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4 なのに……
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利用しろって向こうが言うんだから、それはそうして、それ以外は計画通り働き口を見つけて、ちゃんと生活していけばいい。
「むしろ自分でちょっと遊んでみようかな」
恋人を演じで弄ぶ。わけではなく、慎ましく暮らそうと考えていたのを、少し緩めようと思いなおした。
物欲はないが、趣味ぐらいまともに持ちたいとは思っているし、どうせ働き出したら最初はそれを探す余裕なんてないだろうから、この次の就職先が見つかるまでの貴重な隙間時間に羽を伸ばすのは悪くない気がしてくる。
そう思うと、やっぱりこんなところにいる場合ではない。多くない貯金でも体験できるものを探して、なんなら短期のバイトで資金を増やしてもいい。
そもそもバイトも今まで考えてなかったようなのを選んでみるのも楽しそうだ。
初めてと思うほどにワクワクし始めた。
「よし!」
「どうした?」
俺の気合にちょうど戻ってきた井ノ上が怪訝そうに反応した。
「俺やっぱり帰ります」
「なんだ?」
「ズボン返してもらえますか」
「洗濯した」
なんで下だけ洗うんだと一瞬イラっとしたが、もしかしたらさっきの行為の途中で自分で汚した可能性も否定できないので、すぐに切り替えた。
「じゃあなんでもいいので貸してください。ちゃんと返しますから」
扉あたりに凭れた井ノ上は口角を上げて、首を傾げた。
「本気で帰れると思ってるのか」
「俺、忙しいんですよ。やることいっぱいあるんで」
「職探しか?」
「ある意味そうですけど。あなたには関係ないんで」
さすがに気分を害したのか、井ノ上は俺の隣に座り、近い距離で見つめてくる。
「さっきの俺の話聞いておいてよくそんなセリフを。何がどう忙しいのかしっかり説明しなければ解放しない」
「言ったところで本当に関係ないんで」
目を逸らして手元を見る自分の弱さが憎らしい。
「だったら話しても問題ないだろう」
「話したらさっさと帰してくださいよ」
俺はざっと、バイト探しと趣味探しをする旨を伝える。
嘲られるだろうと思ったが、それこそ関係ないと思っていたらその反応は意外にも好意的だった。
「どんなのものを考えているんだ?」
「バイトの方? 趣味?」
「まずは趣味だな」
片膝だけベッドに乗せて、より俺の方に向き直る姿にどうしてそんなに興味ありそうにするのか、どんな演技プランなんだろうと疑わしくはあったけど、とりあえず真剣に考えてみた。
「そうだなー、サーフィンとか? ダイビングでもいいな。いままで縁がなかったから一回チャレンジしてみたい。あとはソロキャンとか、最近よく聞くし、そういう特集の雑誌とかも多いだろうから始めやすいかも」
「アウトドア系がいいのか?」
「うーん、陶芸とかもいいかも、意外に手芸とか! 俺実は手先器用系男子なんだよ。やったら楽しめるかもしれない。アクセ作ってみようかな。料理はちょっと趣味にするほど楽しめない気がするしな、日頃の分だけでいいって感じだし。あと趣味って言ったら、楽器とか? んー、センスないんだけど、やれば面白いかな」
話し出すと楽しくてあれこれ浮かぶ。王道だけでもこれだけ興味があるものが多い。もしやってはまらなかったらそこからいくらでもマイナーなものを探っていけそうだ。
「あとは、漫画読んでみたい。今までまったく知らないけど、大人でも読んでる人いっぱいいるんだから今から俺が読んでもきっと面白いはず。あーやっぱりバイトしよう! 金掛かりそうだし、でも時間も欲しい」
井ノ上は数回頷く。
「バイトは何をするんだ?」
「いろいろやる。生活費はしばらく貯金でも大丈夫だから、趣味ための金集めの短期でいいし」
「だったら効率いいほうがいいだろ?」
「効率? 時給的なこと?」
「俺のそばにいればいい」
そういうことかと納得した。
「何それ、もしかして体でってこと?」
「そんなわけあるか。お前とのセックスはお互いを感じあって愛し合う行為だ」
愛し合ってない。少なくとも俺にはない。
「あんた、見た目がいいから得してるのかもしれないけど。俺にはかなりマイナスだよ」
「どういう意味だ」
もしご老人が相手だったり、ちょっと特殊な趣味だったりした人が相手で、そういう人が嘘でも俺を好きになったからって言ってくれたら少し信じたかもしれない。少しだけど。
俺自身が凡庸過ぎるし、相手を喜ばすスキルもない。もしかしたら変態さんはどんな相手でもいいのかもしれないけど、イメージとしたらやっぱり可愛かったり、何かしら魅力ある人を好むような気がする。
俺はすでに若くもない。
そんな俺を欲しいと言う人は、俺なんかでも何か役に立てると思わせてくれる人じゃないと信用できない。
まだ自虐の沼から抜けきれてない俺だから、そんな風につい思う。
金と引き換えにしないと相手が見つからないなんて、と失礼にも思うわけだ。
でもだから安心する。
お金を使ってでも俺の身体を欲してくれるのだと、ある意味そこが信用できる。
その点、目の前の男はどうだ。
俺の身体なんて使わなくても絶対に他が見つかるはずだ。じゃあ何が目的だ。
俺には分からないが、実家関係の裏があるとしか思えない。
取引に使えるなんていう価値ではなく、恨みの八つ当たりとか、気晴らしとかそんな感じに違いない。
俺じゃなくてもいいことにこれ以上振り回されたくない。
「あんたの話は絶対に信用しない」
「そう意固地になるな」
救世主だと思ってたら、敵だった。
期待することすらしたくなかった。
なかったのに。
なかったのに! どうしてこうなっている!?
「あっ、ひゃッ……あぁあ、あ、あっ、あ」
「威」
「あっ、ヤバっ、きもちいい……ああ、んああ、きもち、よすぎるッ」
「全部咥え込めるようになって、より素直になったな」
ベッドに腰だけ高く上げた状態でうつ伏せになっている所を、後ろからその腰を支えるように貫く井ノ上は楽しそうに話す。
正直に言おう。
俺はこいつとのセックスにハマってしまった。
原因はいろいろある。
そもそも性的接触が初めてだったこと。
自覚があっても情緒が安定しきれなかったこと。
趣味を探そうとするほど時間に余裕があったこと。
バイトを探そうとすると邪魔してくること。
食事の世話を焼かれたこと。
相手が上手すぎたこと。
半分は完全に井ノ上のせいだ。
違うな、セックスにハマったのは完全に井ノ上のせい。
この数ヶ月、事あるごとに抱こうとして、隙あらば俺に気持ちいいことを仕掛けてきた。
その気持ちいいことってのが、大きな罠だった。
なに分俺は他を知らない。
エロい知識もほとんどない。マジで保健体育並み。
生理現象に対応するくらいしかしてこなかったから、井ノ上が次々してくることが初めは驚きで、でも流石井ノ上。驚きのまま放置しないで、何回かに分けてまで、俺にそれが快感だと知らしめた。
「おれっ、もぅっ、だめ……かもっ」
いろんな意味で。
終わったかも。
これが何かの復讐なら、大成功だ。
あとは捨てられて、この快楽を知った身体を俺は持て余して、落ちていくんだろう。
ボロボロになる自分を安易に想像できてしまう。
「あっ、あぁぁ………ぅうッうぅ」
「威、どうした?」
泣き出したのがバレた。
でも行為の最中泣くのなんて、これまでだってよくあった。過ぎる快感に戸惑って泣いたり、イキ過ぎてそれが苦しくなって泣いたり、一回あまりに優しくキスされまくって何故か泣けてしまったこともあった。
そんなとき俺はその涙の意味の説明なんて、できなかったりで言ったことはない。
だから今だって、首を振って誤魔化せば追求なんてされないと思った。
「なん、でもない」
うつ伏せだし、シーツに顔を埋もれされれば表情だって見えない。俺の感情なんて分かるはずもない。
例え顔が見える体勢に変えられたって同じだと思ったのに。
入れられたまま、ひっくり返された。
「ひ、ぅあぁぁあっっ」
「何が辛いんだ?」
「ぁっ、はぁはっ、つらく、ない」
「何か嫌なことでも思い出したか?」
「ちがう」
まさかお前に捨てられた後を考えて泣きましたなんて言うわけがない。
「大丈夫だ」
「なに」
「いつか安心させてやるから、今は泣いたっていい」
いつもにも増して真剣で、優しい声。
「だから、ちがう」
「ちゃんとずっと好きだからな」
だから、真顔でそんなこと言うな。
持て余すのは身体だけでいいのに、心まで持っていかれたら俺は立ち直る術(すべ)を知らない。
「いうな」
「大丈夫だ、何回でも言ってやる」
俺にそんなにしてくれなくていい。
そんなに良くしてくれても何も返せない。
井ノ上に抱かれても、俺が良くしてもらってる時間の方が圧倒的に長い。正直にいうと俺はなにもしてない。
飯の心配もしなくていいし、金もあの日から俺の手持ちからはほとんど出てない。だから一生の心配がなくなるほどじゃないけど貯金もそんままだし、少し財テクまでしてもらい始めている。
自分の部屋に帰ることもたまにはあるが荷物取ったりだけで泊まらないし、あの別荘だったりホテルだったり、井ノ上のマンションだったり、泊まるところはいろいろだけど、負担することはない。
「どうして、そんなに、してくれるの?」
「好きだって理由以外で言えば、威の色んな表情が見れるからだ」
「それだけ?」
「十分すぎるだろ」
そんな曖昧な答えで納得できるはずない。
なにか、きっと利益があるはずだ。
でもそんなの俺は検討もつかない。
1万歩譲って好きが理由だとしても、好きにしても尽くしすぎだ。
「威、まずは何もかも忘れて、俺に委ねてみろ」
「……そんな、怖いこと」
「何が怖い? 俺に裏切られること?」
「……うん」
「威にとって俺が裏切るってどんな行為だ?」
「それは」
考えて、恥ずかしくなった。
例えば、他の奴とヤッてたり。
例えば、知らないところで俺を馬鹿にしていたり。
例えば、俺なんかに本当は全然興味がなくて、暇つぶしとか。
「威」
考えて自分の本心を知ってしまった。
俺は、井ノ上に本気でいて欲しがっている。
疑ったり、恐がったりしてるってことは、もう認めたくないだけで、俺は、好きなんだ。
恋愛感情を知らないから、これが本当にそうなのかは分からない。でも、他の奴とは絶対にしたくないことを井ノ上とはしたいと思っている。
セックス依存になったらどうしようなんて、井ノ上にしてもらいたがってるだけで、誰とでもなんて考えたくもない。
「威、泣くなら顔隠すな」
「…………ゃだ」
これが罠なら、すでに深みにまでハマっている。
俺はなんて馬鹿なんだろう。
「ぅう……」
「威、動くぞ」
「ッぁ、……ぁあ、あっ、はっ、アッ」
顔を両手で覆っていたけど、井ノ上がどんどん激しく動くから縋るものが欲しくなって枕を思わず掴んだら、隙かさずキスが降ってきて、枕の手を井ノ上の背中に回すように促される。
そして久しぶりに記憶を飛ばすまで抱かれた。
気がつくと、既に起きていたのだろう井ノ上と目があった。
一緒にベッドで横になったまま、また無駄に俺の顔を見ていたのだろう。
「井ノ上」
「煌弥だ」
本当は名前なんて呼びたくない。
今までも何度も言われているけど、わざと直してこなかった。
だって、なんか。
特別感が増す気がする。
これ以上親しくなりたくなかったのに。
「……こーや」
「なんだ?」
嬉しそうに笑う煌弥に、また涙が滲む。
「俺、これ以上辛くなるのは嫌だ」
「次はちゃんと加減してやる」
「……エッチのことじゃなくて」
少し何か考えたあと煌弥は起き上がると、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でるとちょっと待ってろと言ってベッドから出ていく。
裸のままだからとりあえずパジャマを探すためにキョロキョロすると寝室からいなくなっていたはずなのに、煌弥がやってきてパジャマを手渡してくれる。
煌弥もTシャツとスエットを着ていた。
ベッドの上でもそもそと着終える頃に煌弥はまた戻ってくる。
朝には起きれなくて、すっかり昼食の時間。でも食欲なくて、取り敢えず野菜ジュースを出されて、しかもベッドの上でそれを飲んでいる。
「何が辛い?」
ゆっくり話を聞いてくれるらしい。
「不安。俺多分一生あなたと居ると不安だと思う。信用できてもできなくても、俺は未来を期待できないし、もう他人には何も求めたくない」
「それでいい」
俺の足元に座った煌弥は穏やかな表情だ。
「いいって、俺は良くない。俺は全然強くないから、期待したくなるし、勝手に求めちゃうんだ。そんな自分がまた嫌になって、虚しくなる」
「人間はすぐには変われないかもしれないが、何事もコツコツやっていくのが近道だったりする」
「変わるためになにかしろって? それこそ色々やった、こんなでも多少は努力してきた」
努力だけはしてきた、無意味で無価値な。もっと視野を広くして違う方向にすれば何か実ったかもしれないのに。
煌弥は俺の手元のコップを持ち上げるとサイドテーブルにおいて、俺を抱きしめてくれた。
「知っている。だからこそ、自己評価のあまりの低さに驚くことは多いくらいだ。でも俺の考える積み重ねは威の努力じゃなく、俺の愛だ」
「は、ぃ?」
耳元で言われたのも相まって、うまく言葉がでない。
「威は俺に愛されるのに慣れればいい、いきなり全部受け止めるのは難しいのは承知の上だから、毎日少しずつ感じてくれればいい」
戸惑いは増すばかり。
「そんな……俺は何も返せない」
「そんなことはない」
「何? やっぱりなにか」
なにかあるのだろうか。
お金はない、情報か?
それもあまり期待できないと思う。俺は何を渡せる?
考えても答えは出なかったけど、煌弥の答えは俺の想像の全然及ばないところにあった。
「威がここにいる、それが一番大事だ」
「……いる、だけ?」
そんなわけはない。
俺は少し体を離して煌弥の顔を見る。
優しく微笑んで、しっかり見つめてくる。
「それ以上に大切なことなどない」
「そんなはっきりと」
「一目惚れは減点方式だと言っていたな?」
「理想と違って幻滅してくって」
「俺は毎日加点されてくばかりだ」
「ひぇ?」
変な声出た。
ついでに目が泳ぐし、なんか顔も熱い。
「日々惚れていく」
「そんな馬鹿なこと」
「事実だ」
口八丁でも素晴らしいんじゃないだろうか。俺にそこまでいうなんて。
「なんか、あ、ありがと」
思わずお礼まで出てしまった。
別にそんな言葉をそのまま信じたわけじゃないけど、たとえ嘘でも俺にそんなに言ってくれることに感心してしまう。
俺にそんなこと言う人は初めてだ。
それも一回だけじゃなく、これまでも言い方は違えど似だようなことはいくらでも惜しむことなく伝えてくれる。
嘘でも騙されてても、一時それに酔うぐらいは自分に許してもいいかもしれない。
後で辛くたって、今とそう変わらない。やっぱりそうだったんだって思って今までみたいに一人で生きていくだけだ。そんなこと何十回、何百回ってしてきたんだし、あと一回くらい別にいい気がしてきた。
きっと酷い二日酔いの後悔と一緒だ。こんなに体調が悪くなるなら飲まなきゃよかったって思うけど、楽しく飲めたなら後でいい思い出になる。無理に悪い飲み方さえしなければいいんだ。
「威?」
「あ、ごめん」
つい、考え込んでいた。
「大丈夫か?」
「体はまだちょっとダルい」
自分でも珍しく素直な返事をしていた。
「ゆっくりしていろ、食事もここに運ぶ。それとも威を運ぼうか」
からかっているのか、本気なのか。俺には判断のしようがなかったから、任せることにした。
「どっちでもいいよ、あなたが楽な方で」
「少し進歩したな」
「ん?」
「今までだったら、意地でも自分で歩いてテーブルに行くって言い張ってるはずだ」
「あ」
そうかも。どちらも煩わせることだから、どっちでいいなんて言わないはずだ。
ただそれ以上に食事を用意させてる時点でどう考えても面倒かけてるし、そんなことを言い出したらここ最近のことなんか全部そうだ。
つまりは感覚が麻痺してくるほど、全てに手を焼かれているということだ。
「進歩とは言わない気がするけど」
「いや、いや、進歩進歩」
やたらと嬉しそうにされて恥ずかしさが増す。
「付き合った相手を駄目にするタイプってやつ?」
もちろん話でしか聞いたことはないけど、きっと違う気がする。
「ダメにしたいタイプ?」
「そうなのかも、自分でも新発見だ」
煌弥はとても楽しげだ。
「むしろ自分でちょっと遊んでみようかな」
恋人を演じで弄ぶ。わけではなく、慎ましく暮らそうと考えていたのを、少し緩めようと思いなおした。
物欲はないが、趣味ぐらいまともに持ちたいとは思っているし、どうせ働き出したら最初はそれを探す余裕なんてないだろうから、この次の就職先が見つかるまでの貴重な隙間時間に羽を伸ばすのは悪くない気がしてくる。
そう思うと、やっぱりこんなところにいる場合ではない。多くない貯金でも体験できるものを探して、なんなら短期のバイトで資金を増やしてもいい。
そもそもバイトも今まで考えてなかったようなのを選んでみるのも楽しそうだ。
初めてと思うほどにワクワクし始めた。
「よし!」
「どうした?」
俺の気合にちょうど戻ってきた井ノ上が怪訝そうに反応した。
「俺やっぱり帰ります」
「なんだ?」
「ズボン返してもらえますか」
「洗濯した」
なんで下だけ洗うんだと一瞬イラっとしたが、もしかしたらさっきの行為の途中で自分で汚した可能性も否定できないので、すぐに切り替えた。
「じゃあなんでもいいので貸してください。ちゃんと返しますから」
扉あたりに凭れた井ノ上は口角を上げて、首を傾げた。
「本気で帰れると思ってるのか」
「俺、忙しいんですよ。やることいっぱいあるんで」
「職探しか?」
「ある意味そうですけど。あなたには関係ないんで」
さすがに気分を害したのか、井ノ上は俺の隣に座り、近い距離で見つめてくる。
「さっきの俺の話聞いておいてよくそんなセリフを。何がどう忙しいのかしっかり説明しなければ解放しない」
「言ったところで本当に関係ないんで」
目を逸らして手元を見る自分の弱さが憎らしい。
「だったら話しても問題ないだろう」
「話したらさっさと帰してくださいよ」
俺はざっと、バイト探しと趣味探しをする旨を伝える。
嘲られるだろうと思ったが、それこそ関係ないと思っていたらその反応は意外にも好意的だった。
「どんなのものを考えているんだ?」
「バイトの方? 趣味?」
「まずは趣味だな」
片膝だけベッドに乗せて、より俺の方に向き直る姿にどうしてそんなに興味ありそうにするのか、どんな演技プランなんだろうと疑わしくはあったけど、とりあえず真剣に考えてみた。
「そうだなー、サーフィンとか? ダイビングでもいいな。いままで縁がなかったから一回チャレンジしてみたい。あとはソロキャンとか、最近よく聞くし、そういう特集の雑誌とかも多いだろうから始めやすいかも」
「アウトドア系がいいのか?」
「うーん、陶芸とかもいいかも、意外に手芸とか! 俺実は手先器用系男子なんだよ。やったら楽しめるかもしれない。アクセ作ってみようかな。料理はちょっと趣味にするほど楽しめない気がするしな、日頃の分だけでいいって感じだし。あと趣味って言ったら、楽器とか? んー、センスないんだけど、やれば面白いかな」
話し出すと楽しくてあれこれ浮かぶ。王道だけでもこれだけ興味があるものが多い。もしやってはまらなかったらそこからいくらでもマイナーなものを探っていけそうだ。
「あとは、漫画読んでみたい。今までまったく知らないけど、大人でも読んでる人いっぱいいるんだから今から俺が読んでもきっと面白いはず。あーやっぱりバイトしよう! 金掛かりそうだし、でも時間も欲しい」
井ノ上は数回頷く。
「バイトは何をするんだ?」
「いろいろやる。生活費はしばらく貯金でも大丈夫だから、趣味ための金集めの短期でいいし」
「だったら効率いいほうがいいだろ?」
「効率? 時給的なこと?」
「俺のそばにいればいい」
そういうことかと納得した。
「何それ、もしかして体でってこと?」
「そんなわけあるか。お前とのセックスはお互いを感じあって愛し合う行為だ」
愛し合ってない。少なくとも俺にはない。
「あんた、見た目がいいから得してるのかもしれないけど。俺にはかなりマイナスだよ」
「どういう意味だ」
もしご老人が相手だったり、ちょっと特殊な趣味だったりした人が相手で、そういう人が嘘でも俺を好きになったからって言ってくれたら少し信じたかもしれない。少しだけど。
俺自身が凡庸過ぎるし、相手を喜ばすスキルもない。もしかしたら変態さんはどんな相手でもいいのかもしれないけど、イメージとしたらやっぱり可愛かったり、何かしら魅力ある人を好むような気がする。
俺はすでに若くもない。
そんな俺を欲しいと言う人は、俺なんかでも何か役に立てると思わせてくれる人じゃないと信用できない。
まだ自虐の沼から抜けきれてない俺だから、そんな風につい思う。
金と引き換えにしないと相手が見つからないなんて、と失礼にも思うわけだ。
でもだから安心する。
お金を使ってでも俺の身体を欲してくれるのだと、ある意味そこが信用できる。
その点、目の前の男はどうだ。
俺の身体なんて使わなくても絶対に他が見つかるはずだ。じゃあ何が目的だ。
俺には分からないが、実家関係の裏があるとしか思えない。
取引に使えるなんていう価値ではなく、恨みの八つ当たりとか、気晴らしとかそんな感じに違いない。
俺じゃなくてもいいことにこれ以上振り回されたくない。
「あんたの話は絶対に信用しない」
「そう意固地になるな」
救世主だと思ってたら、敵だった。
期待することすらしたくなかった。
なかったのに。
なかったのに! どうしてこうなっている!?
「あっ、ひゃッ……あぁあ、あ、あっ、あ」
「威」
「あっ、ヤバっ、きもちいい……ああ、んああ、きもち、よすぎるッ」
「全部咥え込めるようになって、より素直になったな」
ベッドに腰だけ高く上げた状態でうつ伏せになっている所を、後ろからその腰を支えるように貫く井ノ上は楽しそうに話す。
正直に言おう。
俺はこいつとのセックスにハマってしまった。
原因はいろいろある。
そもそも性的接触が初めてだったこと。
自覚があっても情緒が安定しきれなかったこと。
趣味を探そうとするほど時間に余裕があったこと。
バイトを探そうとすると邪魔してくること。
食事の世話を焼かれたこと。
相手が上手すぎたこと。
半分は完全に井ノ上のせいだ。
違うな、セックスにハマったのは完全に井ノ上のせい。
この数ヶ月、事あるごとに抱こうとして、隙あらば俺に気持ちいいことを仕掛けてきた。
その気持ちいいことってのが、大きな罠だった。
なに分俺は他を知らない。
エロい知識もほとんどない。マジで保健体育並み。
生理現象に対応するくらいしかしてこなかったから、井ノ上が次々してくることが初めは驚きで、でも流石井ノ上。驚きのまま放置しないで、何回かに分けてまで、俺にそれが快感だと知らしめた。
「おれっ、もぅっ、だめ……かもっ」
いろんな意味で。
終わったかも。
これが何かの復讐なら、大成功だ。
あとは捨てられて、この快楽を知った身体を俺は持て余して、落ちていくんだろう。
ボロボロになる自分を安易に想像できてしまう。
「あっ、あぁぁ………ぅうッうぅ」
「威、どうした?」
泣き出したのがバレた。
でも行為の最中泣くのなんて、これまでだってよくあった。過ぎる快感に戸惑って泣いたり、イキ過ぎてそれが苦しくなって泣いたり、一回あまりに優しくキスされまくって何故か泣けてしまったこともあった。
そんなとき俺はその涙の意味の説明なんて、できなかったりで言ったことはない。
だから今だって、首を振って誤魔化せば追求なんてされないと思った。
「なん、でもない」
うつ伏せだし、シーツに顔を埋もれされれば表情だって見えない。俺の感情なんて分かるはずもない。
例え顔が見える体勢に変えられたって同じだと思ったのに。
入れられたまま、ひっくり返された。
「ひ、ぅあぁぁあっっ」
「何が辛いんだ?」
「ぁっ、はぁはっ、つらく、ない」
「何か嫌なことでも思い出したか?」
「ちがう」
まさかお前に捨てられた後を考えて泣きましたなんて言うわけがない。
「大丈夫だ」
「なに」
「いつか安心させてやるから、今は泣いたっていい」
いつもにも増して真剣で、優しい声。
「だから、ちがう」
「ちゃんとずっと好きだからな」
だから、真顔でそんなこと言うな。
持て余すのは身体だけでいいのに、心まで持っていかれたら俺は立ち直る術(すべ)を知らない。
「いうな」
「大丈夫だ、何回でも言ってやる」
俺にそんなにしてくれなくていい。
そんなに良くしてくれても何も返せない。
井ノ上に抱かれても、俺が良くしてもらってる時間の方が圧倒的に長い。正直にいうと俺はなにもしてない。
飯の心配もしなくていいし、金もあの日から俺の手持ちからはほとんど出てない。だから一生の心配がなくなるほどじゃないけど貯金もそんままだし、少し財テクまでしてもらい始めている。
自分の部屋に帰ることもたまにはあるが荷物取ったりだけで泊まらないし、あの別荘だったりホテルだったり、井ノ上のマンションだったり、泊まるところはいろいろだけど、負担することはない。
「どうして、そんなに、してくれるの?」
「好きだって理由以外で言えば、威の色んな表情が見れるからだ」
「それだけ?」
「十分すぎるだろ」
そんな曖昧な答えで納得できるはずない。
なにか、きっと利益があるはずだ。
でもそんなの俺は検討もつかない。
1万歩譲って好きが理由だとしても、好きにしても尽くしすぎだ。
「威、まずは何もかも忘れて、俺に委ねてみろ」
「……そんな、怖いこと」
「何が怖い? 俺に裏切られること?」
「……うん」
「威にとって俺が裏切るってどんな行為だ?」
「それは」
考えて、恥ずかしくなった。
例えば、他の奴とヤッてたり。
例えば、知らないところで俺を馬鹿にしていたり。
例えば、俺なんかに本当は全然興味がなくて、暇つぶしとか。
「威」
考えて自分の本心を知ってしまった。
俺は、井ノ上に本気でいて欲しがっている。
疑ったり、恐がったりしてるってことは、もう認めたくないだけで、俺は、好きなんだ。
恋愛感情を知らないから、これが本当にそうなのかは分からない。でも、他の奴とは絶対にしたくないことを井ノ上とはしたいと思っている。
セックス依存になったらどうしようなんて、井ノ上にしてもらいたがってるだけで、誰とでもなんて考えたくもない。
「威、泣くなら顔隠すな」
「…………ゃだ」
これが罠なら、すでに深みにまでハマっている。
俺はなんて馬鹿なんだろう。
「ぅう……」
「威、動くぞ」
「ッぁ、……ぁあ、あっ、はっ、アッ」
顔を両手で覆っていたけど、井ノ上がどんどん激しく動くから縋るものが欲しくなって枕を思わず掴んだら、隙かさずキスが降ってきて、枕の手を井ノ上の背中に回すように促される。
そして久しぶりに記憶を飛ばすまで抱かれた。
気がつくと、既に起きていたのだろう井ノ上と目があった。
一緒にベッドで横になったまま、また無駄に俺の顔を見ていたのだろう。
「井ノ上」
「煌弥だ」
本当は名前なんて呼びたくない。
今までも何度も言われているけど、わざと直してこなかった。
だって、なんか。
特別感が増す気がする。
これ以上親しくなりたくなかったのに。
「……こーや」
「なんだ?」
嬉しそうに笑う煌弥に、また涙が滲む。
「俺、これ以上辛くなるのは嫌だ」
「次はちゃんと加減してやる」
「……エッチのことじゃなくて」
少し何か考えたあと煌弥は起き上がると、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でるとちょっと待ってろと言ってベッドから出ていく。
裸のままだからとりあえずパジャマを探すためにキョロキョロすると寝室からいなくなっていたはずなのに、煌弥がやってきてパジャマを手渡してくれる。
煌弥もTシャツとスエットを着ていた。
ベッドの上でもそもそと着終える頃に煌弥はまた戻ってくる。
朝には起きれなくて、すっかり昼食の時間。でも食欲なくて、取り敢えず野菜ジュースを出されて、しかもベッドの上でそれを飲んでいる。
「何が辛い?」
ゆっくり話を聞いてくれるらしい。
「不安。俺多分一生あなたと居ると不安だと思う。信用できてもできなくても、俺は未来を期待できないし、もう他人には何も求めたくない」
「それでいい」
俺の足元に座った煌弥は穏やかな表情だ。
「いいって、俺は良くない。俺は全然強くないから、期待したくなるし、勝手に求めちゃうんだ。そんな自分がまた嫌になって、虚しくなる」
「人間はすぐには変われないかもしれないが、何事もコツコツやっていくのが近道だったりする」
「変わるためになにかしろって? それこそ色々やった、こんなでも多少は努力してきた」
努力だけはしてきた、無意味で無価値な。もっと視野を広くして違う方向にすれば何か実ったかもしれないのに。
煌弥は俺の手元のコップを持ち上げるとサイドテーブルにおいて、俺を抱きしめてくれた。
「知っている。だからこそ、自己評価のあまりの低さに驚くことは多いくらいだ。でも俺の考える積み重ねは威の努力じゃなく、俺の愛だ」
「は、ぃ?」
耳元で言われたのも相まって、うまく言葉がでない。
「威は俺に愛されるのに慣れればいい、いきなり全部受け止めるのは難しいのは承知の上だから、毎日少しずつ感じてくれればいい」
戸惑いは増すばかり。
「そんな……俺は何も返せない」
「そんなことはない」
「何? やっぱりなにか」
なにかあるのだろうか。
お金はない、情報か?
それもあまり期待できないと思う。俺は何を渡せる?
考えても答えは出なかったけど、煌弥の答えは俺の想像の全然及ばないところにあった。
「威がここにいる、それが一番大事だ」
「……いる、だけ?」
そんなわけはない。
俺は少し体を離して煌弥の顔を見る。
優しく微笑んで、しっかり見つめてくる。
「それ以上に大切なことなどない」
「そんなはっきりと」
「一目惚れは減点方式だと言っていたな?」
「理想と違って幻滅してくって」
「俺は毎日加点されてくばかりだ」
「ひぇ?」
変な声出た。
ついでに目が泳ぐし、なんか顔も熱い。
「日々惚れていく」
「そんな馬鹿なこと」
「事実だ」
口八丁でも素晴らしいんじゃないだろうか。俺にそこまでいうなんて。
「なんか、あ、ありがと」
思わずお礼まで出てしまった。
別にそんな言葉をそのまま信じたわけじゃないけど、たとえ嘘でも俺にそんなに言ってくれることに感心してしまう。
俺にそんなこと言う人は初めてだ。
それも一回だけじゃなく、これまでも言い方は違えど似だようなことはいくらでも惜しむことなく伝えてくれる。
嘘でも騙されてても、一時それに酔うぐらいは自分に許してもいいかもしれない。
後で辛くたって、今とそう変わらない。やっぱりそうだったんだって思って今までみたいに一人で生きていくだけだ。そんなこと何十回、何百回ってしてきたんだし、あと一回くらい別にいい気がしてきた。
きっと酷い二日酔いの後悔と一緒だ。こんなに体調が悪くなるなら飲まなきゃよかったって思うけど、楽しく飲めたなら後でいい思い出になる。無理に悪い飲み方さえしなければいいんだ。
「威?」
「あ、ごめん」
つい、考え込んでいた。
「大丈夫か?」
「体はまだちょっとダルい」
自分でも珍しく素直な返事をしていた。
「ゆっくりしていろ、食事もここに運ぶ。それとも威を運ぼうか」
からかっているのか、本気なのか。俺には判断のしようがなかったから、任せることにした。
「どっちでもいいよ、あなたが楽な方で」
「少し進歩したな」
「ん?」
「今までだったら、意地でも自分で歩いてテーブルに行くって言い張ってるはずだ」
「あ」
そうかも。どちらも煩わせることだから、どっちでいいなんて言わないはずだ。
ただそれ以上に食事を用意させてる時点でどう考えても面倒かけてるし、そんなことを言い出したらここ最近のことなんか全部そうだ。
つまりは感覚が麻痺してくるほど、全てに手を焼かれているということだ。
「進歩とは言わない気がするけど」
「いや、いや、進歩進歩」
やたらと嬉しそうにされて恥ずかしさが増す。
「付き合った相手を駄目にするタイプってやつ?」
もちろん話でしか聞いたことはないけど、きっと違う気がする。
「ダメにしたいタイプ?」
「そうなのかも、自分でも新発見だ」
煌弥はとても楽しげだ。
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