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第一章
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まさか本物の剣を振り回す日が来るなんて思わなかった。
あ、そういえば小学生の頃に、魔法のステッキと命名された木の枝を振り回した経験があったな。でも当然いい加減だったわけで、もちろん何も起こらなかったし。
今はそれが目の前で本気で使われているわけですよ。
陽炎のようなおぼろげな黒い物体は、人の形をしているような獣のような、明確に何なのか分からない。シミュレーターによって出てきているのではないそうで、本格的に僕らを消滅させようとしてくる。
それをメガネを掛けたフモフモ耳のうさぎさんが本物の魔法のステッキで泡や電撃を繰り出し敵と戦ってて、ガッコウでの泣き虫ぶりの方が偽りだと疑いたくなるほど、華麗に飛んで跳ねている。怯む気配なんて微塵も感じられない。
これがノサの本当の姿なんだろうか。
そして僕の手にあるのは一振りで岩を砕くことのできる剣。
自分もその戦いの中にいる。それなのに恐怖心がないことが何より不思議だ。
さっき感じた恐怖は敵の襲来とともに俺の中から消えた。そして当たり前のように剣で敵に斬りつけ、目の前から敵が消え去り、そして次の敵が現れる。
そして思考はいつも通りで、恐怖もなければ動揺もない。せめて無我夢中だったらちょっとは納得できるのに、周りが何してるかまで分かってしまうほど頭も心も冷めてしまっている。
リューはベマの周りを激しく飛び回りながら、その翼で起こした風で敵をなぎ倒している。吹き飛ばされたその敵たちはさながらカマイタチにでも襲われたかのように鋭い傷を負い、その傷から溶けるように消えていっていた。
そうやってリューがやってくる敵を蹴散らしている間、その中心で静かに何か呟いているベマ。何をしているのか聞いてはいないが、きっと大掛かりな魔術でも使うつもりなのだろう。そのために、無防備になる彼女をリューが守っている。これが日頃から訓練をいている彼らの成果なのだ。
さすがにそうやって周りに目をやっていると無傷って訳にはいかないけど、それでも敵の攻撃をかわすぐらい造作もない。
こういう関係のゲームすらしたことないのに。それなのに自分の手足は何の躊躇いもなく自然に動いていく。
どういうことだろう。一体自分のどこにこんな能力が隠れていたんだろう。
躊躇い無く動く体とは別で、思考には疑問ばっかりだ。
それも仕方なくやってくる敵を切っては棄てしていると、オードリーが背中を合わせてきた。互いに視線は敵の方に向けているので、オードリーの表情を見ることはできないけど、どこか楽しそうに話しかけてくる。
「意外にやるな」
「それはどうも」
オードリーとは対照的に冷たい声になる。
さすがに戦いを楽しむことはできない。オードリーの楽しそうな声には呆れてしまう。
一体何が楽しいのか。
「なあ、この世界ではこれが日常?」
目の前から敵が退く様子はなかったが、疑問を解消するため会話を続けると、意外な返事が戻ってきた。
「こんなこと生まれて初めてだ!」
「―――え?」
思わずオードリーを振り返ってしまった。
「え? ちょっと、どういう事だよ?!」
「危ないぞ」
「は?――――うわっ」
目線を元に戻すと真っ赤な閃光が目の前まで迫っていた。
当たる! と思った瞬間、ノサがシールドを張って守ってくれた。そしてそのシールドを解くと同時に倍以上の威力のありそうな砲弾を打ち返す。そしてこっちを“ギッ”と睨んで次の敵に向かって跳ねていった。
「……危なかった」
睨まれてもしょうがないな。今は一生懸命戦おうではないか。疑問も生きていればこそなんだし、これが終わってからでもゆっくり聞きましょう。
結局、意識して何も考えずに戦っていたらいつの間にやら敵はいなくなっていた。
しかし、戦闘訓練用のジャングルからは大きく外れてしまい目の前には砂浜と青い海が広がっていた。
「もうすぐ日が沈みそうだな」
リューの言葉に思わず空を見上げる。
「今日中に帰れる?」
「何言ってんだ、これから俺たちは城に向かうって昼間話しただろう?」
「…え?」
「アオイ、ぼーっとしてたから聞いてなかったんじゃないの?」
ノサの言葉に思わず顔をしかめたら、やっぱり、と呆れ顔をされた。
「あれだけ動揺してたくせに結局聞いてないんだから」
もしかして謎の空間に飛んでた間に?
「さっきのあいつ等も何者か調べねぇとな。シンの目的も果たせる、全部一遍に片付けるのにはそれが一番だ。アオイの事もぜってー何か分かるぞ」
オードリーはそれだけ言うと海岸から少し離れた場所までみんなを連れて行き、そこらの木や葉っぱで簡易のテントを作り出す。
それに合わせて、ノサとベマが食料を探しに行き、残りはオードリーを手伝う。
すっかり日も暮れたころ、無事テントもでき、木の実や魚が調理されて焚き火の周りに並べられた。
美味しい料理に雰囲気も和やかで、他愛も無い会話がとても心地よかった。その場であえて僕は何も聞かなかったのは戦闘の間に不思議といろいろと思いついたから。ある程度の運動は脳を活性化するのにいいみたいだ。何も考えないことが、記憶を整理するのに役立ったのか、パズルのピースがパチパチとはまっていく様に僕の頭の中に一つの予想図が出来上がっていた。
長い一日で、物事は大きく進みだし、なんとなくだけど解り出してきた。
きっと僕は僕の問題でここへ来た。今まで避けに避けたことから逃げ切れなくなったのだ。だから僕はこの世界に無理やり連れて来られてしまった。
でもそうならば、この世界が何なのかは分からないなりに、向こうに帰る方法は掴めるはずだ。
そう思えた安心感というか、またもや開き直りというか、帰れると思うとここに居るみんなとの時間を大切にしたくなる。そう遠くない未来、別れはやってくる。楽しいと思えば思うほど切ない気持ちになったのは今日が初めてだった。
夕食の後、各々明日の準備をし出した。武器の手入れや薬草の調合。エネルギーを溜め込み簡易爆弾まで作れるらしい。
僕はもちろん何もできないから、火の番も兼ねて焚き火を眺めていた。
オードリー、リュー、ノサ、ベマは幼馴染。見ていてそれがよく分かる。憎まれ口を叩こうと、ちゃんと大事なところは繋がっているような雰囲気。大切な関係。
その感情は僕にもよく分かった。向こうの世界に帰らなければ、そう思わせてくれるのはそういう人が向こうにいるから。
「幼なじみかぁ……」
その僕の小さな声に返事があった。
「アオイにもいる?」
その声は零れるように降ってきて、そっと、シンが横に座る。
「……アオイにも幼なじみっているの?」
俯き、囁くような声で話す。そういえばシンの声を真面目に聞くのは初めてかも。
静かな場所で聞くその声に、なんとなく僕は自分の想い人が浮かんだ。シンは見た目も男の子っで感じで、彼女とは似ても似つかないが、節目がちなところがそう思わせたし、子供特有の中性的な声が少し似ている気がした。
そうは思っても彼女に抱くような緊張感はなくシンと話すことができるのが、我ながら笑えてしまった。
「うん、真裏に住んでる兄妹が幼馴染。僕より一つ上の兄貴と一つ下の妹の二人兄妹なんだけど」
「…そうなんだ。いまでも仲良し?」
「仲が良いって言うのかなー、兄貴の方はスッゲー頭良いんだけどちょっと性格が悪いんだよな。嫌みっぽいっていうか。顔が良いのは遺伝だから嫉妬もないけど、あの二重人格ぶりはもう憎しみしか生まないね。僕には嫌みなことしか言わないくせに、ちょっと違う人が来ると瞬時に爽やか人間気取って紳士ぶるから、八方美人するなら僕の方にもいい顔しろって感じだ、マジ嫌な奴」
本当にもう、あんなのが幼なじみなんて悔やまれることこの上ない。
勝手に思い出して勝手に憤慨している僕の横で、シンは少年らしくない微笑みで「妹さんの方は?」と静かに聞いてくれた。
「妹の方も口が達者でうるさいな。世話焼きでさ、僕がぼーっとしてるように見えるみたいであれこれうるさいの。もう面倒だからほっといてるけどね」
「なんかぼーっとしてるっていうのはちょっと分かるな」
クスクスと笑いながら小さく頷かれた。
まぁ、自分でも少しは自覚があるから落ち込みはしないものの、出会って間もない人だとさすがに思うことくらいはある訳で……。
「そんなにそういう風に見える?」
「……うん」
そう言ってやさしく頷かれたらしょうがない。これからもそう言う人間なんだと割り切って生きていこう! そう心に誓おうとした瞬間。
「なぁーにしょげてんだ、アオイ!!」
思いっきり背中を叩きながらオードリーがドカッと横に来た。一瞬息をのむほどの驚きと衝撃。
「っっイッッテーー」
「あははは、悪いな。思いっきり励ましてやろうという気持ちが腕に伝わっちまったみたいで」
少しも悪びれてる様子はないが、気を使っているのだろうと心優しい解釈をして、お礼に足を踏んづけて差し上げた。
「イッテェェー、コラッアオイ何すんだ!!!」
「いえいえ、向こうの世界ではこれが伝統的なお礼の仕方なんですよ」
「嘘付けコノヤロー!」
「諺まであるくらいですから、“恩を仇で返す”って言うんですよ」
「仇って言ってるじゃねーか!」
「あっそうですねー、失礼しました」
ペコッと頭を下げると、いつかのように「あ、いや、こちらこそ…」とペコッと頭を下げるオードリー。これはどうやら癖のようで、どんなに怒っていようとも頭を下げてくれちゃう。それが本気で怒っていないという印でもあるんだからホント憎めないカワイイ奴。
「おい!! それヤメロって言っただろう!!」
僕も例の癖が出てしまうから、もうオードリーのペコリ癖と僕の抱きつき癖は連動してしまうシステム、ここに完成ッス!
そこへノサもリューもやって来て、結局みんなで騒がしく過ぎていった。
あ、そういえば小学生の頃に、魔法のステッキと命名された木の枝を振り回した経験があったな。でも当然いい加減だったわけで、もちろん何も起こらなかったし。
今はそれが目の前で本気で使われているわけですよ。
陽炎のようなおぼろげな黒い物体は、人の形をしているような獣のような、明確に何なのか分からない。シミュレーターによって出てきているのではないそうで、本格的に僕らを消滅させようとしてくる。
それをメガネを掛けたフモフモ耳のうさぎさんが本物の魔法のステッキで泡や電撃を繰り出し敵と戦ってて、ガッコウでの泣き虫ぶりの方が偽りだと疑いたくなるほど、華麗に飛んで跳ねている。怯む気配なんて微塵も感じられない。
これがノサの本当の姿なんだろうか。
そして僕の手にあるのは一振りで岩を砕くことのできる剣。
自分もその戦いの中にいる。それなのに恐怖心がないことが何より不思議だ。
さっき感じた恐怖は敵の襲来とともに俺の中から消えた。そして当たり前のように剣で敵に斬りつけ、目の前から敵が消え去り、そして次の敵が現れる。
そして思考はいつも通りで、恐怖もなければ動揺もない。せめて無我夢中だったらちょっとは納得できるのに、周りが何してるかまで分かってしまうほど頭も心も冷めてしまっている。
リューはベマの周りを激しく飛び回りながら、その翼で起こした風で敵をなぎ倒している。吹き飛ばされたその敵たちはさながらカマイタチにでも襲われたかのように鋭い傷を負い、その傷から溶けるように消えていっていた。
そうやってリューがやってくる敵を蹴散らしている間、その中心で静かに何か呟いているベマ。何をしているのか聞いてはいないが、きっと大掛かりな魔術でも使うつもりなのだろう。そのために、無防備になる彼女をリューが守っている。これが日頃から訓練をいている彼らの成果なのだ。
さすがにそうやって周りに目をやっていると無傷って訳にはいかないけど、それでも敵の攻撃をかわすぐらい造作もない。
こういう関係のゲームすらしたことないのに。それなのに自分の手足は何の躊躇いもなく自然に動いていく。
どういうことだろう。一体自分のどこにこんな能力が隠れていたんだろう。
躊躇い無く動く体とは別で、思考には疑問ばっかりだ。
それも仕方なくやってくる敵を切っては棄てしていると、オードリーが背中を合わせてきた。互いに視線は敵の方に向けているので、オードリーの表情を見ることはできないけど、どこか楽しそうに話しかけてくる。
「意外にやるな」
「それはどうも」
オードリーとは対照的に冷たい声になる。
さすがに戦いを楽しむことはできない。オードリーの楽しそうな声には呆れてしまう。
一体何が楽しいのか。
「なあ、この世界ではこれが日常?」
目の前から敵が退く様子はなかったが、疑問を解消するため会話を続けると、意外な返事が戻ってきた。
「こんなこと生まれて初めてだ!」
「―――え?」
思わずオードリーを振り返ってしまった。
「え? ちょっと、どういう事だよ?!」
「危ないぞ」
「は?――――うわっ」
目線を元に戻すと真っ赤な閃光が目の前まで迫っていた。
当たる! と思った瞬間、ノサがシールドを張って守ってくれた。そしてそのシールドを解くと同時に倍以上の威力のありそうな砲弾を打ち返す。そしてこっちを“ギッ”と睨んで次の敵に向かって跳ねていった。
「……危なかった」
睨まれてもしょうがないな。今は一生懸命戦おうではないか。疑問も生きていればこそなんだし、これが終わってからでもゆっくり聞きましょう。
結局、意識して何も考えずに戦っていたらいつの間にやら敵はいなくなっていた。
しかし、戦闘訓練用のジャングルからは大きく外れてしまい目の前には砂浜と青い海が広がっていた。
「もうすぐ日が沈みそうだな」
リューの言葉に思わず空を見上げる。
「今日中に帰れる?」
「何言ってんだ、これから俺たちは城に向かうって昼間話しただろう?」
「…え?」
「アオイ、ぼーっとしてたから聞いてなかったんじゃないの?」
ノサの言葉に思わず顔をしかめたら、やっぱり、と呆れ顔をされた。
「あれだけ動揺してたくせに結局聞いてないんだから」
もしかして謎の空間に飛んでた間に?
「さっきのあいつ等も何者か調べねぇとな。シンの目的も果たせる、全部一遍に片付けるのにはそれが一番だ。アオイの事もぜってー何か分かるぞ」
オードリーはそれだけ言うと海岸から少し離れた場所までみんなを連れて行き、そこらの木や葉っぱで簡易のテントを作り出す。
それに合わせて、ノサとベマが食料を探しに行き、残りはオードリーを手伝う。
すっかり日も暮れたころ、無事テントもでき、木の実や魚が調理されて焚き火の周りに並べられた。
美味しい料理に雰囲気も和やかで、他愛も無い会話がとても心地よかった。その場であえて僕は何も聞かなかったのは戦闘の間に不思議といろいろと思いついたから。ある程度の運動は脳を活性化するのにいいみたいだ。何も考えないことが、記憶を整理するのに役立ったのか、パズルのピースがパチパチとはまっていく様に僕の頭の中に一つの予想図が出来上がっていた。
長い一日で、物事は大きく進みだし、なんとなくだけど解り出してきた。
きっと僕は僕の問題でここへ来た。今まで避けに避けたことから逃げ切れなくなったのだ。だから僕はこの世界に無理やり連れて来られてしまった。
でもそうならば、この世界が何なのかは分からないなりに、向こうに帰る方法は掴めるはずだ。
そう思えた安心感というか、またもや開き直りというか、帰れると思うとここに居るみんなとの時間を大切にしたくなる。そう遠くない未来、別れはやってくる。楽しいと思えば思うほど切ない気持ちになったのは今日が初めてだった。
夕食の後、各々明日の準備をし出した。武器の手入れや薬草の調合。エネルギーを溜め込み簡易爆弾まで作れるらしい。
僕はもちろん何もできないから、火の番も兼ねて焚き火を眺めていた。
オードリー、リュー、ノサ、ベマは幼馴染。見ていてそれがよく分かる。憎まれ口を叩こうと、ちゃんと大事なところは繋がっているような雰囲気。大切な関係。
その感情は僕にもよく分かった。向こうの世界に帰らなければ、そう思わせてくれるのはそういう人が向こうにいるから。
「幼なじみかぁ……」
その僕の小さな声に返事があった。
「アオイにもいる?」
その声は零れるように降ってきて、そっと、シンが横に座る。
「……アオイにも幼なじみっているの?」
俯き、囁くような声で話す。そういえばシンの声を真面目に聞くのは初めてかも。
静かな場所で聞くその声に、なんとなく僕は自分の想い人が浮かんだ。シンは見た目も男の子っで感じで、彼女とは似ても似つかないが、節目がちなところがそう思わせたし、子供特有の中性的な声が少し似ている気がした。
そうは思っても彼女に抱くような緊張感はなくシンと話すことができるのが、我ながら笑えてしまった。
「うん、真裏に住んでる兄妹が幼馴染。僕より一つ上の兄貴と一つ下の妹の二人兄妹なんだけど」
「…そうなんだ。いまでも仲良し?」
「仲が良いって言うのかなー、兄貴の方はスッゲー頭良いんだけどちょっと性格が悪いんだよな。嫌みっぽいっていうか。顔が良いのは遺伝だから嫉妬もないけど、あの二重人格ぶりはもう憎しみしか生まないね。僕には嫌みなことしか言わないくせに、ちょっと違う人が来ると瞬時に爽やか人間気取って紳士ぶるから、八方美人するなら僕の方にもいい顔しろって感じだ、マジ嫌な奴」
本当にもう、あんなのが幼なじみなんて悔やまれることこの上ない。
勝手に思い出して勝手に憤慨している僕の横で、シンは少年らしくない微笑みで「妹さんの方は?」と静かに聞いてくれた。
「妹の方も口が達者でうるさいな。世話焼きでさ、僕がぼーっとしてるように見えるみたいであれこれうるさいの。もう面倒だからほっといてるけどね」
「なんかぼーっとしてるっていうのはちょっと分かるな」
クスクスと笑いながら小さく頷かれた。
まぁ、自分でも少しは自覚があるから落ち込みはしないものの、出会って間もない人だとさすがに思うことくらいはある訳で……。
「そんなにそういう風に見える?」
「……うん」
そう言ってやさしく頷かれたらしょうがない。これからもそう言う人間なんだと割り切って生きていこう! そう心に誓おうとした瞬間。
「なぁーにしょげてんだ、アオイ!!」
思いっきり背中を叩きながらオードリーがドカッと横に来た。一瞬息をのむほどの驚きと衝撃。
「っっイッッテーー」
「あははは、悪いな。思いっきり励ましてやろうという気持ちが腕に伝わっちまったみたいで」
少しも悪びれてる様子はないが、気を使っているのだろうと心優しい解釈をして、お礼に足を踏んづけて差し上げた。
「イッテェェー、コラッアオイ何すんだ!!!」
「いえいえ、向こうの世界ではこれが伝統的なお礼の仕方なんですよ」
「嘘付けコノヤロー!」
「諺まであるくらいですから、“恩を仇で返す”って言うんですよ」
「仇って言ってるじゃねーか!」
「あっそうですねー、失礼しました」
ペコッと頭を下げると、いつかのように「あ、いや、こちらこそ…」とペコッと頭を下げるオードリー。これはどうやら癖のようで、どんなに怒っていようとも頭を下げてくれちゃう。それが本気で怒っていないという印でもあるんだからホント憎めないカワイイ奴。
「おい!! それヤメロって言っただろう!!」
僕も例の癖が出てしまうから、もうオードリーのペコリ癖と僕の抱きつき癖は連動してしまうシステム、ここに完成ッス!
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