げに美しきその心

コロンパン

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6章

絶対に(2)

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「デューイ!!
お前、何処に行ってた!
勝手に城を抜け出しおって!」

城に戻ってきたデューイを殴りかからんばかりにタレスが詰め寄る。
デューイはタレスを躱し、部屋にあった菓子を頬張る。

「何も変な所に行った訳じゃねえよ。」

「だから、何処に行っていた!」

「シルヴィアの所だよ。」

「お前・・・!あれほど関わるなと言ったのに!
何も馬鹿な事をしていまいな!?」

タレスは怒声を浴びせる。
デューイは飄々とした態度で言う。

「馬鹿な事?
シルヴィアかもしかしたら、俺達の国に来るかもしれないという話はしたが、
馬鹿な事はしてないな。」

「な・・・!何故そんな話になる!!
お前、まさか・・・。」

タレスの顔色が悪くなる。
シルヴィアに何か危害を加えようものなら、
もれなく鬼神による制裁が下る。

幾らタレスとて、鬼神相手では部が悪い。

目の前に居る自分の息子は鬼神の恐ろしさを、
話でしか知らない。

鬼神の逆鱗に触れる行いなど、愚行でしかない。

「俺達が自然薬として使っているあの木に興味があるみたいなんだよ。
是非ともその木の苗を持ち帰りたいんだと。」

「あの木を、またどうして?」

「さぁ、あいつの旦那がどうとか言ってたが、
レイフォードだっけ?そいつには興味がないから忘れた。」

「・・・・・・。」

レイフォードが関わるとなると、恐らくは先の騒動の発端となった。
流行り病の後遺症であろう。

あの木ならば、使い方によるが改善するのは治験済みだ。

「しかしあの娘が持ち帰った所で、どうしようもないと思うのだがな。」

「さぁ、お抱えの医者にでも作らせるんじゃあねぇの?
あそこの庭師とも、周りが見たら誤解する程、密な感じだったし。」

デューイはソファに寝転がり、欠伸をする。

「まぁ、本気で来る気ならこちらに連絡が来るだろうさ。」

デューイはそう言い、瞼を閉じて眠り始める。




「サリュエルが言っていたあの娘の、いや、ビルフォード家にある秘匿事項と関係あるのか・・・。」


タレスは顎に手を当て、一人呟く。



























談話室で食事をするレイフォードとシルヴィア。
だが、シルヴィアは非常に落ち着かない様子だった。


(な、何故こんなにくっついて食事をしているのかしら・・・・。)

ソファに座って待っていたシルヴィア。
レイフォードが帰って来て、対面に座るかと思っていたが、
シルヴィアの隣に腰掛けた。

思わずレイフォードを見たが、レイフォードは

「どうした?」

と言うものだから、シルヴィアは何も言えず現在に至る。

(どうしたらいいのかしら。食事中に席を立って向こう側に座るのも失礼よね。
私は嬉しいのだけれど・・・。)

またちらりとレイフォードを見る。
レイフォードと目が合う。
レイフォードは蕩けるように甘い笑顔をシルヴィアに向ける。

「!!!」

シルヴィアは堪らず下を向く。

(レイフォード様が眩し過ぎて直視できない・・・。)

無言のまま、パンを頬張る。


次々にパンを口に詰め込んで頬張るシルヴィアを愛おしく見つめるレイフォード。
そしてシルヴィアの頬をそっと手で触れる。

「シルヴィア、そんなに詰め込んだら喉を詰まらせるぞ?」

「むぐっ!?」

シルヴィアは体が大きく跳ね上がり、驚きのあまり変な声が出てしまう。
そんな声を出してしまった恥ずかしさから、シルヴィアの顔は見る見るうちに赤くなっていく。


(ああああ。今すぐこの場から逃げ出したい・・・。
レイフォード様、お気を悪くされていないかしら?)

横目でレイフォードをそっと見る。
レイフォードは俯き、口元を手で隠し、肩を震わせている。

「ふ、くくくく。だから言ったのに。はははは。
そんなに口に詰め込むからそうなるんだ。」

レイフォードは堪えきれなくなり、声を出して笑う。

「うう・・・。すみません。」

居たたまれなくなり、肩を落とすシルヴィアを見て、レイフォードは慌てる。

「怒っている訳では無いから、謝らないでくれ。」

シルヴィアもレイフォードが怒っている訳では無い事は分かる。
だが、

「大丈夫です。分かっています。
でも、レイフォード様におかしな姿を見せてしまい、幻滅なさったのかと思い、恥ずかしいと思っただけです。」

此処へ来て、レイフォードに自分の駄目な姿しか見せていないような気がしてならない。
これではレイフォードが自分を認めて貰いようがない、その事実に落胆しているシルヴィア。

すっかり落ち込んでしまったシルヴィアにレイフォードは苦笑する。
シルヴィアの頭を撫でて優しい声で言い聞かせる。

「馬鹿だな、こんな事位で幻滅する筈が無いだろう?
寧ろ俺の方が今までしてきた事で、シルヴィアが幻滅しているのでは無いかと恐れているのに。」

レイフォードの声に胸が早鐘を打つ。
甘く感じられる声にどうしたらいいか分からない。
混乱の中、シルヴィアは反射的にレイフォードに訴える。

「そんな!レイフォード様に幻滅だなんて、絶対にあり得ません!!
レイフォード様はいつも素敵で、私はもうずっと胸がドキドキしているのに・・・。
・・・!!私、何言っているのかしら・・・。
ごめんなさい!忘れてください・・・!」


シルヴィアは顔を両手で覆い隠す。
レイフォードも目を手で覆い、天を仰ぐ。

(これは、本当に忍耐力を試されているのではないだろうか・・・。
こんな事言われて、手を出すなと言う方がおかしい。)

シルヴィアは触れたい。
今も十分に触れているのだが、それ以上に触れたい。





「シルヴィア様に気持ちを伝えずに、
貴方が男女の関係を強いる様であれば、
シルヴィア様は深く傷付く事でしょう。
もし、そうなれば今度こそ私はシルヴィア様をビルフォード家へ連れ帰りますので、そのおつもりで。」


以前、ソニアに言われた言葉。
侍女の言葉なぞ、知った事かと撥ね付けれる筈なのに、
ビルフォード家のソニアという侍女は、どうにも他の侍女と違う。

「私の言葉は伯爵の言葉でもありますので、そこは心に留めて頂くようお願い致します。」

これも以前に聞いたソニアの言葉。
鬼神がバックに控えている以上、下手な事は出来ない。

自分の気持ちを鎮める様に、レイフォードは話を切り出す。


「ああ、あのな、植物園の事だが、シルヴィアの都合の良い日を教えてくれるか?」

ぱっとシルヴィアは顔を上げて、レイフォードの言葉で洋服の事を思い出した。

「レイフォード様。その事なのですが、私一度、ビルフォード家に帰って、「駄目だ。」
お洋服を・・・・え?」

シルヴィアがお伺いを立てる前に、レイフォードが拒否する。
シルヴィアは何かの聞き間違いだと思って、言葉を続ける。

「あの、お洋服を取りに「駄目だ。」・・・。」

今度こそシルヴィアは黙ってしまう。

(えっ、お洋服を取りに帰れない?
私、何を着て行けばいいの?)

静かに混乱するシルヴィア。
何故頑なにレイフォードが反対するのかが分からない。

洋服が無い以上、折角のレイフォードとの外出が出来なくなる。

「レイフォード様・・・。
申し訳ありません、植物園なのですが・・・。
私、ご一緒する事が出来ません。」

今度はレイフォードか混乱する。

「何故!?」

「レイフォード様とお出掛けするお洋服が、手元に無くて、一度ビルフォード家へ取りに帰りたかったのですが、取りに帰れないのであれば、
新しいお洋服を仕立てないと。
でも、時間が掛かると思うのです。
だから、直ぐにはご一緒する事が出来ませんので、
今回は残念ですけれど・・・。」

「ちょっと待ってくれ。」

最後まで言わせるものかと、シルヴィアを止める。
洋服が無いから、行けない?

「新しい服なら、俺が買う。
仕立てなんて、此方に呼んで直ぐに作らせる。
何も時間が掛かる事は無いだろう。」

「え、でもレイフォード様にそんなお手間を。」

シルヴィアは断ろうとする。
だが、レイフォードは引かない。

(というか、何故服の事を俺に相談しない?
言ってくれれば服なんて幾らでも買うのに!)

シルヴィアが自分を頼ってくれない事実にやるせなさを感じる。
今までの事が響いているのは自覚している。
これは、早々に軌道修正せねばならない。
レイフォードはそう考えた。

「俺がシルヴィアに服を贈りたい、じゃ駄目か?」

「へぇ!?だ、駄目じゃないです・・・。」

「なら、明日早速仕立て屋を呼ぶとしよう。
出来次第に、出かけよう。」

「あ、でも・・・あの・・・。」

「いいな?」

「・・・・あ・・・・分かりました。」


押し切られる形で急遽、翌日に洋服を仕立てる事になった。






シルヴィアは自室に戻り、首を傾げる。

「レイフォード様にお洋服を仕立てて頂く事になってしまったわ。」

「そうですね。」

後ろに控えていたソニアもさも当然かの様に答える。

「どうしましょう。」

「どうしましょうか。」

「困ったわ。」

「困りましたね。」

「ミシェに伝えた方が良いわよね。」

「宜しいかと思います。」

洋服を新しく作る時はいつもミシェルが仕立ててくれた。
なので、ミシェル無しで洋服を作る事は何となくミシェルに悪い気がした。

「ソニア・・・。」

シルヴィアが遠慮がちにソニアに視線を向ける。

「分かっていますよ。早速出立して、明日ミシェル様を連れて参ります。」

「ありがとう、ソニア。」




ソニアは退室して、ビルフォード家へ向かう。

「ミシェル様とご当主の初の対面か。一波乱ありそうだな。」

ポツリと呟き、馬を走らせた。

















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