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「王様、こんなところでどうしたの? 散歩?」
「散歩だと思うか?」
あまり気分が良さそうじゃない顔色をしている王様は、ちょっとだけ笑ってそう聞き返してきた。
「そうだね。今日は天気も良いし、空も綺麗で散歩日和だからね」
「お前もか?」
夜の中でも更に黒く、だけど月明かりは当たっていて姿は確認できる。寧ろその光さえ吸収して闇に引きずり込んでいるようだ。
だから王様の背後はより一層暗い。
昼間見るとどんな感じなのかな。
「散歩がてらかな、ずっと飛んでたから地面の感触も楽しいし」
「なら俺も散歩だ」
王様は俺の横まで歩いてきた。
最後に会った時と少し違う王様の姿。前はそんなことなかったのに、王様は靄の様に闇をまとわり付かせて月明かりの中でも影が差さない。
なんだか一人にしとくのは心配になった。
「せっかく会ったし一緒に散歩する?」
「散歩も、それ以外もだ」
「それ以外って?」
「全部だ」
王様は近くにいるのに俺の腕を掴んだ。
薄い生地越しに王様の温度を感じる。
「王様、ここまでどうやって来たの? すっごく冷えてるじゃん。寒いところでも通ってきたの」
ここはシャツ一枚でも快適な気候だからこんなに冷えることはない。
王様の真っ黒な上下の服は、俺のより生地が厚くてしっかりしてそうなのに、その手はとても冷たかった。
「ある意味寒かったな」
「俺、着てるもの以外は何も持ってないんだよ、ごめん」
俺は王様の手を取って擦ってあげる。
歩いてたら温かくなるかな。
「歩こっか、王様はどっか行きたいところある?」
「どこへでも」
手を繋いでまた進み始めた。
よく考えれば王様は寒くて平気だったな、つい俺と一緒に考えちゃった。
あまり温かくならない手を感じなから少し歩いていると、王様はおもむろに話し始めた。
顔は前を向いたまま。
「あの洞窟は気に入っているんじゃなかったのか」
「だいぶ荒れてきちゃったからね」
「城ができたときは執着していたようなのにか?」
声は平坦で雰囲気は暗い。王様はどうやら日常的に魔王様になったようだ。
でも不思議と恐くはない。
「別に俺はどこでも暮らせるから」
「荒れたなら片付ければ済むのに、出ていくほどに嫌になったか」
「嫌になったのはお城の人達だよ、俺はどこにいても邪魔者だから仕方ない。前だったらいろいろやってみたと思うけど、すればするほど嫌な顔させるからもう止めたんだ」
「……俺は、嫌になっていない」
一瞬だけ言葉を詰まらせた王様に少しだけ申し訳ない気分になった。
王様が嫌いになった訳じゃないし、嫌われたと思ったからでもない、とは伝えてなかったからだ。
でも王様が良くても王様を支えてる人達が沢山困ることは、やっぱりそれは王様が困ることになると思うんだよな。
「王様が嫌じゃなくても、いっぱいできるお嫁さんが嫌がったらお城が大変なことになっちゃうよ」
王様の手に力が入って少し痛くなった。
「結婚などしない」
「えー、お城の人達はいっぱい準備してたのに」
俺が夕方に起きて、王様がいなかったりすると仕事がないかなーと城をウロウロしてた。昼間のうちに用意しておいてくれる人がいてそれを発見する。
俺が来るかどうかは王様次第だから、大抵は急ぎでないものばかり。
でもそのウロウロの途中で呼び止められるときは急ぎなことが多かった。
お嫁さんになる人が来るから部屋を飾るとかね。
しかも皆は寝ているはずの夜中まで掛かってるとか大変さが伺い知れる。
ただ王様はその努力を一刀両断だった。
「あいつらが勝手にやっていることだ」
俺はつい笑ってしまった。
王様はどんなことでもほとんど指示しないから、俺の目からみたらいつだって皆勝手にやっている印象だった。
「王様が止めないんだから任されてるって思ってるよ」
俺が笑いながら言うと、王様は言い方を変えた。
「地位を与えるだけだ」
「お嫁さんって立場が地位ってこと?」
「俺は違うつもりだったんだがな」
地位とは言ったけど、結婚とは言ってないってことかな。
お城の中で偉い人になるって事が、今空いてる所が王妃の座だったから皆そこが埋まるって考えたのかな。
「うまく伝わってなかったんだね」
俺がしみじみ言うと、しばらく沈黙が続いた。
「お前、もうあの城には戻らないのか?」
ただの確認のようだったからはっきり答える。
「戻らないよ、俺は一人が一番似合う」
王様は不意に立ち止まって俺の方を見た。
手を繋いでるからもちろん俺も止まる。
「俺が一緒に行くのはどうだ?」
「……どういうこと?」
「城も村も街もあいつらに任せて、王も辞めてお前と一緒に暮らす」
「王様って辞められるものだったんだ!」
びっくりだ。
王様は王様として皆に慕われているから、もうずっと王様でいるもんだと勝手に思っていた。
「元々なる気もなかったがな」
そんなこと前からよく言ってたなぁ。
気が付いたら王と呼ばれるようになっていたとか、放っておいたら集まっている奴らが増えていたとか。
でも毎回、まあいっかって受け入れてたのにどうして急に辞めるなんて言い出したんだろ。
「王様……もしかして寂しかったの?」
俺が考えられる理由はそれくらいしか思い浮かばなかった。
でも一回そう思うと当たっている気がしてくる。
王様はとても驚いた顔で俺の顔見る。
「なんだ急に」
「お城の皆は忙しそうだったから、あんまり王様の相手してくれなかったもんね。暇な人は嫌なのが多かったし。なんで俺のこといっぱい抱くのかなーって不思議だったんだだけど、寂しかったからかぁ」
「寂しい……」
「そっかぁ、だから俺なんかのとこに来ちゃったんだね」
「なんか、とか言うな」
「大丈夫、俺も分かるよ! 昔は俺も寂しかったから頑張ってみたんだもん。今はもう大丈夫だけど、前は泣いちゃってたよ、寂しくて。だから王様が寂しいのは分かるよ」
「……一緒にいてくれるか?」
一緒にいることで慰められるのは僅かなものだ、あんなにいっぱいの人に囲まれていた人はすぐにもっと寂しくなるはずだ。
だから早く皆のところに帰してあげないと。
「でもね、王様。仲間って大事だよ。俺みたいに始めからないのはどうしょうもないけど、王様にはいっぱい仲間がいるじゃん! そういう仲間はね、寂しいってちゃんと言えば一緒にいてくれるんだよ」
「俺はお前がいいんだ」
「もちろん王様が寂しくなくなるまでは一緒にいるよ、でも仲間置いてきちゃダメだよ。俺はどこでも大丈夫だからまたお城に行くからさ」
王様はちょっと前の王様に戻ったみたいに表情が変わった。
戸惑っているような、少し嬉しそうな複雑な顔だ。
「本当にそれでいいのか?」
「王様が仲間の皆と話したら寂しくなくなるよ、俺がずっといると困るはずだから住み処探しはその時始めるし大丈夫」
今度は困ったような悲しそうな顔をする、王様の表情は複雑だ。
「お前はどうして……」
「ん?」
暫く何か考えている様子だった王様は、呟くように口を開いた。
「俺から離れることには何もなしか?」
「んー、王様はみんなのものだからさ」
俺の答えに王様は何か決意したように瞳を赤く光らせた。
気がつくと月が雲に隠れて辺りは真っ暗だ。
「俺は魔王だ、いつでも好きなようにできる。俺がまた気ままに生きるとしたらどうだ?」
「気まま?」
俺の目にはちゃんと王様が見える。
不思議な笑顔だった。
「お前のいう王ではなく、俺は魔王だ。破壊の限りを尽くすこともでき、容赦なく民草を虐げることもできる。俺がしたいと思うことは俺自身の力が叶える」
「それが王様のしたいこと?」
「どうだろうな」
王様はもっと笑顔になった。
とてもつまらなそうに笑ってる。
「せっかく作ったお城も街もそれ以上も壊しちゃうの?」
「今はそんな気分だ」
「寂しすぎてみんなが憎くなっちゃった?」
「ある意味な」
「そっか……王様にはそれができる力があるんだもんね」
俺は……ちょっと昔を思い出していた。
まだあの洞窟に住み着くもっと前。
記憶としては置いてあるけど、思い出みたいに感情を乗せると忘れたはずの気持ちも思い出すから俺は首をふってそれを頭から追い出す。
「エト?」
「……俺は弱っちぃから、寂しいのには慣れるしかなかった。時間が掛かったけど今は一人でも本当に楽しいんだ」
「そうみたいだな」
王様はなぜだか忌々しいそうに頷いた。
「……俺、王様といるとき少しだけ恐かった」
頭から追い出そうとした残りが口から溢れた。
音になると自分の声なのに心が共鳴するように震えてくる。
「俺の力がか?」
「一番始めはね、でもどんどん別の恐いが出てきた」
「なんだ」
「王様と一緒にいる時間が長くなれば俺はまた寂しいを思い出しちゃうかもしれないから」
「……だから逃げたのか」
「逃げる? それとはちょっと違うよ、皆がいてもいいってなってるときは恐くても王様と一緒にいた。でも俺はまた要らないになったから別のところに行くだけ」
「それが逃げなんだ」
「どうして?」
「俺が戻るまでなぜ待たなかった?」
「王様が困るのは悲しいから、王様優しいから出ていくことにダメって言うかもしれない」
「そうだ」
「でも俺がいると困る人がいっぱいいて、やっぱりそれはダメだよ。俺は……それなら独りがいい」
昔優しい人がいて俺と一緒にいてくれた。
優しい人はみんなに優しいから人気者で、でも俺は嫌われ者だから優しい人はそのうち間に挟まれてあまり笑わなくなった。
どうすればいいかって難しい顔をしてることが多くなったから、俺はいっぱいの方を選べと説得した。
優しい人は最後には頷いてくれて、俺はサヨナラした。
王様にそう説明した。
「でも結局悲しませた。最後は泣いてた」
「俺には話もしなかっただろ」
「王様は……俺には説得が難しいと思って」
王様は俺より俺を分かっている部分があるから、簡単に言いくるめられちゃう。
でも今日の王様はもっとシンプルだった。
「寂しい」
「え?」
「他のどんな奴が近くにいようとも、お前がいなければ俺はずっと寂しいままだ」
「ぇ」
「このひと月、俺はお前が恋しくて仕方がなかった。寂しくて寂しくて、何も手につかなかった」
「王様」
「お前が一言、俺の名を呼べばすぐに見付けられたものを」
なんだか王様に初めて感じる妙な怖さ……悔しそうな忌々しそうな、拗ねてるような。
なんだがとてつもなく申し訳ない気分になってくる。
「ご、ごめんなさい」
「お前が弱いことがこれほど俺を苦しめるとは」
「っん!」
きつく抱き締められ唇を奪われる。
久しぶりの感触にめまいがするほどの快感が体を走り、口の中を貪られ、王様の冷たい体とは真逆の熱い舌が俺の舌を絡めとろうとする。
「っ、ぅ……ぁ、」
思考する余裕など少しもなくて、気持ち良さに引き摺られるようにして自分からも求めてしまった。
「……お前はこういうときだけ素直だな」
「気持ちイイのは好き」
ふわふわした感覚の体を抱き締められているだけで心地好かった。
「俺に乱暴されるとは思わないのか?」
王様は自分のシャツを脱いで逞しい体を月明かりに晒しながら、俺を優しく睨む。
「……痛いのはキライ」
「だろうな、でも今の俺からは逃げない」
「ここでするの? 外だよ」
下は土と石ころばかりで、脇にそれても草と木々の根だ。
「立ったままでもできるだろ」
「誰か来るかもだよ」
真夜中でも活動している人達はいる。
見られるのは嫌だな。
「恥ずかしいのか」
王様はからかうように笑うけど、そんなんじゃない。
「変な顔見られるのがヤだし、集中できない」
「俺には良いのか? その顔を見せて」
「王様がさせてるんじゃん、見たくなかったらまたしないでしょ? それにたまに可愛いって言ってたから良い、それなら大丈夫」
「……可愛いから仕方ないな」
「俺には分からないけど、王様がそう思うのは否定しない。それは王様の勝手」
「それなら思う存分堪能させてもらう」
「誰も来ないところが良い、久しぶりだし俺も堪能したい」
王様とするのは気持ちいい。
意味のない行為だけど、だからこそ与えられるものはとことん楽しみたい。
……それに、王様の肌が恋しかったとキスでちょっと自覚した部分もあるし。
王様はやっぱり少し呆れ顔をするけど、頷いてくれる。
「……全く、結界張ってやるから我慢しろ。今の俺に猶予はない」
「誰も来ないなら、どこでも」
立ったまま木にもたれるようにして、王様は焦るように俺の体をまさぐる。
自分のシャツは脱いだけど、俺のを脱がせるつもりはないようで服の上からや裾から手を入れて触りはじめた。
「散歩だと思うか?」
あまり気分が良さそうじゃない顔色をしている王様は、ちょっとだけ笑ってそう聞き返してきた。
「そうだね。今日は天気も良いし、空も綺麗で散歩日和だからね」
「お前もか?」
夜の中でも更に黒く、だけど月明かりは当たっていて姿は確認できる。寧ろその光さえ吸収して闇に引きずり込んでいるようだ。
だから王様の背後はより一層暗い。
昼間見るとどんな感じなのかな。
「散歩がてらかな、ずっと飛んでたから地面の感触も楽しいし」
「なら俺も散歩だ」
王様は俺の横まで歩いてきた。
最後に会った時と少し違う王様の姿。前はそんなことなかったのに、王様は靄の様に闇をまとわり付かせて月明かりの中でも影が差さない。
なんだか一人にしとくのは心配になった。
「せっかく会ったし一緒に散歩する?」
「散歩も、それ以外もだ」
「それ以外って?」
「全部だ」
王様は近くにいるのに俺の腕を掴んだ。
薄い生地越しに王様の温度を感じる。
「王様、ここまでどうやって来たの? すっごく冷えてるじゃん。寒いところでも通ってきたの」
ここはシャツ一枚でも快適な気候だからこんなに冷えることはない。
王様の真っ黒な上下の服は、俺のより生地が厚くてしっかりしてそうなのに、その手はとても冷たかった。
「ある意味寒かったな」
「俺、着てるもの以外は何も持ってないんだよ、ごめん」
俺は王様の手を取って擦ってあげる。
歩いてたら温かくなるかな。
「歩こっか、王様はどっか行きたいところある?」
「どこへでも」
手を繋いでまた進み始めた。
よく考えれば王様は寒くて平気だったな、つい俺と一緒に考えちゃった。
あまり温かくならない手を感じなから少し歩いていると、王様はおもむろに話し始めた。
顔は前を向いたまま。
「あの洞窟は気に入っているんじゃなかったのか」
「だいぶ荒れてきちゃったからね」
「城ができたときは執着していたようなのにか?」
声は平坦で雰囲気は暗い。王様はどうやら日常的に魔王様になったようだ。
でも不思議と恐くはない。
「別に俺はどこでも暮らせるから」
「荒れたなら片付ければ済むのに、出ていくほどに嫌になったか」
「嫌になったのはお城の人達だよ、俺はどこにいても邪魔者だから仕方ない。前だったらいろいろやってみたと思うけど、すればするほど嫌な顔させるからもう止めたんだ」
「……俺は、嫌になっていない」
一瞬だけ言葉を詰まらせた王様に少しだけ申し訳ない気分になった。
王様が嫌いになった訳じゃないし、嫌われたと思ったからでもない、とは伝えてなかったからだ。
でも王様が良くても王様を支えてる人達が沢山困ることは、やっぱりそれは王様が困ることになると思うんだよな。
「王様が嫌じゃなくても、いっぱいできるお嫁さんが嫌がったらお城が大変なことになっちゃうよ」
王様の手に力が入って少し痛くなった。
「結婚などしない」
「えー、お城の人達はいっぱい準備してたのに」
俺が夕方に起きて、王様がいなかったりすると仕事がないかなーと城をウロウロしてた。昼間のうちに用意しておいてくれる人がいてそれを発見する。
俺が来るかどうかは王様次第だから、大抵は急ぎでないものばかり。
でもそのウロウロの途中で呼び止められるときは急ぎなことが多かった。
お嫁さんになる人が来るから部屋を飾るとかね。
しかも皆は寝ているはずの夜中まで掛かってるとか大変さが伺い知れる。
ただ王様はその努力を一刀両断だった。
「あいつらが勝手にやっていることだ」
俺はつい笑ってしまった。
王様はどんなことでもほとんど指示しないから、俺の目からみたらいつだって皆勝手にやっている印象だった。
「王様が止めないんだから任されてるって思ってるよ」
俺が笑いながら言うと、王様は言い方を変えた。
「地位を与えるだけだ」
「お嫁さんって立場が地位ってこと?」
「俺は違うつもりだったんだがな」
地位とは言ったけど、結婚とは言ってないってことかな。
お城の中で偉い人になるって事が、今空いてる所が王妃の座だったから皆そこが埋まるって考えたのかな。
「うまく伝わってなかったんだね」
俺がしみじみ言うと、しばらく沈黙が続いた。
「お前、もうあの城には戻らないのか?」
ただの確認のようだったからはっきり答える。
「戻らないよ、俺は一人が一番似合う」
王様は不意に立ち止まって俺の方を見た。
手を繋いでるからもちろん俺も止まる。
「俺が一緒に行くのはどうだ?」
「……どういうこと?」
「城も村も街もあいつらに任せて、王も辞めてお前と一緒に暮らす」
「王様って辞められるものだったんだ!」
びっくりだ。
王様は王様として皆に慕われているから、もうずっと王様でいるもんだと勝手に思っていた。
「元々なる気もなかったがな」
そんなこと前からよく言ってたなぁ。
気が付いたら王と呼ばれるようになっていたとか、放っておいたら集まっている奴らが増えていたとか。
でも毎回、まあいっかって受け入れてたのにどうして急に辞めるなんて言い出したんだろ。
「王様……もしかして寂しかったの?」
俺が考えられる理由はそれくらいしか思い浮かばなかった。
でも一回そう思うと当たっている気がしてくる。
王様はとても驚いた顔で俺の顔見る。
「なんだ急に」
「お城の皆は忙しそうだったから、あんまり王様の相手してくれなかったもんね。暇な人は嫌なのが多かったし。なんで俺のこといっぱい抱くのかなーって不思議だったんだだけど、寂しかったからかぁ」
「寂しい……」
「そっかぁ、だから俺なんかのとこに来ちゃったんだね」
「なんか、とか言うな」
「大丈夫、俺も分かるよ! 昔は俺も寂しかったから頑張ってみたんだもん。今はもう大丈夫だけど、前は泣いちゃってたよ、寂しくて。だから王様が寂しいのは分かるよ」
「……一緒にいてくれるか?」
一緒にいることで慰められるのは僅かなものだ、あんなにいっぱいの人に囲まれていた人はすぐにもっと寂しくなるはずだ。
だから早く皆のところに帰してあげないと。
「でもね、王様。仲間って大事だよ。俺みたいに始めからないのはどうしょうもないけど、王様にはいっぱい仲間がいるじゃん! そういう仲間はね、寂しいってちゃんと言えば一緒にいてくれるんだよ」
「俺はお前がいいんだ」
「もちろん王様が寂しくなくなるまでは一緒にいるよ、でも仲間置いてきちゃダメだよ。俺はどこでも大丈夫だからまたお城に行くからさ」
王様はちょっと前の王様に戻ったみたいに表情が変わった。
戸惑っているような、少し嬉しそうな複雑な顔だ。
「本当にそれでいいのか?」
「王様が仲間の皆と話したら寂しくなくなるよ、俺がずっといると困るはずだから住み処探しはその時始めるし大丈夫」
今度は困ったような悲しそうな顔をする、王様の表情は複雑だ。
「お前はどうして……」
「ん?」
暫く何か考えている様子だった王様は、呟くように口を開いた。
「俺から離れることには何もなしか?」
「んー、王様はみんなのものだからさ」
俺の答えに王様は何か決意したように瞳を赤く光らせた。
気がつくと月が雲に隠れて辺りは真っ暗だ。
「俺は魔王だ、いつでも好きなようにできる。俺がまた気ままに生きるとしたらどうだ?」
「気まま?」
俺の目にはちゃんと王様が見える。
不思議な笑顔だった。
「お前のいう王ではなく、俺は魔王だ。破壊の限りを尽くすこともでき、容赦なく民草を虐げることもできる。俺がしたいと思うことは俺自身の力が叶える」
「それが王様のしたいこと?」
「どうだろうな」
王様はもっと笑顔になった。
とてもつまらなそうに笑ってる。
「せっかく作ったお城も街もそれ以上も壊しちゃうの?」
「今はそんな気分だ」
「寂しすぎてみんなが憎くなっちゃった?」
「ある意味な」
「そっか……王様にはそれができる力があるんだもんね」
俺は……ちょっと昔を思い出していた。
まだあの洞窟に住み着くもっと前。
記憶としては置いてあるけど、思い出みたいに感情を乗せると忘れたはずの気持ちも思い出すから俺は首をふってそれを頭から追い出す。
「エト?」
「……俺は弱っちぃから、寂しいのには慣れるしかなかった。時間が掛かったけど今は一人でも本当に楽しいんだ」
「そうみたいだな」
王様はなぜだか忌々しいそうに頷いた。
「……俺、王様といるとき少しだけ恐かった」
頭から追い出そうとした残りが口から溢れた。
音になると自分の声なのに心が共鳴するように震えてくる。
「俺の力がか?」
「一番始めはね、でもどんどん別の恐いが出てきた」
「なんだ」
「王様と一緒にいる時間が長くなれば俺はまた寂しいを思い出しちゃうかもしれないから」
「……だから逃げたのか」
「逃げる? それとはちょっと違うよ、皆がいてもいいってなってるときは恐くても王様と一緒にいた。でも俺はまた要らないになったから別のところに行くだけ」
「それが逃げなんだ」
「どうして?」
「俺が戻るまでなぜ待たなかった?」
「王様が困るのは悲しいから、王様優しいから出ていくことにダメって言うかもしれない」
「そうだ」
「でも俺がいると困る人がいっぱいいて、やっぱりそれはダメだよ。俺は……それなら独りがいい」
昔優しい人がいて俺と一緒にいてくれた。
優しい人はみんなに優しいから人気者で、でも俺は嫌われ者だから優しい人はそのうち間に挟まれてあまり笑わなくなった。
どうすればいいかって難しい顔をしてることが多くなったから、俺はいっぱいの方を選べと説得した。
優しい人は最後には頷いてくれて、俺はサヨナラした。
王様にそう説明した。
「でも結局悲しませた。最後は泣いてた」
「俺には話もしなかっただろ」
「王様は……俺には説得が難しいと思って」
王様は俺より俺を分かっている部分があるから、簡単に言いくるめられちゃう。
でも今日の王様はもっとシンプルだった。
「寂しい」
「え?」
「他のどんな奴が近くにいようとも、お前がいなければ俺はずっと寂しいままだ」
「ぇ」
「このひと月、俺はお前が恋しくて仕方がなかった。寂しくて寂しくて、何も手につかなかった」
「王様」
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なんだか王様に初めて感じる妙な怖さ……悔しそうな忌々しそうな、拗ねてるような。
なんだがとてつもなく申し訳ない気分になってくる。
「ご、ごめんなさい」
「お前が弱いことがこれほど俺を苦しめるとは」
「っん!」
きつく抱き締められ唇を奪われる。
久しぶりの感触にめまいがするほどの快感が体を走り、口の中を貪られ、王様の冷たい体とは真逆の熱い舌が俺の舌を絡めとろうとする。
「っ、ぅ……ぁ、」
思考する余裕など少しもなくて、気持ち良さに引き摺られるようにして自分からも求めてしまった。
「……お前はこういうときだけ素直だな」
「気持ちイイのは好き」
ふわふわした感覚の体を抱き締められているだけで心地好かった。
「俺に乱暴されるとは思わないのか?」
王様は自分のシャツを脱いで逞しい体を月明かりに晒しながら、俺を優しく睨む。
「……痛いのはキライ」
「だろうな、でも今の俺からは逃げない」
「ここでするの? 外だよ」
下は土と石ころばかりで、脇にそれても草と木々の根だ。
「立ったままでもできるだろ」
「誰か来るかもだよ」
真夜中でも活動している人達はいる。
見られるのは嫌だな。
「恥ずかしいのか」
王様はからかうように笑うけど、そんなんじゃない。
「変な顔見られるのがヤだし、集中できない」
「俺には良いのか? その顔を見せて」
「王様がさせてるんじゃん、見たくなかったらまたしないでしょ? それにたまに可愛いって言ってたから良い、それなら大丈夫」
「……可愛いから仕方ないな」
「俺には分からないけど、王様がそう思うのは否定しない。それは王様の勝手」
「それなら思う存分堪能させてもらう」
「誰も来ないところが良い、久しぶりだし俺も堪能したい」
王様とするのは気持ちいい。
意味のない行為だけど、だからこそ与えられるものはとことん楽しみたい。
……それに、王様の肌が恋しかったとキスでちょっと自覚した部分もあるし。
王様はやっぱり少し呆れ顔をするけど、頷いてくれる。
「……全く、結界張ってやるから我慢しろ。今の俺に猶予はない」
「誰も来ないなら、どこでも」
立ったまま木にもたれるようにして、王様は焦るように俺の体をまさぐる。
自分のシャツは脱いだけど、俺のを脱がせるつもりはないようで服の上からや裾から手を入れて触りはじめた。
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