げに美しきその心

コロンパン

文字の大きさ
上 下
67 / 105
6章

板挟み

しおりを挟む
「お義兄さま、分かっていないわね。姉さまの似合う色はこっちよ?」

「いいや、この色は絶対に似合う!」

シルヴィアを挟み、レイフォードとミシェルがシルヴィアの洋服を巡り、言い合いになっている。

ゴードンや仕立屋はその険悪な雰囲気に始終オロオロと動向を窺っていたが、
シルヴィアに至っては、

二人共とても仲良くなったのね!と

嬉しそうに二人の様子を笑顔で見ていた。

「シルヴィア、この色好きだって言っていたよな!?」

レイフォードはエメラルドグリーンの生地を手にシルヴィアに確認する。

「姉さまの好きな色はこの空色の生地の色よ?
全く憎らしいけれど、ソニアの髪の色が姉さまが一番好きなのよ。」

静かにミシェルが空気のように身を潜めていたソニアをチラリと見遣り言い放つ。

「・・・・!!緑も好きだって言っていた!
・・・・だよな?シルヴィア。」

レイフォードは幾分かショックを受ける。
一番好きな色がよりにもよって、ソニアの髪の色だったとは。
だが、自分の瞳の色である緑も好きだと言質は取っている。
それは事実だ。

「はい、緑も好きな色です。」

シルヴィアは微笑みながら頷く。
その返答にどうだ。と言わんばかりにミシェルを見るレイフォード。

ミシェルはふぅ、と溜め息を吐いて、レイフォードに諭すように伝える。

「確かに姉さまは緑も好きな色ですが、
その色の様に何処ぞの瞳の色ではなく、新緑など自然の緑を好んでいるのですよ?
ねえ、姉さま?」

「え、ええ。そうね。(何かしら?ミシェから圧力を感じる。)」

シルヴィアが否定を認めない程のミシェルの言葉に、思わず頷く。

「な・・・!?そんな・・・。」


自分の瞳の色で好きだと言ってくれたのでは無い・・・?
驚愕の事実に、レイフォードは更にショックを受けて、言葉を失う。

茫然自失のレイフォードにミシェルは追い討ちをかける。

「あら、まさか、ねぇ?
本気で思っていたのかしら?
だとしたら、本当に御目出度い性格でいらっしゃるわね。」

「くっ!」

反論する言葉も無いレイフォード。
それに構わずミシェルは話を進める。

「姉さま、この色にしましょう?
デザインはいつもの様に私に任せて貰っていいかしら?」

「そうね、綺麗な色だし。お願いしてもいい?」

「勿論よ。ドゥランさん、じゃあいつもの通りに屋敷で打ち合わせしましょう。」

「は、はい。畏まりました。」

淡々と決めていくミシェルは仕立屋に、そう指示する。

レイフォードはその様子に思わず、声を上げる。

「お、おい。勝手に話を進めるな!
というか、何故仕立屋の名を知っている!?」

「ドゥランさんは私が懇意にしている仕立屋さんの一人よ。」

事も無げにミシェルは言う。

「姉さまのあの深紅のドレスを仕立てたのも彼。
仕事が早くて丁寧なのよ。
お義兄さまも、あのドレス気に入っていたでしょう?」

揶揄う様にミシェルが口角を上げてレイフォードを見る。

「・・・・!な、あ、あのドレスだと!!」

レイフォードはあの扇情的な、だがシルヴィアに恐ろしく似合っていたあのドレス姿を思い出して、
赤面する。

それを見てミシェルは更にニヤリと笑う。

「あら?お気に召さなかったのかしら?姉さまのあのドレス?」

「え・・・。そうだったのですか?レイフォード様。」

シルヴィアが不安気な表情でレイフォードを見る。

(コイツ!!態とか!?)

ニヤニヤと楽しそうな表情のミシェルを見て、レイフォードは内心で舌打ちをする。

先にシルヴィアを安心させなければならないと考え、
シルヴィアの肩に手を置く。

「いや、あのドレス、シルヴィアに良く似合っていた。
本当だ。似合い過ぎて、(周りの男がシルヴィアに言い寄って来ないか)心配だった位だ。」

「そ、そうだったのですか?
でも、心配させてしまったという事は、やはりお気に召さなかった・・のでしょうか?」

レイフォードの小声の部分が上手く聞き取れなかったシルヴィアは、
何を心配したのか分からないが、レイフォードに気を使わせてしまった事の方が重要だった。

「違うぞ!似合っていると言っただろう?
だから、その・・・。」

シルヴィアは歯切れの悪いレイフォードの言葉に首を傾げる。

「その、二人だけの時に着て欲しい。」

顔を紅くしたままレイフォードは告げる。
見るのは俺だけで良い、そんな独占欲剥き出しの言葉を吐く。
これには、ミシェルが呆れたと半目でレイフォードを見るが、全く無視をしてシルヴィアを見つめる。

「夜会用のドレスを、ですか?
それは・・・、!!」

シルヴィアはパァっと顔が明るくなる。

「ダンスの練習をしてくださるのですか!?
まぁ!嬉しいです!
私、ダンスが苦手で夜会の時にお誘いを受けても、
お断りしていましたの。」

シルヴィアに対比するかのように顔が暗くなるレイフォード。

「・・・そうだな。」

(まぁ、分かっていたさ。)

ぷっと吹き出す声の後、クスクスと笑い出すミシェル。

「ふふふ。本当に学習されないお方ね。
哀れを通り越して面白くなってきたわ。」

ギロリとミシェルを睨むが、動じる事無くミシェルはドゥランに話しかける。

「さぁ、行きましょう、ドゥランさん。
姉さまの為に、3日で仕上げましょう。」

「は、はい。」

「じゃあ、姉さま、出来上がりを楽しみにしていてね。」

ミシェルとドゥランは屋敷を後にする。






「なぁ、シルヴィア。」

「はい、レイフォード様。」

レイフォードは少し間を置いてシルヴィアに声を掛ける。

「先程ダンスに誘われるって言っていたよな?」

「?はい。何人かの方がお声を掛けて下さったのですが、」

「因みに誰が声を掛けてきた?」

「え、ええと、確か・・・。」

まるで尋問の様にシルヴィアに問い質す。
シルヴィアを放っておいたのは自分であるのにも関わらず、
シルヴィアに近寄る男をどうしても許す事が出来ない。

「ファンブル侯爵家の御子息様と、
マクスウェル侯爵家の御子息様達と、
ええと、それから・・・。」

シルヴィアは記憶を辿りながら、指折り数える。

「あいつ等か・・・。」

自身の悪友達。
シルヴィアに声を掛けるのも頷ける。

釘を刺しておかねばなるまい、心の中で考える。


「後、畏れ多かったのですが王太子殿下も・・・。」

「殿下もか!?」

これにはレイフォードも声が大きくなった。

「は、はい。流石に殿下のお誘いを断る事は出来ませんでしたので、」

「・・・・踊ったのか・・・?」

声が低くなる。
自分の嫉妬深さに嫌気がさすレイフォード。
シルヴィアに対して怒っている訳では無いのに、すっかり委縮してしまったシルヴィアは無言で頷く。

「ほ、本当に殿下にはご無礼ばかりを働いてしまって・・・。」

肩を落とすシルヴィア。

「何回も殿下の足を踏んでしまって、気にしないで良いと笑っていらっしゃったのですが、
本当に何回も踏んでしまってダンスの後、ちゃんと謝罪しなければと思いました。」

話している内にシルヴィアがその事を思い出してか、ほんのり頬が赤く染まって行くのを見て、
レイフォードは腹の底が煮える釜の様に、
沸々と熱くなるのを感じた。

「殿下は本当にお優しい方で、無理に誘ってしまったのは自分なのだから謝るのは自分だと逆に謝られてしまって。」

「シルヴィア。」

もう、いいとシルヴィアの話を切る。
自分で話を振っておいて、他の男の話を聞くのが耐えれなかった。

「レイフォード様?」

目の前のこの鈍感な妻をどうしてくれよう。

「・・・ダンスの練習だったよな?」

「本当にしてくださるのですか!?」

「ああ、植物園から帰って来てから行うとしようか。」

「はい!!ありがとうございます!」

素直に喜ぶシルヴィア。

「ああ、厳しくするからな。覚悟しておけよ?」

「分かりました!頑張ります!!」

(本当に覚悟しておけよ。)

レイフォードは一人ほくそ笑んだ。























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

旦那様、私は全てを知っているのですよ?

やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。 普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。 私はそれに応じました。 テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。 旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。 ………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……? それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。 私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。 その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。 ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。 旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。 …………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。 馬鹿な旦那様。 でも、もう、いいわ……。 私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。 そうして私は菓子を口に入れた。 R15は保険です。 小説家になろう様にも投稿しております。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。 そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。 だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。 側室が求めているのは、自由と安然のみであった。 そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...