意外性も過ぎればただのマイナスですよね

nano ひにゃ

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男同士で合コンなんて……。
そう思って乗り気ではなかった瞬(しゅん)は、飲み放題だけでも楽しもうと周りの会話よりメニューを見るのに忙しかった。
5対5、タチとネコでということで瞬はネコ側に座っている。
前に座る男たちは瞬には十分すぎる条件の揃った相手だとちゃんと聞かずとも分かったが、最近恋人と別れたばかりで新しい恋人とどころか一夜の相手さえも必要としていなかった。

それでもせめてもの愛想だと、最初だけ全員に会釈した。ただ自己紹介は右から左で、聞いているふりだけ。貼り付けた微笑みだけで、場をやり過ごした。
もちろん自分の紹介もあっさり。

「瞬です。27歳でーす。好きになった人がタイプでーす。よろしくお願いしまーす」

自身の容姿はそこそこ。系統で言えばかわいい系ではあるが、平均身長のやや痩せ型。まぁ平凡といえば平凡だと瞬は自覚している。
一方、タチ側は全員服装はサラリーマン風であるものの、容姿は色んな種類のを集めてみましたと言いたいくらいに雰囲気が違う。
瞬の主観で言えば、スタイリッシュ、高身長マッチョ、インテリ眼鏡、爽やかスポーツマン、柔和な優男。
雰囲気は違えど皆カッコいいと言って間違いなかった。
どこの乙女ゲームだよ。
席に案内された一番最初の瞬の心の声だ。
幹事の顔を立てて一応笑顔ではあった瞬だが、本当はひたすらため息をついていたかった。

瞬がメニューの熟読の合間にささやかに話を聞いていると全員優良そうで、瞬を除くネコ達は喜々として話を振ったりアピールしたりと忙しそうだった。
瞬は焼酎の全制覇でもしてみようかと、横を通った店員に四杯目の注文をする。もちろん他の人間に注文の有無なんて確認しない単独行動だ。
しかし、瞬の行動を見止めたマッチョがついでにと周りの人間に追加を確認して注文する。
サラリーマンとしては当然のスキルなのかもしれないが、何ともさりげなくスマートだった。

瞬だってそれくらい通常ならばやる。
むしろ何年か前ならば、率先して気配りをして目の前の男を獲物とばかりにガツガツいっていた。そうやって、一か月前まで恋人だった男を捕まえたのだ。
結果としては浮気性のなんとも軽い相手だったわけだが、それでも次第に本気になってしまった瞬にはツラい別れになってしまった。

そもそも瞬の失恋の痛手を治すために友人が開いた合コンだ。
これほどの相手を見つけてきてくれたのは有り難いとは思うが、やはり積極的にはなれなかった。
元カレに未練があるわけじゃない、別れを切り出したのは瞬だった。単純に恋愛に対して疲れてしまったのだ。

そんなわけで、話を聞いているふりをして次々と酒を頼んだ。

そんな瞬を放っておいて他の九人はとても盛り上がったらしく、二次会のカラオケに雪崩れ込み、なんと三次会にまでなっていた。
瞬は友人に引っ張られるままに付き合わされ、インテリメガネの行きつけダーツバーに六人でやってきていた。他の四人はそれぞれ見事カップルになったようで離脱。
そしてここでも、すでに二組出来上がりそうだ。
つまりあぶれる一人がいるわけで……。

瞬は一人、カウンターで相変わらず酒を煽っていた。

「酒、強いんですね」

横に座ったのは高マッチョ。
可哀相に、と瞬は他人事の様に心の中だけでつぶやく。

「ザルなんですよ」

好きな相手の前以外では。という嫌味とも取れる嘘でさえももちろん声にはしない。
どんな状態だろうと瞬が酒に溺れることはない。

ツキノワグマを思わせる長身と体格、瞬が後ろに立ってしまうと前からは見えなくなるほどだろう。今は営業をしていると自己紹介していたような気がする程度にしか瞬には分からない。それでも笑顔はマストだが心の中は全く読ませない仮面のようだと瞬は少し感じた。

だから、話はさして聞いていなくとも目には入ってくる優しい雰囲気と気が利くと見て取れるこの男をそれほど信用はしなかった。

瞬より三つ年上の三十歳。
流石の洞察力なのか、瞬があまり話を聞いていなかったと分かっているらしく、会話の端々に自己紹介を挟んでいる。
清潔感のある短髪に、端正な顔立ち。身長は高いし、マッチョといえどレスラーやボディービルダーほどムキムキしているわけではない。細マッチョよりはマッチョ、スーツの幅から胸板厚そうだと瞬は見ている。
そんな奴は、合コンなどに来ずともモテるだろうに。生憎今の瞬の食指には引っかからない。

それからまた当たり障りのない会話を続けていたと思っていたのに、何故かその流れは思ってもいない方向に行き始めていた。

「俺どうしても性の不一致で別れてしまうんですよ」

体格のせいで威圧感があると思っているのか、殊更相手を恐がらせない柔らかい話し方をする、大矢大輔(おおや だいすけ)と名乗っていた男は深刻過ぎないけれども明るくとも言えない絶妙なトーンでそんな風に話し始めた。
瞬が牽制のジャブのように前の男の話をしたのが悪かったのだろう。すごく普通な奴だった前の男、目の前にいる男はとは真逆のとは言わず、けれどあなたのようなハイスペックそうなのはタイプじゃないよと匂わすための話題だったはずが。

「……特殊な、感じ、なの?」

ほんのちょっとの好奇心が瞬の中に芽生えていた。
大輔は手の中のグラスを軽く回しながら、意外にも真剣な顔で続ける。

「はっきり言ってしまえばMなんです、責められて虐められると感じるアレです」
「それならドSの」

そこで大輔がタチであることを瞬は思い出したのだ。

可愛がられたい、征服されたいから受け入れる側というのは多いかもしれない。もちろん違うのも大勢いるだろうけど。
瞬の場合は安心感だ。好きな男を受け入れると満たされる体と心。相手が男の体を抱けるというのも、瞬に安心をあたえる。
ただドSのネコもいないことはないだろう。ノンケの男でも女王様を欲するんだから、無い事はないと瞬は考えた。

「探せばいると思いますけど、そういう相手も」
「困ったことに俺が好きになる相手が違うんです」
「違う?」

大輔は本当に困ったように眉を寄せている。
会話の内容を聞かずに見れば、その愁いを帯びた表情に見惚れる人間もいるだろう程、整った顔立ちだ。
世界が違えば、王を間近で守る凄腕カリスマ近衛兵といった雰囲気だ。
そう考えた瞬間、異世界恋愛小説の読み過ぎか、と瞬は自分にこっそりツッコミを入れた。
けれどそう瞬が感じたその雰囲気はしっかりと大輔の心持に反映されているらしい。

「ウサギのような子が好きなんです、少し生命力が不安になるような、手を貸さなければ儚くなってしまいそうな」
「猫被ってるようなのじゃダメってことですか」

大輔は重く頷いた。
弱弱しいS……それは中々難しい気が瞬にもしてきた。
サドっ気を求めても、常日頃から傍若無人にされたい人ばかりじゃないだろうとは思うが、普通よりもっとか弱い方がいいとは。しかもそんな相手に虐げて欲しいとは。

「ウサギってことは小柄な方が、やっぱり?」
「そこは俺が大きいんで過度に求めなくても大丈夫なんですが」

確かに大輔と同じくくらいの人物を探す方が大変だとは思われた。
なんとも皮肉なものだなと瞬は密かに憐れんだ。これほど体格に恵まれてそれなのに心は虐げられることを求めてるなんて、逆に虐げたいと思ったら力で捻じ伏せずとも、求める人間は少なくないとも思うし、そこには需要と供給がしっかりと成り立つだろう。
そうなれば、大輔の悩みなど芽生えなかったはずだ。
力が有るからこそ、無闇にそれを使うなと言われて育ったのかもしれないと瞬は大輔の歪みの原因を考察した。
しかし、ふと瞬は思いついた。

「主導権を握るくらいなら、ウサギにも可能なんじゃないですか? 大矢さんが拒まなければ拘束することくらい全然できるし」
「やってもらったことはあります。ただ少し違うんです」
「別れなければならないほど、譲歩できなかったんですか」
「もちろんそれだけが原因ではなかったんですが、ギクシャクするきっかけにはなりましたね」

世の中セックスレスで離婚することを考えれば、それくらいのこととは決して言えないだろうと、瞬にも分かる。

「そうなると運命の相手……でもないと難しいかもしれませんね」
「そうですね」

瞬の少女漫画のような結論に、大輔も素直に頷いていた。
別に突き放したわけではないが、瞬だって必死に探して見つけた相手と散々な目にあってきていたからアドバイスなどできるはずもなく、かと言って無責任に大丈夫と励ますこともできなかっただけだった。



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