63 / 143
<美味と企み>
しおりを挟むギルドを出てガルのメンバーと別れた俺達は、教えてもらった宿屋に向かい町を歩いていた。
通りの店で服を買い着替えたので、もう変に注目される心配もない。
思いの外ミノタウロスの角が高く売れたようなので、其のおかげだったと云える。
当分の間は魔王城に戻らないつもりだが、安宿なら数日は大丈夫だろう。
「アレ、美味しそう」
そう言ってエミリが駆け寄った出店では、たこ焼きらしき丸い食べ物が売っている。
「たこ焼きみたい~! 」
鉄板こそ少しいびつではあるが、確かにエミリの言うとおりたこ焼きにしか見えない。
食の進化が同じなのか偶然の一致なのかは疑問だが、エミリが喜ぶなら何でも良いか。
「コレ二つ下さい」
「ハイどうぞ、ターコ焼きだよ」
ほぼ料理名も同じとは、もしかして転生者なのか。
店主はどこにでも居そうな普通のオジサンなので、そうは見えないが。
エミリが待ちきれず飛び跳ねているので、取り敢えず食べてから聞いてみるとしよう。
「美味しい~! 」
喜ぶエミリを横目に俺も一口頬張ってみると、旨い。
タレの味は現世と少し違うが、
久しぶりにマトモな食べ物を食べた気がする。
「旨いだろ、わざわざ流行りのレシピを購入したんだからな~」
自慢気にオジサンは語り、満足そうに俺達を見ている。
「其のレシピ作製者の名前って解りますか? 」
「阪口 ケータだったかな、ここらじゃ珍しい名前だろ。レシピで随分稼いだみたいだから、羨ましいこった」
間違いない、俺達と同じ転生者だ。
エミリとトウが転生者なのは自分が魔王じゃないと話した日に聞いて知ったのだが、他にも居るかもしれないのが解ったのは大きい。
まあ名前からして明らかに日本人だから、探すのは難しくはないだろう。
そう俺が確信した時、隣でターコ焼きを頬張っていたトウが呟く。
「ンゴ、ング。聞いた事の在る名前だな、確か面接の時に来てた若い男だ」
面接って何だ? 正直トウとエミリも転生者って事以外は、過去を知らない。
これから知っていけば良いかなんて考えながら俺は、満足顔のエミリを見つめる。
ターコ焼きを食べ終え宿屋に着いた俺達は、宿泊の手続きをしようとしていた。
「一部屋でお願いします」
女将さんにそう言うと、トウが鋭い視線で俺を刺す。
「どうしますか?」
嫌な空気を察した女将の問いに、俺達は口ごもる。
「多少の金は出来たが、節約しないとな……」
俺の言い訳を聞いても、まだトウは俺を睨み続けている。
鳥のくせに、もしかしてコイツもエミリを狙っているのか。
「解りました、一部屋でお願いします」
正に鶴の一声。
エミリの言う事にはトウも逆らえないらしく、仕方なさそうに黙っている。
その頃。
魔王城の地下では新しく仲間になったジャイアントモォールが、寝床用に掘った洞穴で眠っていると近付く足音に目を覚ます。
作ったばかりの寝床で誰も知らず、誰かが来るはずなんてないにも関わらず。
知っていて当然と言わんばかりに、迷いなく足音は近付いて来る。
立ち上がり警戒するジャイアントモォールをからかう様に、クククと笑い声が響く。
「貴方が新しいお仲間ですね、私は参謀をしているウスロスと申します」
ウスロスは喋る言葉の節々に奇妙な笑い声を挟み、其の不気味さからか警戒され続けている。
「実は貴方の力を見込んで、頼みたい事が在るのですが」
「オラに頼みっでが? 」
「そうです。此の地下に大迷宮を掘ってほしいのです、正に貴方にしか出来ない大仕事」
そんな誉め言葉も時折混ぜる笑い声のせいで、馬鹿にしている様にしか聞こえない。
だがジャイアントモォールは気付いてなさそうに、胸を張り笑顔を返すのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
ハズレもふもふ使い魔と最強目指して旅をする
あさじなぎ@小説&漫画配信
ファンタジー
大学からの帰り道、俺はもふもふの黒い子犬を拾う
その子犬は変な子犬で、口を大きく開いたかと思うと俺はその口の中に吸い込まれてしまった
そして気が付くと、俺は魔術師になるための試験を受けていた
そこで呼び出した使い魔は、俺を飲み込んだ黒い子犬だった
俺は魔術師の学校で一年間勉強をしたのち、旅に出ることを選ぶ
その旅の中で俺は子犬の正体を知る
子犬を元の姿に戻すため、百個のマギを捜す旅をしながら俺は最強の魔術師を目指す
魔王の妃がただの娘じゃダメですか
狼子 由
恋愛
【完結済み】働いていた喫茶店をクビになったナリアは、なりゆきで魔王領へ行くことになった。
ところが、はなむけに常連客のアウレリオから貰った宝玉に目をつけられ、魔王領の入り口でとらえられる。引き出された玉座の間で、少年魔王は、ナリアを妻にと望むのだった。
※小説家になろうに掲載していたお話を改稿したものです。
※表紙イラストはイラストACさん(https://www.ac-illust.com/)からお借りしています。
せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに兄は男に妹は女にモテすぎる。
風和ふわ
恋愛
「なんでお前(貴女)が俺(私)に告白してくるんだ(のよ)!?」
二卵生の双子である山田蓮と山田桜がドハマりしている主人公性別選択可能な恋愛ゲーム「ときめき☆ファンタスティック」。
双子は通り魔に刺されて死亡後、そんな恋愛ゲームの主人公に転生し、エボルシオン魔法学園に入学する。
双子の兄、蓮は自分の推しである悪役令嬢リリスと結ばれる為、
対して妹、桜は同じく推しである俺様王子レックスと結ばれる為にそれぞれ奮闘した。
──が。
何故か肝心のリリス断罪イベントでレックスが蓮に、リリスが桜に告白するというややこしい展開になってしまう!?
さらには他の攻略対象男性キャラ達までも蓮に愛を囁き、攻略対象女性キャラ達は皆桜に頬を赤らめるという混沌オブ混沌へと双子は引きずり込まれるのだった──。
要約すると、「深く考えては負け」。
***
※桜sideは百合注意。蓮sideはBL注意。お好きな方だけ読む方もいらっしゃるかもしれないので、タイトルの横にどちらサイドなのかつけることにしました※
BL、GLなど地雷がある人は回れ右でお願いします。
書き溜めとかしていないので、ゆっくり更新します。
小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ、カクヨム、pixivで連載中。
表紙はへる様(@shin69_)に描いて頂きました!自作ではないです!
普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした
桜井吏南
ファンタジー
え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?
私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。
お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。
仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。
そして明かされたお父さんの秘密。
え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?
だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。
私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。
心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。
そして私の秘められし力とは?
始まりの章は、現代ファンタジー
聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー
完結まで毎日更新中。
表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる