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一ヶ月後。
すっかり寒くなった冬の日、瞬は大輔に再会した。
偶然にではなく、強引にだ。
第二回合コンが開催された。それもメンバーはまったく一緒。
瞬から言わせて貰えれば、もう合コンとは言えない。カップルは固定しているからだ。
なんと瞬と大輔以外はペアは固定されていて、正式に付き合っている状態ではないのもいるが、それでも各々もうしっかり親交を深めていたのだ。

「それぞれで勝手にやればいいだろ? なんでまたみんなで集まる必要があるんだ」

行く気がないことを見透かされ、店先にまで迎えに来た相手にそう主張したのは的外れではないはずだと瞬は思ったのだが、その幹事で友人の白鳥からは、にっこり笑顔が返ってきた。
白鳥は瞬よりも小柄で、大輔の好きそうな庇護欲をそそるような可憐でカワイイタイプだ。
ゲイの中では好みが分かれるが、ノンケ相手にも有効な容姿だ。

その白鳥の意中の相手はインテリ眼鏡の若草 和一(わかくさ かずいち)。
大輔と同じ会社で部署違いの友人だと前回言っていた、ような気がする瞬。今更深く確認する気もない。

白鳥は幹事なのだから 元からの知り合いなのかと思ったら、相手を集めたのは別らしく何とも奇っ怪な合コンだ。
白鳥の友人・菅(かん)がナンパにあった相手との合コンだったらしい。
菅と瞬は面識はなかったのだが、菅はかなり内気な性格らしくナンパ時に無理やり交換させられた連絡先について白鳥に相談し、それを利用して瞬のために前回の合コンは開催された。
なんと菅はナンパという出会いに恐怖を感じながらもその相手のことが気になってしまったらしい。
だったら白鳥が間に入って勝手にやってくれと思う瞬だったが、口にはしなかった。

そして今回もその菅が意中のナンパ相手スポーツマン・禾崎(のぎざき)とのことを白鳥に相談しての開催だった。

「友のために手を貸すのは当然でしょ」

白鳥のキラキラ笑顔に、瞬は辟易だ。
店内には客もおらず、店番も瞬しかいない。

「だとしても俺を誘う必要なくない?」

行く気のない瞬がドタキャンしないように瞬の職場の酒屋に閉店間際に迎えにくる執念にあきれていることを隠しもせず瞬が言えば、白鳥は変わらぬ笑顔で瞬の手をとった。

「瞬が来なかったら大矢さんが一人ぼっちになっちゃうでしょ! 」
「大矢さん、ねぇ」
「この前仲良く二人で話してたじゃん」
「仲良く、ではない」

あれは仕方なくだとどうして分からないんだと、言いはしない。なぜなら、白鳥は分かって言っているからだ。
現に笑い方がわざとらしい。
瞬は片付けを始めながら、なんとか行かずに済まないかと考えている。

「そんなにタイプじゃないし、向こうだってそうだって」

流石にマナーとして相手のタイプがどんなのかは口にしなかったが、白鳥は瞬の過去を知っているだけあって、そんな曖昧な言葉では逃してくれない。

「瞬のタイプなんてあってないようなもんだよ。特に容姿なんてバラバラだったじゃん」
「そうだとしても、あんなマッチョはさすがに」
「ガッシリ系だけどあれは筋肉の為のマッチョとは違うでしょ」
「何か違う?」
「ほら、見せるためにつける筋肉と実用的なの筋肉は違うって。大矢さんのは実用的なの。スーツだって全然パツパツじゃなかったでしょ! 綺麗に着こなして尚わかるガタイの良さ、顔だってカッコよくて優しそうだったし、仕事もできるって話だよ」
「そんなに褒めるならお前が付き合えよ……」
「瞬にこそでしょ!」

意中の相手が別にいるからって勝手だなーと瞬はやっぱりため息しか出ない。
けれど、流石に9人で集まらせるのは気が引ける。

「大矢さんも誘わなければ……」

そんなこと当日に言ってどうにもならないのは瞬だって理解している。だからこそ、今後のためにも言わなければならない。
けれどそんなもの白鳥にはあっさり蹴られる。

「そんなの尚更可哀想でしょ、向こうは五人とも友達なんだよ」
「ならお前と菅とでダブルデートすれば?」
「ダメ、他からもまたみんなでって言われてたから今日予定合わせたんだよ」 

その予定合わせに参加したつもりはない。

「……俺が独り身で暇だからって知らせてきたの昨日のくせに」
「その前から僕とのご飯の予定にしてあったでしょ」
「卑怯者め」
「なんとでも。じゃあ行こうかー」

店奥の親父に声をかけて、嫌々白鳥に連れられて居酒屋の個室で前回の顔ぶれと再会した。
前回の合コンとは違い、今回はもっとフランクな雰囲気だった。皆相手が決まっているから余裕があるのか、かと言ってそれぞれでイチャイチャするわけでもなく、仕事の話とかしている。
瞬は相変わらず聞き役にまわり酒ばかり飲んでいた。
だがしかし今回は二次会はなく、しかもそれぞれカップルで別れると言うのだ。
当然残るのは瞬と大輔。

「……えーっと」
「良ければ俺ともう一軒いきませんか?」
「……ですよねぇ」

謀られたとも思った瞬だったが、大輔の好みとは違うことは分かっていたので友人としてかと思い直して、大輔に従った。
大輔行きつけの居酒屋は程よく騒がしくて逆に落ち着いた。

「この前はいきなり変な話をしてスミマセンでした」
「あー、別に気にしてないですから。他言無用も心得てます」

苦笑の大輔にほぼ無表情で返したくせに、瞬はこんな自分と一緒にいる大輔が急に可哀相になってきた。
週末会社帰りの人が楽しそうにごった返しているいる店内で、大輔は興味もないだろう俺と二人。大輔の友人たちは皆好意を持った相手と、さらにその相手も同じ気持ちでいると感じながら楽しい時間を過ごしているだろうにと、さらに哀れになってしまった。

「あの、もういいですよ」
「え?」
「俺といてもプラスになることないと思うんで、他の人たちに付き合うのも今日で終わりにしますから」

察しのいいはずの大輔は、はっきり言わない瞬の言葉に少し黙って考え込んだ。
だが、すぐさま笑顔が返ってくる。

「俺といるのが楽しくないのは分かりますが、もう少し一緒にいましょう」
「どうしてですか?」

瞬は驚きで喰いかかるように聞いていた。
もはや貼り付いているとしか思えない大輔の笑顔は、音が聞こえそうなほどニコニコとしている。

「俺は瞬さんに興味があるからです」
「え? えーっと、それは、えっと、あ! 珍獣的な興味?」

それなりの整った顔と平均的な身長で初対面の受けだけは良い瞬だったが、中身はたまに残念だと言われる。その理由は一昔前ならその肉食ぶりに、今はその枯れ具合にだ。
元カレと付き合っていた二年の間に、瞬は変わった。本質を隠すためにアグレッシブになっていたんじゃないかと自分で思うほど、昔の自分にはもう戻れない確信があった。
だからこそ大輔を内心憐れんだ。
そんな瞬に気がついているのか、いないのか、笑顔のままきっぱりと否定した。

「瞬さんは全然珍獣っぽくないですよ」
「……じゃあ」
「もちろん恋愛的な意味です」
「だって、ウサギみたいなのが好きなんだろ?」

大輔は何故だかより楽しそうな笑顔になった。

「ウサギと言ったのはただのイメージしやすい例えだったんですが」
「ナニ? 俺みたいのもゾーンに入るってこと? 全然貧弱そうには見えないと思うんだけど。それか、大矢さんから見れば大抵はそう見えるって感じ?」

酒屋が職場なだけあって重いものを運ぶ筋力だけはある。
それだけでは大輔と比べるとまでもないが、すさんだ心はしていても性格だって内気なことは絶対にない。

「そういうわけではないのですが、少し危なっかしいとは感じています」

たった二回会っただけの大輔にそんなこと感じさせられる訳がないと、端から疑ってかかった。

「白鳥から何か聞いてんの? 若草さん経由か?」
「少し前に別れたことなら聞いています」

それは瞬自身でも前回話している。でも実際それを引きずっているわけではないから傷心してるとは見られなかったはずだ。それに初対面の相手が以前の瞬を知っているはずがない。
けれど、瞬がザルどころか枠なほど酒に強いことも知らないだろうから、酒を煽っていたことがそう見えたのかもしれない。

「憐れんでるとか、弱ってるところをとか思ってるなら、御免こうむる」

少しだけ語気が強まった瞬に対して、大輔のスタンスはまったく変わらない。

「チャンスだとは思っていますよ、こうして二度目も会えたわけですし」
「こういうのは会えたって言わないから。俺しばらく恋愛方面は必要としてない。ここが疲れちゃってんの、ちゃんと休ませないと」

瞬が胸のあたりを指して言うと、大輔はその手を掴んだ。
そして瞬が引く間もなく大輔はその手を自分の方へ引き寄せ、ネクタイの奥、心臓の上にあてる。

「休んでていいですよ、その分俺がドキドキしますから」

言われて感じるその鼓動に瞬は驚いた。

「……酒のせいじゃ」
「違います、瞬さんを見てるとずっとこうです」
「……病気?」
「恋の病ですね」
「…………引くわぁ」

なんとか取り返した右手を左手で包み込みように擦りながら、笑顔の大輔を伺う。

「大矢さんは、本当にMか?」
「残念ながらそうです」
「信じられん。そして俺は絶対Sじゃないから」
「やってみれば楽しいかもしれませんよ」

絶対にない。
力強く言い切ったが、そんな言葉を信じる大輔ではない。それはたった二回しか会ったことがない瞬でも確実に感じ取っていた。
さぞかし営業成績もいいのだろうと聞かずとも判るというものだ。

瞬はここにきて周りの気遣いに疲れてきていた。
すっかり変わってしまった瞬を心配してくれるのは有難かったが、恋愛などしなくても生きていけるし、ましてやその恋愛で幸せになれるとは思えなくなっている。

必死に欲していたときはただ待ってるだけじゃ何も起こらなかったのに、拒絶した途端瞬の下には出会いの話が色々と持ち込まれていた。
人生はままならない。

そうならば利用するだけ利用してやろうとヤケクソにこの瞬間なった。効かないとわかっている酒の力を借りて思い切る。

グラスに残ったもの全部を一気に煽る。

「じゃあやってやるよ」
「はい」

大輔は変わらぬ笑顔だった。


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