雨のバンドネオン

雨実 和兎

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〈嘘と夢〉1

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この日は暇を持て余し尋ねて来た秋人の悪友三人が、我が家のようにくつろぎ病室を占領していた。

「おい~、あんまチラチラ見んなや~」

虎太郎を警戒してか、三人はクスクスと小声で笑い余計に目立っている。

「アイツそれにしてもトイレ遅いな~!ウンコマンか~!」

「水掛けに行ったるか?キレイに流したろ~や!」

下品な笑い声と会話が響く病室では一人ずつ患者が退室して行き、患者では虎太郎だけが残っていた。

「それよりも先に配って罠作ろうや」

「アイツ、バカやで絶対気付かんやろ~、ウンコ臭いし」

「じゃあ俺フルハウス~!金全部巻き上げた~ろや~!」

撒き散らしていたトランプを集めた三人は、各々好きなカードを選び始める。

「オイッ、お前達うるせーぞ」

耐え兼ねた虎太郎の一言で一瞬場は静まるが、今にも噛み付き掛かりそうに三人は立ち上がる。

「な~んか聞こえんかった~?」

「ど~このもんですか~?」

ニヤつく顔を見合わせた三人は、ベットで座っている虎太郎を睨み詰め寄っていくが「鉄鬼の虎太郎や」と三対一に臆する事も無く睨み返す虎太郎に、三人はたじろぎ立ち止まってしまう。

たじろぐ理由はそれだけでは無かった、それは鉄鬼というチーム名がそれなりに有名だという事実だった。

「ゴメンねゴメンね~、ゲーセンでも行こうぜ~」

「お~邪魔しました~」

冗談っぽくはぐらかして三人は病室を出て行くが、その表情は例えようのない程悪意に満ちていた。

 数分後病室に戻って来た秋人は、余程急いでいたのか息を切らし立ち止まる。

「あれっ‥‥?誰も居ない‥‥?」

三人からのイタズラを警戒しながら、秋人が辺りをウロウロ探し始めると「オイ!アイツ達なら、帰ったぞ」とうそぶく虎太郎は、さっきの揉め事が大した出来事でもなかったように再びバイク雑誌を開く。

「アレ~?何でだろう‥‥?」

不思議そうに首を傾げる秋人は、しきりに携帯を確認するが三人からの連絡は何一つ無い。

その頃ゲームセンターに向かい病院を出た三人は、置いてきぼりにした秋人の事など全く気にもしていなかった。

「何が鉄鬼やっちゅ~の!俺の鉄拳食らわしたればアレ絶対泣くで~!」

「どうせ嘘ちゃうの~?ハッタリやろ」

「マジで?嘘やったん?殴っとけば良かった~」

不機嫌をごまかすように三人は冗談を言い合うが、その恨みがそれだけで済むはずがなかった。

 この日から秋人の悪友が病院に来る事は無くなったが、それと同時に何故か秋人が病室に居る時間も少なくなっていた。

 数日後いつものように病室を抜け出す秋人を怪しんだ虎太郎は、こっそりと後を付けていく。

面倒臭さそうに隠れながらも虎太郎がそんな行動をする理由は、秋人を心配してなのは明白だった。

 数分後秋人が入って行ったリハビリ室からは楽しそうな笑い声が聞こえてくるが、壁は磨りガラスに覆われていて中の様子は解らない。

「アイツ‥‥、どういう事や‥‥?」

虎太郎が疑問を口にするのも不思議ではなかった、何故なら秋人にはリハビリの必要が無いからだった。

「邪魔するで~!」

チームで定番の冗談を言いながら虎太郎は扉を開けるが、何故かリハビリ室に入った入口で立ち止まってしまう。

「アレッ‥‥?虎君リハビリするの?」

壁際に女子と座っていた秋人が気付いて話し掛けるが、虎太郎はまるで石像のように固まって返事も返せない。

その理由が不思議そうに虎太郎を見つめ返す女子なのは誰の目にも明らかで、正に虎太郎が恋に落ちた瞬間だった。
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