が余りにも別世界なせいか、千夏は控え目に会釈する。
「オ‥‥、オウ‥‥!ヨロシク‥‥」
たどたどしく何とか笑顔を返す虎太郎と、一般的な千夏との距離は簡単には縮まりそうにない。
「何か‥‥、恐そうな人ですね‥‥」
冗談っぽく千夏が告げると「え~?そんな事ないよ!優しいよ~!」と秋人は大袈裟に手を振り否定する。
「何やって‥‥?」
二人だけの会話を気にした虎太郎は、秋人に小声で聞き直す。
「何か恐そうだって‥‥」
「ボクシングとかバイクの乗り方教えた事言え‥‥」
ヒソヒソと小声での会話が続く。
「虎君にはボクシングとか、バイクの乗り方教えてもらったんだよ!」
通販の宣伝する店員みたいに、秋人は威勢良く声を張る。
「へー?そうなんだ」
「そうだよ~」
好感触な返事を聞いた秋人は、安心した様子で頷くが「でも‥‥、悪い事沢山してそう‥‥」と千夏には興味よりも恐怖が勝っている。
「オイ‥‥、何やって‥‥」
肘で押し小声で確認する虎太郎に「悪い事してそうだって‥‥」と秋人は思わず吹き出す。
「アホか!良い人や俺は!」
「良い人は自分で良い人って言わないよ~」
秋人が笑いだすと、千夏も話しやすくなったのか「良い人って例えば?」と初めて虎太郎に話し掛ける。
「‥‥、募金に五百円入れた事有るな間違えて‥‥」
「間違えてなら良い人じゃないよ~」
「アホ~!冗談や!他にも有るわ!」
やっと笑い合えた三人は、秋人を間に挟み伝言ゲームのような状態からも解放される。
「他って例えば‥‥?」
からかうような笑顔で千夏が聞くと「ちょっと‥‥、多過ぎて思い出せれんわ‥‥」と虎太郎は嬉しそうに笑ってごまかす。
病院内では珍しく年齢の近い三人が打ち解けるのに、そう時間は掛からなさそうだった。
「そうだ!せっかく来たんだし虎君もリハビリやってみたら?」
秋人の提案を軽く聞き流した虎太郎は「そんな事よりも‥‥、好きなタイプ聞いてくれ‥‥」と再び耳打ちして頼む。
「どうしたの‥‥?」
聞き取れなかった千夏が明るく聞き直すと「千夏ちゃんの好きなタイプってどんな人?」と秋人は臆する事無く尋ね。
千夏は少し困ったように考えると、照れながら「夢の有る人かな‥‥」と自信無さそうに答える。
「じゃあ嫌いなタイプは?」
「嘘つく人とケンカする人かな‥‥」
納得した様子で秋人が頷く。
「夢か~!それが中々見つからないんだよ~」
秋人が頭を抱えていると「そうでもないやろ!俺達にはバンドで売れるようになる夢が有るやろ!」と虎太郎は秋人の肩を軽く叩く。
「そうか~!そうだよね!ちなみに千夏ちゃんは何か夢って有る?」
「私は‥‥、詩を書くのが好きで‥‥、詩集を出すのが夢かな‥‥」
気恥ずかしいのか答えにくそうに千夏が答えると「スゴイやん!」と虎太郎は初めて千夏と直接話した。
「どんな感じ?それ読んでみたいな~!」
遠慮しない秋人の一言に千夏は少し躊躇う様子で考えていたが、意を決して鞄から小さなノートを取り出す。
「へ~、いっぱい書いてるね、ノート一杯だよ~」
受け取ったノートを読みながら秋人が呟くと、隣で黙っていた虎太郎がノートを取り上げる。
無言のまま真剣な表情で読む虎太郎の感想を、千夏は不安そうに見つめ待っている。
「良いやん!俺が曲にしたろか!」
曲作るどころかまだ少しも弾けるようになっていないのに、虎太郎は出来て当然のように言い切る。
「本当に‥‥?」
褒められたのが余程嬉しかったのか、聞き直す千夏の表情には一点の曇りも無い。
「だったら新しく曲用に歌詞作ってみるね」
「オウ!いつでも良いで待っとるわ」
共通の目的が出来たからか、最初に怖がっていた千夏も嘘みたいに打ち解けている。
「詩か‥‥、賞とか送ってみるのも良いかも‥‥」
「賞にはもう送ってて結果待ちなの‥‥」
期待で瞳を輝かす千夏に二人は「受賞すると良いな」「絶対大丈夫だよ~!」と笑顔で励ます。
千夏は嬉しそうに小さく頷くと、受け取ったノートを大事に鞄の中へしまった。
「曲作る為にも、そろそろ練習した方が良いよ~」
「お‥‥、オウ!そうやな‥‥」
秋人の一言で仕方なさそうに千夏と別れた虎太郎は、いつものように屋上で練習を始めるが「千夏ちゃんって入院してるんか?何の病気か聞いたか?」と練習そっちのけで千夏の事ばかり聞き、秋人を困らせる。
「そんなの聞けないよ~、今度会った時自分で聞いてみてよ~」
「今度逢えるかどうか解らんやろが、しまった‥‥連絡先聞いてない」
頭を抱える虎太郎に「リハビリ室に行くと会えると思うよ~」と秋人は何の心配もしていない。
「それ何時や?」
かぶりつくように質問する虎太郎とは対称的に「いつも昼位だったかな~」と秋人は適当な返事を返し。
「そういえばビックリしたよ~!さっき時間が止まったみたいだったよ~!」と虎太郎の恋心を見抜けない秋人は、無神経に話しを振り返る。
「何がや?普通やろシバくぞ!」
精一杯強がる虎太郎は、ごまかすようにギターを強く弾き鳴らす。
「それにしてもこのギター、コード押さえにくいな壊すぞ!」
話しを逸らし八つ当たりする虎太郎を「壊したら駄目だよ~」と理由も解らないまま秋人は宥めるが、気が静まらない虎太郎は更に強く叩き弾く。
それでも千夏との出会いでやる気は有るのか、虎太郎は一向に練習を辞めようとはしない。
「それよりも曲作れるなんて嘘ついちゃマズイよ~、まだ全然弾けないのに」
弱気な秋人の発言と同時に虎太郎は鋭い視線を返し、秋人は思わず口をつぐむ。
「アホか!出来るようになれば嘘ちゃうやろ!」
そう言い切る虎太郎の言葉に迷いは無かった。
そのせいか秋人は反論する事も無く、静かに頷き返す。
「まあバンドで売れるようになるは少し嘘になるかもな、俺の夢はビックマネーやからな!」
夢を叶える為には根拠無き自信が大事だというが、その自信が虎太郎に備わっているのは間違いなかった。
悪気無く虎太郎の目の前で手を振る秋人に気付いた虎太郎は「オッ‥‥、オウ!」と辛うじて男らしく返事を返すが、まだ様子はおかしい。
「あっ‥‥、そうだ紹介するよ千夏ちゃん、僕と同じ病室の虎太郎君」
虎太郎の見た目が余りにも別世界なせいか、千夏は控え目に会釈する。
「オ‥‥、オウ‥‥!ヨロシク‥‥」
たどたどしく何とか笑顔を返す虎太郎と、一般的な千夏との距離は簡単には縮まりそうにない。
「何か‥‥、恐そうな人ですね‥‥」
冗談っぽく千夏が告げると「え~?そんな事ないよ!優しいよ~!」と秋人は大袈裟に手を振り否定する。
「何やって‥‥?」
二人だけの会話を気にした虎太郎は、秋人に小声で聞き直す。
「何か恐そうだって‥‥」
「ボクシングとかバイクの乗り方教えた事言え‥‥」
ヒソヒソと小声での会話が続く。
「虎君にはボクシングとか、バイクの乗り方教えてもらったんだよ!」
通販の宣伝する店員みたいに、秋人は威勢良く声を張る。
「へー?そうなんだ」
「そうだよ~」
好感触な返事を聞いた秋人は、安心した様子で頷くが「でも‥‥、悪い事沢山してそう‥‥」と千夏には興味よりも恐怖が勝っている。
「オイ‥‥、何やって‥‥」
肘で押し小声で確認する虎太郎に「悪い事してそうだって‥‥」と秋人は思わず吹き出す。
「アホか!良い人や俺は!」
「良い人は自分で良い人って言わないよ~」
秋人が笑いだすと、千夏も話しやすくなったのか「良い人って例えば?」と初めて虎太郎に話し掛ける。
「‥‥、募金に五百円入れた事有るな間違えて‥‥」
「間違えてなら良い人じゃないよ~」
「アホ~!冗談や!他にも有るわ!」
やっと笑い合えた三人は、秋人を間に挟み伝言ゲームのような状態からも解放される。
「他って例えば‥‥?」
からかうような笑顔で千夏が聞くと「ちょっと‥‥、多過ぎて思い出せれんわ‥‥」と虎太郎は嬉しそうに笑ってごまかす。
病院内では珍しく年齢の近い三人が打ち解けるのに、そう時間は掛からなさそうだった。
「そうだ!せっかく来たんだし虎君もリハビリやってみたら?」
秋人の提案を軽く聞き流した虎太郎は「そんな事よりも‥‥、好きなタイプ聞いてくれ‥‥」と再び耳打ちして頼む。
「どうしたの‥‥?」
聞き取れなかった千夏が明るく聞き直すと「千夏ちゃんの好きなタイプってどんな人?」と秋人は臆する事無く尋ね。
千夏は少し困ったように考えると、照れながら「夢の有る人かな‥‥」と自信無さそうに答える。
「じゃあ嫌いなタイプは?」
「嘘つく人とケンカする人かな‥‥」
納得した様子で秋人が頷く。
「夢か~!それが中々見つからないんだよ~」
秋人が頭を抱えていると「そうでもないやろ!俺達にはバンドで売れるようになる夢が有るやろ!」と虎太郎は秋人の肩を軽く叩く。
「そうか~!そうだよね!ちなみに千夏ちゃんは何か夢って有る?」
「私は‥‥、詩を書くのが好きで‥‥、詩集を出すのが夢かな‥‥」
気恥ずかしいのか答えにくそうに千夏が答えると「スゴイやん!」と虎太郎は初めて千夏と直接話した。
「どんな感じ?それ読んでみたいな~!」
遠慮しない秋人の一言に千夏は少し躊躇う様子で考えていたが、意を決して鞄から小さなノートを取り出す。
「へ~、いっぱい書いてるね、ノート一杯だよ~」
受け取ったノートを読みながら秋人が呟くと、隣で黙っていた虎太郎がノートを取り上げる。
無言のまま真剣な表情で読む虎太郎の感想を、千夏は不安そうに見つめ待っている。
「良いやん!俺が曲にしたろか!」
曲作るどころかまだ少しも弾けるようになっていないのに、虎太郎は出来て当然のように言い切る。
「本当に‥‥?」
褒められたのが余程嬉しかったのか、聞き直す千夏の表情には一点の曇りも無い。
「だったら新しく曲用に歌詞作ってみるね」
「オウ!いつでも良いで待っとるわ」
共通の目的が出来たからか、最初に怖がっていた千夏も嘘みたいに打ち解けている。
「詩か‥‥、賞とか送ってみるのも良いかも‥‥」
「賞にはもう送ってて結果待ちなの‥‥」
期待で瞳を輝かす千夏に二人は「受賞すると良いな」「絶対大丈夫だよ~!」と笑顔で励ます。
千夏は嬉しそうに小さく頷くと、受け取ったノートを大事に鞄の中へしまった。
「曲作る為にも、そろそろ練習した方が良いよ~」
「お‥‥、オウ!そうやな‥‥」
秋人の一言で仕方なさそうに千夏と別れた虎太郎は、いつものように屋上で練習を始めるが「千夏ちゃんって入院してるんか?何の病気か聞いたか?」と練習そっちのけで千夏の事ばかり聞き、秋人を困らせる。
「そんなの聞けないよ~、今度会った時自分で聞いてみてよ~」
「今度逢えるかどうか解らんやろが、しまった‥‥連絡先聞いてない」
頭を抱える虎太郎に「リハビリ室に行くと会えると思うよ~」と秋人は何の心配もしていない。
「それ何時や?」
かぶりつくように質問する虎太郎とは対称的に「いつも昼位だったかな~」と秋人は適当な返事を返し。
「そういえばビックリしたよ~!さっき時間が止まったみたいだったよ~!」と虎太郎の恋心を見抜けない秋人は、無神経に話しを振り返る。
「何がや?普通やろシバくぞ!」
精一杯強がる虎太郎は、ごまかすようにギターを強く弾き鳴らす。
「それにしてもこのギター、コード押さえにくいな壊すぞ!」
話しを逸らし八つ当たりする虎太郎を「壊したら駄目だよ~」と理由も解らないまま秋人は宥めるが、気が静まらない虎太郎は更に強く叩き弾く。
それでも千夏との出会いでやる気は有るのか、虎太郎は一向に練習を辞めようとはしない。
「それよりも曲作れるなんて嘘ついちゃマズイよ~、まだ全然弾けないのに」
弱気な秋人の発言と同時に虎太郎は鋭い視線を返し、秋人は思わず口をつぐむ。
「アホか!出来るようになれば嘘ちゃうやろ!」
そう言い切る虎太郎の言葉に迷いは無かった。
そのせいか秋人は反論する事も無く、静かに頷き返す。
「まあバンドで売れるようになるは少し嘘になるかもな、俺の夢はビックマネーやからな!」
夢を叶える為には根拠無き自信が大事だというが、その自信が虎太郎に備わっているのは間違いなかった。
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