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みんなをそれぞれ送って和寿の家にやってきた。
「おじゃましまーす」
俺も少しは酔っているから、挨拶も軽い。
「お風呂入る?」
「先いいの?」
ここ数か月の付き合いで、部屋には着替えが常備されるようになりいきなり泊まりに来ても困ることはない状態が整えられていた。
「今日は一緒に入ろう、コウ」
「……いいけど」
和寿がそういう時はこの後のベッドでの行為を予告するもので、俺は風呂の前にトイレで少しそのための準備をした。
これまで本番の挿入はしないまでも、当然開発をするためには準備が必要なわけで、そういうことも学習した。
風呂場でもそれなりに弄ばれるわけだけど、それも必要なことだと羞恥に耐える。
幸い酔いがあるので、素面の時よりは楽に和寿の行為を受け入れることができた。
今日は風呂場でイかされることもなく、全身泡まみれに撫でられて、例の後ろも専用の液体というもので洗われた。石鹸だと刺激が強すぎるとかなんとかで謎の液体を塗られてる。どんなものなのか詳しくは知らないけど、それで俺が体調を崩したりしないってことは、しっかりしたものなんだろう。
ちなみに媚薬効果も特にない。
そこは和寿のプライドが許さないとかで、俺がもっと熟練したら考えるのだそうだ。
だから大人のおもちゃの類も使われたことはない。使って欲しいなんてことも決してないから、和寿の矜持に救われている。
あいかわらず風呂上がりは和寿のシャツを着させられるから、コスプレは好きな可能性はあるけど。
「えーと……もうベッド行く?」
だぼだぼのTシャツ一枚で脱衣所から出て、俺は後ろの和寿を振り返って聞いてみた。
聞くまでもないんだろうけど、照れの一種だ。
普段なら一緒に風呂に入った後は結構ヘロヘロで、和寿に支えられ導かれてベッドに連れて行ってもらう。そういう時の理性はほとんど崩壊してるから、しなだれるように和寿にもたれても歩いても何も思わないし、何か言おうとも思わない。
そこまでいたらずでも風呂場で終わった時はパジャマを出されるから、違うってことはこの後にまだ続きがあることは分かる。
じゃあ聞くなってやっぱり思うし、行かないって言われたらどうするんだとも分かってる。
「ベッド行く前に少しだけいい?」
「う、うん」
そらみたことか。
和寿に示されてダイニングのテーブルに向かい合って座った。
座ると裾が上がってテーブルの下で見えないと分かっていてもそれを押さえながら、何を話すつもりなのだろうとハラハラする。
やたら改まった雰囲気と和寿のほとんど初めて見る神妙な表情。
「あー、何か……」
「ごめん」
和寿の謝罪が何を意味するか全く分からない。
この状況で別れ話だったら、もう笑ってしまうけど、それを完全に否定する根拠もない。
「……俺は何か嫌われるようなことをしましたでしょうか?」
俺がなにを考えているか理解しているだろう和寿はほんの少し微笑んだ。
これは肯定されたと考えていいんだろうか。
原因は何かと探ろうとする前に和寿が言った。
「逆だよ、コウ」
「何がどう逆?」
「自分が抑えられないくらいコウが好き」
「………………え?」
もう混乱するしかない。
改まって言われる恥ずかしさと、素直に嬉しいと喜ぶ心と、じゃあさっきのゴメンはなんだったのかとか、わざわざ今言う意味がわからないのとで、思考がまとまらない。
「コウは?」
その言葉でハッとする。相手が告白してくれてるんだから俺も答えないと。
「……えー、あー、す、……好き」
良くしてもらったから好きになったなんて不純な動機だから、言うのに戸惑いがどうしても生じる。目も合わせられない。
そんな俺の気持ちはわからないからだろうけど、和寿はにっこり笑った。
「ありがとう、嬉しい」
一気に罪悪感が爆発した。
「ゴメン! 違う」
「俺のこと好きじゃない?」
「好きだけど、そんなありがとうとか言われるの違うから」
「どう違うのかな?」
さすがの和寿も戸惑っている。
言いたくないけど、今ならまだフラれても仕方ないとあきらめられる。
「……和寿が優しくしてくれるから、それで都合よく好きになっただけなんだ。だから、だぶん純粋な好きとは違う」
「純粋な、か……俺が優しくなかったら好きにならなかったってことかな」
「……うん」
はっきり頷くのには勇気がいった。
「これから俺が優しくなくなったら嫌われるのかな」
「それは……わからない」
優しくない和寿を想像できないこと、片思いしかしたことがないから現実と理想のギャップも知らないし、付き合って変わったら自分がどんな心境の変化を迎えるのかも分からなかった。
経験がないということが、ひどく悔しかった。和寿に何も言えない。
俺が黙って俯いていると和寿の手が俺の頬に伸びて、そっと顔を上げさせられた。
テーブル分の距離を和寿は腰を浮かせ手を伸ばして、俺の頬に触れている。
そしてそのまま顎に手を掛けられ、引き付けられるように唇が重なった。
「んっ……ぁ」
一瞬で口の中をなぞられ、離れていく。
「コウ、さっき謝ったのはこれからコウにきっとつらいことすると思ったからだよ」
僅かなキスの余韻など全くないようで、目の前の顔は強い目で俺を見ている。
「本当はもっとゆっくり、時間をかけるつもりだった。俺の優しさに溺れてくれるなら、俺にとっては僥倖だ、だからもっと抜け出せないくらい溺れさせてから、……そう思ってのに」
目も逸らせない、身動きできない俺にもう一度濃厚なキスをしたあと、俺の椅子の横まで来て腕を引っ張りベッドルームへ行く。
「こんなにいろんな焦燥感を感じることになるとは思わなかった」
肩を押されてベッドに倒れた。とは言ってもそんなに強い衝撃があるわけじゃない。
「あいつらに会ったせい?」
ベッドの端に片膝だけ乗せ、和寿は勢いよくシャツを脱いだ。
これまでは、俺にいろいろするときも最後にお互い扱きあう時も上は着たままだったから、ベッドルームでその裸を見るのは初めてだ。
そして俺の問いに、覆いかぶさりながら答えた。
「それも否定しない。前から仲がいいのは知ってたから、本当に特に気にしてないつもりでいた。でも俺の知らないコウを知ってるのはダメみたいだ、仕方ないとは承知していても対抗したくなる」
「会うなとか言う?」
「俺を優先してくれる時間があるならいい」
つまりはないがしろにしてくれるなってことだと解釈した。
「わかった」
「俺の焦りはそれだけじゃないよ」
言うやいなや、激しいキスの嵐だった。
当然俺は翻弄される。
ただ呼吸の合間に和寿の言葉は続く。
「今までは冷静なふりしてた自分が信じられない」
手は着ているシャツの裾から潜り込み、体をなでる。
「っ、んん……ぅっ……ぁはあ」
「それでもその自分を褒めてやりたいよ」
俺の唇からは離れていったが、首筋、耳とキスはやまない。
「最後までするから」
耳に直接囁かれて、その息でさえ体が震える。
言われた内容もこれまでの話の流れから予測はしていたが、はっきり言われるとまた違う覚悟ができた。
「いいよ、……俺で良ければ抱いて」
和寿はわずかに上体をあげて俺の顔をみた。
そして噛みつくようなキスをしながら言う。
「コウがいい」
そんなことを言ってもらえる時がくるとは夢にも思っていなかったせいで、変に感動した。
自分から何もできないのは申し訳ないけど、入れる時に和寿がきつくなり過ぎないようにできる限り体の力を抜くように務めることに励む。
キスだけで十分敏感になっている体に和寿の熱い手が触れるだけで快感になる。それでリラックスするのは難しいけど、今まで気持ちいいことはちゃんと教えてもらっているから、挿入がツラいとしてもその恩返しだと思ったら緊張はしないでいられた。
シャツを捲られあらわになった乳首を舐められて、不意に気になることができた。
「はぁ、あっ、ぅんん、かずひさ……」
「……ん、どうした?」
すぐに顔を上げて俺を見てくれる。
「シャツさ、俺は脱がなくていいのか?」
「ああ、嫌じゃなければ着ていてほしい」
「嫌じゃないけど……なんで?」
和寿はすこしだけ視線を逸らし、壁でも見ているようだ。そうやって少し悩んでいるようにしてから、さらに体を少し離して、俺のほとんど裸でベッドに横たわる姿を見つめる。
「……なに」
「これ以上冷静さを失うわけにはいかないんだ、変な話このシャツ一枚が俺の理性を守ってくれてると思って」
「いまさら乱暴にされても嫌がったりしないけど、和寿がそうしたいならそれでいいよ」
「ありがと」
何を隠しているわけでもないシャツにどんな効果があるのかは、正直さっぱり分からない俺だけど、だからこそ拒否する理由もない。もともと和寿のシャツだし、今までも汗とかイッた時のあれとかで汚して洗濯してもらってるんだから、気にするのも遅い。
乳首への刺激も再開され、俺がさらにとろけていくと、和寿の手はさらに下に延ばされそれで熱を持ってすっかり高ぶっているものにも刺激を加える。
「あっ、あぁ、やばっい……すぐイクから、まだ手……」
離してほしいと言う前に、強くしごかれ抵抗も我慢もする前にイかされた。
「あんっん…………はぁ、イク、って、言ったのに」
恨みがましくまだ胸に口づけている頭を睨む。
和寿はくちゅくちゅと舌で胸の突起を吸いながら、目だけこちらをよこすと何も言わず、俺の出したもので汚れているだろう手をさらに下に忍ばせていく。
「んっ、……ぁう」
これまでの成果で指一本は難なく俺の中に入ってくる。風呂場での準備と俺の精液とでそれを出し入れされることに違和感もない。
わざと俺のいいところを避けているようで、強い快感はなく水に揺蕩うような穏やかな気持ちよさだった。
そう言えば初めてそこに触られた時はその気持ちよさも分からなかったな。
緩やかな快感に身を委ねていると、すーっとその存在が体内から去り、和寿の重さと体温が俺から離れた。
ベッドのサイドボードから何かを取り出し、俺の足の間に座る。
ぼーっと見ていると、とろっとしたローションを手に垂らして、さらに俺のにも。
一度イッたことで硬度はややなくなってはいるが、絶えることなく体のあちこちで快楽をあたえられているおかげで、また熱を帯びている。そこにひんやりとした刺激でさらにひくひくと反応する。
そしてそれを伝って後ろの方にも流れていく。
その流れを取りこぼさないようにして、和寿の指がまた俺の中に収まる感覚があった。
「……はぁ、ぁ気持ち、いい」
「増やすね」
理性が飛びそうだなんて言っていたのに、そんな素振りはない。
ゆっくりと時間を掛けて体内に収まる質量は増えていった。
その間も強烈な刺激はなく、時折先走りをこぼす俺のものを触って気を散らしながら、体に熱がたまっていくように煽られていた。
「三本目も入るようになったけど、たぶん俺のを入れたらきついと思う」
「ぅん、……ぁはあ、……別に、っいい」
俺はもういつでも来いと思っているけど、和寿は本当に俺に入れたいのか疑問に思うほど、いつもと変わらない様子だ。むしろ体が離れているから、興奮しているのかさえ分からない。
「かず、ひさはさぁ……。いれたい?」
快感で思考が緩くなってるのか、思ったことが勝手に口がら出る。
するとそれまで緩やかにしか動かなかった指たちが一気に引き抜かれた。
「ああっ! ぁはあ、はあ、ぅ」
「……必死で押さえてるからそういうこと言わないで」
言いながら、和寿はズボンを脱いだりごそごそと動いていた。
それを俺は急に与えられた強い衝撃の余韻を落ち着けながら、潤む視界で眺めていた。
「……ふぁ、はいっ……てる」
「そうだよっ、……ゆっくりするからもう少しがんばって」
頑張るも何も、俺は教わった通りに体に力が入らないように、呼吸をできるだけ深くしている以外に何もしていない。
さすがの質量のせいなのか、どんなサイズのものでも体内に収めようとするとそうなのか、初めての俺には分からないが、体を押し開かれる感覚はさすがに未知で全部入れられた時のことを思うとさすがにやや恐怖も生まれた。
気持ちいいという感覚もない。されど痛くもない。
指を入れられた時とも違って、下腹部が熱くなっていく。
それに不思議と何かが満たされていくような、充足感がある。
俺はピクリとも動かず、すべてを和寿にゆだねて、眉間に皺を寄せて集中しているその顔を見ていた。
下手に動くと和寿が痛いかもしれない。俺がこれだけ初めての圧迫感を感じているのだから、締め付けられているだろう和寿も良くはないと思われた。
でもそんな風に相手の顔を見れるゆとりがあるとは、想像していなかった。
絶対痛い。
そう思っていたのに、全然違う。全部和寿のおかげだ。
俺は自分でも気づかず少しだけ笑っていたらしい。
「……余裕、そうだね、コウ」
「……っさすがに、余裕はない、っあん」
わざと少しだけ腰を揺らされたせいで、全身を痺れるような感覚が襲う。
「はぁ、あ、かずひさ、の、好きに、あぅして、……いいからぁ」
少しいたずらのつもりだったのかもしれないけど、俺はもう和寿にも満足して欲しくてそんなことを言っていた。
「バカっ、俺はホントに余裕ないんだぞ!」
腰の揺らぎは止まらなくなった。出し入れされているわけじゃないから、中がひきつるような感じではなく、そこにある熱棒の存在をまざまざと思い知らされているようだ。
「まだ全部じゃない、けどもう止められないからな」
「あ、ふぅ、いいからぁ、あぁ、んんっ」
そして本当に止まらなくなった。
でも俺は次第に快楽を感じられるようになり、徐々に激しくなっていく和寿の動きを止めてほしいとは思わなかった。
「あっ、あぁ………ん、んっ、んあぁあ」
「コウっ、前触るっから、イケる?」
腰を支えていた手を片方、動きで揺れて泣いているように濡れている俺のものに添えられた。
俺はとっさにその手が動かないように両手で止めた。
「んっはぁ、あ、かずは? ぁん、っかずもイく?」
いつのまにか生理現象で泣いているらしい俺の目では滲んで良く見えなかったけど、たぶん和寿は微笑んだ。
「大丈夫、イクよ」
一瞬だけ腰の動きを止めて、俺の手を外すと、その片方を絡めたまま元の腰の位置で支え、もう一方で扱き始める。
空いてしまった俺の片手は、今までそうしていたように枕を掴んで快感に耐えた。
でも昇り詰めるのは簡単だ。
和寿にかかれば一瞬、たぶん俺自身でも無理なくらい。
そして和寿も俺の中でイッてくれたようだ。和寿のことだから、ちゃんとエチケットの中に。
「おじゃましまーす」
俺も少しは酔っているから、挨拶も軽い。
「お風呂入る?」
「先いいの?」
ここ数か月の付き合いで、部屋には着替えが常備されるようになりいきなり泊まりに来ても困ることはない状態が整えられていた。
「今日は一緒に入ろう、コウ」
「……いいけど」
和寿がそういう時はこの後のベッドでの行為を予告するもので、俺は風呂の前にトイレで少しそのための準備をした。
これまで本番の挿入はしないまでも、当然開発をするためには準備が必要なわけで、そういうことも学習した。
風呂場でもそれなりに弄ばれるわけだけど、それも必要なことだと羞恥に耐える。
幸い酔いがあるので、素面の時よりは楽に和寿の行為を受け入れることができた。
今日は風呂場でイかされることもなく、全身泡まみれに撫でられて、例の後ろも専用の液体というもので洗われた。石鹸だと刺激が強すぎるとかなんとかで謎の液体を塗られてる。どんなものなのか詳しくは知らないけど、それで俺が体調を崩したりしないってことは、しっかりしたものなんだろう。
ちなみに媚薬効果も特にない。
そこは和寿のプライドが許さないとかで、俺がもっと熟練したら考えるのだそうだ。
だから大人のおもちゃの類も使われたことはない。使って欲しいなんてことも決してないから、和寿の矜持に救われている。
あいかわらず風呂上がりは和寿のシャツを着させられるから、コスプレは好きな可能性はあるけど。
「えーと……もうベッド行く?」
だぼだぼのTシャツ一枚で脱衣所から出て、俺は後ろの和寿を振り返って聞いてみた。
聞くまでもないんだろうけど、照れの一種だ。
普段なら一緒に風呂に入った後は結構ヘロヘロで、和寿に支えられ導かれてベッドに連れて行ってもらう。そういう時の理性はほとんど崩壊してるから、しなだれるように和寿にもたれても歩いても何も思わないし、何か言おうとも思わない。
そこまでいたらずでも風呂場で終わった時はパジャマを出されるから、違うってことはこの後にまだ続きがあることは分かる。
じゃあ聞くなってやっぱり思うし、行かないって言われたらどうするんだとも分かってる。
「ベッド行く前に少しだけいい?」
「う、うん」
そらみたことか。
和寿に示されてダイニングのテーブルに向かい合って座った。
座ると裾が上がってテーブルの下で見えないと分かっていてもそれを押さえながら、何を話すつもりなのだろうとハラハラする。
やたら改まった雰囲気と和寿のほとんど初めて見る神妙な表情。
「あー、何か……」
「ごめん」
和寿の謝罪が何を意味するか全く分からない。
この状況で別れ話だったら、もう笑ってしまうけど、それを完全に否定する根拠もない。
「……俺は何か嫌われるようなことをしましたでしょうか?」
俺がなにを考えているか理解しているだろう和寿はほんの少し微笑んだ。
これは肯定されたと考えていいんだろうか。
原因は何かと探ろうとする前に和寿が言った。
「逆だよ、コウ」
「何がどう逆?」
「自分が抑えられないくらいコウが好き」
「………………え?」
もう混乱するしかない。
改まって言われる恥ずかしさと、素直に嬉しいと喜ぶ心と、じゃあさっきのゴメンはなんだったのかとか、わざわざ今言う意味がわからないのとで、思考がまとまらない。
「コウは?」
その言葉でハッとする。相手が告白してくれてるんだから俺も答えないと。
「……えー、あー、す、……好き」
良くしてもらったから好きになったなんて不純な動機だから、言うのに戸惑いがどうしても生じる。目も合わせられない。
そんな俺の気持ちはわからないからだろうけど、和寿はにっこり笑った。
「ありがとう、嬉しい」
一気に罪悪感が爆発した。
「ゴメン! 違う」
「俺のこと好きじゃない?」
「好きだけど、そんなありがとうとか言われるの違うから」
「どう違うのかな?」
さすがの和寿も戸惑っている。
言いたくないけど、今ならまだフラれても仕方ないとあきらめられる。
「……和寿が優しくしてくれるから、それで都合よく好きになっただけなんだ。だから、だぶん純粋な好きとは違う」
「純粋な、か……俺が優しくなかったら好きにならなかったってことかな」
「……うん」
はっきり頷くのには勇気がいった。
「これから俺が優しくなくなったら嫌われるのかな」
「それは……わからない」
優しくない和寿を想像できないこと、片思いしかしたことがないから現実と理想のギャップも知らないし、付き合って変わったら自分がどんな心境の変化を迎えるのかも分からなかった。
経験がないということが、ひどく悔しかった。和寿に何も言えない。
俺が黙って俯いていると和寿の手が俺の頬に伸びて、そっと顔を上げさせられた。
テーブル分の距離を和寿は腰を浮かせ手を伸ばして、俺の頬に触れている。
そしてそのまま顎に手を掛けられ、引き付けられるように唇が重なった。
「んっ……ぁ」
一瞬で口の中をなぞられ、離れていく。
「コウ、さっき謝ったのはこれからコウにきっとつらいことすると思ったからだよ」
僅かなキスの余韻など全くないようで、目の前の顔は強い目で俺を見ている。
「本当はもっとゆっくり、時間をかけるつもりだった。俺の優しさに溺れてくれるなら、俺にとっては僥倖だ、だからもっと抜け出せないくらい溺れさせてから、……そう思ってのに」
目も逸らせない、身動きできない俺にもう一度濃厚なキスをしたあと、俺の椅子の横まで来て腕を引っ張りベッドルームへ行く。
「こんなにいろんな焦燥感を感じることになるとは思わなかった」
肩を押されてベッドに倒れた。とは言ってもそんなに強い衝撃があるわけじゃない。
「あいつらに会ったせい?」
ベッドの端に片膝だけ乗せ、和寿は勢いよくシャツを脱いだ。
これまでは、俺にいろいろするときも最後にお互い扱きあう時も上は着たままだったから、ベッドルームでその裸を見るのは初めてだ。
そして俺の問いに、覆いかぶさりながら答えた。
「それも否定しない。前から仲がいいのは知ってたから、本当に特に気にしてないつもりでいた。でも俺の知らないコウを知ってるのはダメみたいだ、仕方ないとは承知していても対抗したくなる」
「会うなとか言う?」
「俺を優先してくれる時間があるならいい」
つまりはないがしろにしてくれるなってことだと解釈した。
「わかった」
「俺の焦りはそれだけじゃないよ」
言うやいなや、激しいキスの嵐だった。
当然俺は翻弄される。
ただ呼吸の合間に和寿の言葉は続く。
「今までは冷静なふりしてた自分が信じられない」
手は着ているシャツの裾から潜り込み、体をなでる。
「っ、んん……ぅっ……ぁはあ」
「それでもその自分を褒めてやりたいよ」
俺の唇からは離れていったが、首筋、耳とキスはやまない。
「最後までするから」
耳に直接囁かれて、その息でさえ体が震える。
言われた内容もこれまでの話の流れから予測はしていたが、はっきり言われるとまた違う覚悟ができた。
「いいよ、……俺で良ければ抱いて」
和寿はわずかに上体をあげて俺の顔をみた。
そして噛みつくようなキスをしながら言う。
「コウがいい」
そんなことを言ってもらえる時がくるとは夢にも思っていなかったせいで、変に感動した。
自分から何もできないのは申し訳ないけど、入れる時に和寿がきつくなり過ぎないようにできる限り体の力を抜くように務めることに励む。
キスだけで十分敏感になっている体に和寿の熱い手が触れるだけで快感になる。それでリラックスするのは難しいけど、今まで気持ちいいことはちゃんと教えてもらっているから、挿入がツラいとしてもその恩返しだと思ったら緊張はしないでいられた。
シャツを捲られあらわになった乳首を舐められて、不意に気になることができた。
「はぁ、あっ、ぅんん、かずひさ……」
「……ん、どうした?」
すぐに顔を上げて俺を見てくれる。
「シャツさ、俺は脱がなくていいのか?」
「ああ、嫌じゃなければ着ていてほしい」
「嫌じゃないけど……なんで?」
和寿はすこしだけ視線を逸らし、壁でも見ているようだ。そうやって少し悩んでいるようにしてから、さらに体を少し離して、俺のほとんど裸でベッドに横たわる姿を見つめる。
「……なに」
「これ以上冷静さを失うわけにはいかないんだ、変な話このシャツ一枚が俺の理性を守ってくれてると思って」
「いまさら乱暴にされても嫌がったりしないけど、和寿がそうしたいならそれでいいよ」
「ありがと」
何を隠しているわけでもないシャツにどんな効果があるのかは、正直さっぱり分からない俺だけど、だからこそ拒否する理由もない。もともと和寿のシャツだし、今までも汗とかイッた時のあれとかで汚して洗濯してもらってるんだから、気にするのも遅い。
乳首への刺激も再開され、俺がさらにとろけていくと、和寿の手はさらに下に延ばされそれで熱を持ってすっかり高ぶっているものにも刺激を加える。
「あっ、あぁ、やばっい……すぐイクから、まだ手……」
離してほしいと言う前に、強くしごかれ抵抗も我慢もする前にイかされた。
「あんっん…………はぁ、イク、って、言ったのに」
恨みがましくまだ胸に口づけている頭を睨む。
和寿はくちゅくちゅと舌で胸の突起を吸いながら、目だけこちらをよこすと何も言わず、俺の出したもので汚れているだろう手をさらに下に忍ばせていく。
「んっ、……ぁう」
これまでの成果で指一本は難なく俺の中に入ってくる。風呂場での準備と俺の精液とでそれを出し入れされることに違和感もない。
わざと俺のいいところを避けているようで、強い快感はなく水に揺蕩うような穏やかな気持ちよさだった。
そう言えば初めてそこに触られた時はその気持ちよさも分からなかったな。
緩やかな快感に身を委ねていると、すーっとその存在が体内から去り、和寿の重さと体温が俺から離れた。
ベッドのサイドボードから何かを取り出し、俺の足の間に座る。
ぼーっと見ていると、とろっとしたローションを手に垂らして、さらに俺のにも。
一度イッたことで硬度はややなくなってはいるが、絶えることなく体のあちこちで快楽をあたえられているおかげで、また熱を帯びている。そこにひんやりとした刺激でさらにひくひくと反応する。
そしてそれを伝って後ろの方にも流れていく。
その流れを取りこぼさないようにして、和寿の指がまた俺の中に収まる感覚があった。
「……はぁ、ぁ気持ち、いい」
「増やすね」
理性が飛びそうだなんて言っていたのに、そんな素振りはない。
ゆっくりと時間を掛けて体内に収まる質量は増えていった。
その間も強烈な刺激はなく、時折先走りをこぼす俺のものを触って気を散らしながら、体に熱がたまっていくように煽られていた。
「三本目も入るようになったけど、たぶん俺のを入れたらきついと思う」
「ぅん、……ぁはあ、……別に、っいい」
俺はもういつでも来いと思っているけど、和寿は本当に俺に入れたいのか疑問に思うほど、いつもと変わらない様子だ。むしろ体が離れているから、興奮しているのかさえ分からない。
「かず、ひさはさぁ……。いれたい?」
快感で思考が緩くなってるのか、思ったことが勝手に口がら出る。
するとそれまで緩やかにしか動かなかった指たちが一気に引き抜かれた。
「ああっ! ぁはあ、はあ、ぅ」
「……必死で押さえてるからそういうこと言わないで」
言いながら、和寿はズボンを脱いだりごそごそと動いていた。
それを俺は急に与えられた強い衝撃の余韻を落ち着けながら、潤む視界で眺めていた。
「……ふぁ、はいっ……てる」
「そうだよっ、……ゆっくりするからもう少しがんばって」
頑張るも何も、俺は教わった通りに体に力が入らないように、呼吸をできるだけ深くしている以外に何もしていない。
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気持ちいいという感覚もない。されど痛くもない。
指を入れられた時とも違って、下腹部が熱くなっていく。
それに不思議と何かが満たされていくような、充足感がある。
俺はピクリとも動かず、すべてを和寿にゆだねて、眉間に皺を寄せて集中しているその顔を見ていた。
下手に動くと和寿が痛いかもしれない。俺がこれだけ初めての圧迫感を感じているのだから、締め付けられているだろう和寿も良くはないと思われた。
でもそんな風に相手の顔を見れるゆとりがあるとは、想像していなかった。
絶対痛い。
そう思っていたのに、全然違う。全部和寿のおかげだ。
俺は自分でも気づかず少しだけ笑っていたらしい。
「……余裕、そうだね、コウ」
「……っさすがに、余裕はない、っあん」
わざと少しだけ腰を揺らされたせいで、全身を痺れるような感覚が襲う。
「はぁ、あ、かずひさ、の、好きに、あぅして、……いいからぁ」
少しいたずらのつもりだったのかもしれないけど、俺はもう和寿にも満足して欲しくてそんなことを言っていた。
「バカっ、俺はホントに余裕ないんだぞ!」
腰の揺らぎは止まらなくなった。出し入れされているわけじゃないから、中がひきつるような感じではなく、そこにある熱棒の存在をまざまざと思い知らされているようだ。
「まだ全部じゃない、けどもう止められないからな」
「あ、ふぅ、いいからぁ、あぁ、んんっ」
そして本当に止まらなくなった。
でも俺は次第に快楽を感じられるようになり、徐々に激しくなっていく和寿の動きを止めてほしいとは思わなかった。
「あっ、あぁ………ん、んっ、んあぁあ」
「コウっ、前触るっから、イケる?」
腰を支えていた手を片方、動きで揺れて泣いているように濡れている俺のものに添えられた。
俺はとっさにその手が動かないように両手で止めた。
「んっはぁ、あ、かずは? ぁん、っかずもイく?」
いつのまにか生理現象で泣いているらしい俺の目では滲んで良く見えなかったけど、たぶん和寿は微笑んだ。
「大丈夫、イクよ」
一瞬だけ腰の動きを止めて、俺の手を外すと、その片方を絡めたまま元の腰の位置で支え、もう一方で扱き始める。
空いてしまった俺の片手は、今までそうしていたように枕を掴んで快感に耐えた。
でも昇り詰めるのは簡単だ。
和寿にかかれば一瞬、たぶん俺自身でも無理なくらい。
そして和寿も俺の中でイッてくれたようだ。和寿のことだから、ちゃんとエチケットの中に。
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彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
大好きだ!
nano ひにゃ
BL
23歳、ホームセンター勤務の羊太は天涯孤独で、さらに恋人とも別れることになった。
そんな自分を少しは慰めるため、夜の公園で座っていると、遠くからスーツの男が走ってきて、突然告白された。
男は全てを失ったと話すが、そんな悲壮感は全くなかった。
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