28 / 32
<友情と約束>2
しおりを挟む
「待っとけよハッピー、すぐに着くからな!」
健太はケージの中に居るハッピーに話し掛けるが
「すぐには着かないですよ」とハッピーの代わりに、呆れた表情でハカセが答える。
三人が自転車で走り続けて数十分経つと「腹減ったな~、休憩しよう!」と立ち止まった健太はリュックからパンを取り出す。
「もう休憩ですか?帰るの遅くなりますよ」
ハカセは心配そうに時計を見つめているが「大丈夫やって、アリバイ工作もしてるし!」と健太は気にもせず、チビにパンを分け与えている。
「仕方ないですね‥‥」
渋々と自転車を降りたハカセは、通路の隅に座りスポーツドリンクを口に含む。
休憩から数時間後、自転車で走り続けた三人は口数も少なくなり始めていた。
「熱っち~!てるてる坊主デカすぎるんかな~!」
まだ愚痴をこぼす元気が有る健太とは対象的に、ハカセとチビが乗る自転車の足取りは重い。
「本当に着けるのか先が思いやられますね‥‥」
息を切らし呟くハカセの心配とは裏腹に、数時間後三人は目的地に辿り着いていた。
「よっしゃ!ハッピー着いたぞ~!」
目の前に広がる森林に癒されてか、疲れきっているはずの三人の表情は明るい。
「では放してあげますか‥‥」
ハカセが名残惜しそうにハッピーを見つめていると「その前に応援したらな!」と健太は太鼓を指差す。
「やっと太鼓の出番ですね」
顔を見合わせた三人が厳かに立ち並ぶと、ハカセが叩く太鼓の音が響き始める。
「ハッピーの新たなる旅立ちと成功を願いまして~!三々七拍~子!」
いつものように健太の大きな声が、七桜山のふもとに響き渡る。
応援を終えた三人は、全員笑顔で木魂する声援の余韻に浸っていた。
「いよいよ、お別れの時が来たな!」
そう言って健太がケージの蓋に手を掛けると「無事に生きていけたら良いですけどね‥‥」とハカセはまだ心配そうな表情をしている。
「じゃあ‥‥開けるで」
緊張した面持ちで健太が視線を送ると、ハカセとチビは静かに頷く。
蓋を開けたと同時にハッピーはケージから飛び立ち、立ち止まる事も無く羽ばたき去って行く。
「た~まや~!元気でな~!」
健太の嬉しそうな声が響く中、三人はずっと七桜山を見上げていた。
「あの状況で、たまや~は変ですよ!」
座り込み一息入れる健太に、ハカセは駄目出しを言い始めるが「景気良いやろ!?」と健太は誉め言葉と勘違いしている。
「新しい仲間が見つかると良いですね」
「そうやな、俺達みたいに良い仲間やったら良いな‥‥」
感傷に浸り森林を見つめる三人の上空では、小鳥達が仲良さそうに空を飛び回っていた。
「そうや!約束しよう!」
健太の突然な提案にハカセは「‥‥何の約束ですか?」と不可思議な表情を返す。
「中学生になっても三人で一緒に応援団やる約束!」
期待で瞳を輝かす健太にハカセは「そういう事ですか、僕は良いですよ!他にやりたい事も無いので」と大して考えた様子も無く即答する。
健太とハカセの期待する眼差しがチビに移ると、チビは聞かれるのを待っていたかのように笑顔で頷き返した。
「よっしゃ!決まりや!」
健太が笑顔で差し出した小指に、笑顔を返す二人も小指を絡め三人は指切りする。
「その頃までにチビも喋れるようになると良いよな!」
悪気も裏表も無い健太が言ったからか、チビは少しも嫌そうな顔をせず笑顔で頷く。
三人の眼前に悠然とそびえ立つ七桜山の姿は、まるで三人の約束を見守っているかのようだった。
「アカン‥‥、やっぱりパンだけでは力が出んな‥‥」
「準備が悪いからですよ、やはり米を食べないと駄目ですよ」
帰り道を走り始めて数時間、こずかいを使い切った健太はジュースを買う事すら出来なくなっている。
「法律で一回応援すると百円貰えるとかにならへんかな~」
「そんな法律有り得ないですよ」
「それやったら大金持ちやねんけどな~」
健太は羨ましそうに自動販売機を見つめている。
それから三人は更に数時間走り続け、いつの間にか辺りは暗くなり始めていた。
「アカン‥‥水飲みすぎて気持ち悪い‥‥」
「まだ太鼓が無いだけでも、良い方ですよ‥‥」
運悪く坂道に差し掛かかった三人の雰囲気は暗く重い。
「そろそろ親が心配し始める頃ですかね‥‥」
ハカセが不安そうに陽の落ちた空を眺めていると「それどころちゃうな!ペダル踏むと腹がタプンタプンしてる」と相変わらず健太は無関心を貫く。
「お腹空いたからって水ばかり、がぶ飲みするからですよ」
「水は身体に良いん‥‥やぞ!ウップ‥‥」
「言いきれてませんよ!」
長々と続く坂道で息を切らしながらも、三人の笑い声が絶える事は無かった。
そんな三人の友情と約束に影が差すように、チビの家では母親が深刻な表情で話し込んでいた。
ため息混じりに電話を切った母親は、まるで深呼吸するかのように深く深く息を吐く。
そんな室内の照度すら変えてしまう程、重い空気にしていた母親の話し相手はチビの担任だった。
健太はケージの中に居るハッピーに話し掛けるが
「すぐには着かないですよ」とハッピーの代わりに、呆れた表情でハカセが答える。
三人が自転車で走り続けて数十分経つと「腹減ったな~、休憩しよう!」と立ち止まった健太はリュックからパンを取り出す。
「もう休憩ですか?帰るの遅くなりますよ」
ハカセは心配そうに時計を見つめているが「大丈夫やって、アリバイ工作もしてるし!」と健太は気にもせず、チビにパンを分け与えている。
「仕方ないですね‥‥」
渋々と自転車を降りたハカセは、通路の隅に座りスポーツドリンクを口に含む。
休憩から数時間後、自転車で走り続けた三人は口数も少なくなり始めていた。
「熱っち~!てるてる坊主デカすぎるんかな~!」
まだ愚痴をこぼす元気が有る健太とは対象的に、ハカセとチビが乗る自転車の足取りは重い。
「本当に着けるのか先が思いやられますね‥‥」
息を切らし呟くハカセの心配とは裏腹に、数時間後三人は目的地に辿り着いていた。
「よっしゃ!ハッピー着いたぞ~!」
目の前に広がる森林に癒されてか、疲れきっているはずの三人の表情は明るい。
「では放してあげますか‥‥」
ハカセが名残惜しそうにハッピーを見つめていると「その前に応援したらな!」と健太は太鼓を指差す。
「やっと太鼓の出番ですね」
顔を見合わせた三人が厳かに立ち並ぶと、ハカセが叩く太鼓の音が響き始める。
「ハッピーの新たなる旅立ちと成功を願いまして~!三々七拍~子!」
いつものように健太の大きな声が、七桜山のふもとに響き渡る。
応援を終えた三人は、全員笑顔で木魂する声援の余韻に浸っていた。
「いよいよ、お別れの時が来たな!」
そう言って健太がケージの蓋に手を掛けると「無事に生きていけたら良いですけどね‥‥」とハカセはまだ心配そうな表情をしている。
「じゃあ‥‥開けるで」
緊張した面持ちで健太が視線を送ると、ハカセとチビは静かに頷く。
蓋を開けたと同時にハッピーはケージから飛び立ち、立ち止まる事も無く羽ばたき去って行く。
「た~まや~!元気でな~!」
健太の嬉しそうな声が響く中、三人はずっと七桜山を見上げていた。
「あの状況で、たまや~は変ですよ!」
座り込み一息入れる健太に、ハカセは駄目出しを言い始めるが「景気良いやろ!?」と健太は誉め言葉と勘違いしている。
「新しい仲間が見つかると良いですね」
「そうやな、俺達みたいに良い仲間やったら良いな‥‥」
感傷に浸り森林を見つめる三人の上空では、小鳥達が仲良さそうに空を飛び回っていた。
「そうや!約束しよう!」
健太の突然な提案にハカセは「‥‥何の約束ですか?」と不可思議な表情を返す。
「中学生になっても三人で一緒に応援団やる約束!」
期待で瞳を輝かす健太にハカセは「そういう事ですか、僕は良いですよ!他にやりたい事も無いので」と大して考えた様子も無く即答する。
健太とハカセの期待する眼差しがチビに移ると、チビは聞かれるのを待っていたかのように笑顔で頷き返した。
「よっしゃ!決まりや!」
健太が笑顔で差し出した小指に、笑顔を返す二人も小指を絡め三人は指切りする。
「その頃までにチビも喋れるようになると良いよな!」
悪気も裏表も無い健太が言ったからか、チビは少しも嫌そうな顔をせず笑顔で頷く。
三人の眼前に悠然とそびえ立つ七桜山の姿は、まるで三人の約束を見守っているかのようだった。
「アカン‥‥、やっぱりパンだけでは力が出んな‥‥」
「準備が悪いからですよ、やはり米を食べないと駄目ですよ」
帰り道を走り始めて数時間、こずかいを使い切った健太はジュースを買う事すら出来なくなっている。
「法律で一回応援すると百円貰えるとかにならへんかな~」
「そんな法律有り得ないですよ」
「それやったら大金持ちやねんけどな~」
健太は羨ましそうに自動販売機を見つめている。
それから三人は更に数時間走り続け、いつの間にか辺りは暗くなり始めていた。
「アカン‥‥水飲みすぎて気持ち悪い‥‥」
「まだ太鼓が無いだけでも、良い方ですよ‥‥」
運悪く坂道に差し掛かかった三人の雰囲気は暗く重い。
「そろそろ親が心配し始める頃ですかね‥‥」
ハカセが不安そうに陽の落ちた空を眺めていると「それどころちゃうな!ペダル踏むと腹がタプンタプンしてる」と相変わらず健太は無関心を貫く。
「お腹空いたからって水ばかり、がぶ飲みするからですよ」
「水は身体に良いん‥‥やぞ!ウップ‥‥」
「言いきれてませんよ!」
長々と続く坂道で息を切らしながらも、三人の笑い声が絶える事は無かった。
そんな三人の友情と約束に影が差すように、チビの家では母親が深刻な表情で話し込んでいた。
ため息混じりに電話を切った母親は、まるで深呼吸するかのように深く深く息を吐く。
そんな室内の照度すら変えてしまう程、重い空気にしていた母親の話し相手はチビの担任だった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
夕陽が浜の海辺
如月つばさ
ライト文芸
両親と旅行の帰り、交通事故で命を落とした12歳の菅原 雫(すがわら しずく)は、死の間際に現れた亡き祖父の魂に、想い出の海をもう1度見たいという夢を叶えてもらうことに。
20歳の姿の雫が、祖父の遺した穏やかな海辺に建つ民宿・夕焼けの家で過ごす1年間の日常物語。
宇宙との交信
三谷朱花
ライト文芸
”みはる”は、宇宙人と交信している。
壮大な機械……ではなく、スマホで。
「M1の会合に行く?」という謎のメールを貰ったのをきっかけに、“宇宙人”と名乗る相手との交信が始まった。
もとい、”宇宙人”への八つ当たりが始まった。
※毎日14時に公開します。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる