げに美しきその心

コロンパン

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5章

何がどうなっているの?

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レイフォードとシルヴィアが、屋敷の庭園を歩く。

息を弾ませてはしゃぐシルヴィアをレイフォードは、微笑ましい目で見つめる。
躓きそうになるシルヴィアを、レイフォードが抱き留める。


「全く危なっかしいな、シルヴィアは。」

シルヴィアを愛おしく思っているかのように囁くレイフォードにドギマギするシルヴィア。

「だ、旦那様?ええと・・。」

「ん?」

首を傾げて美しく微笑むレイフォードがシルヴィアの頬を撫でる。
そして・・・











「ひゃあああああああああ!!!」

顔が熟れた林檎の様に真っ赤な顔で、ベッドから飛び起きるシルヴィア。
辺りを見渡し、自分の部屋だと認識する

胸に手を当て息を整える。


「・・・・はあ、はあ、夢・・・。夢よね?夢だわ!
はああああ~!びっくりしたあ・・・。
凄く現実味の帯びた夢だったわ・・・」

「どんな夢を見たのですか?」

「言えないわ!!恥ずかしくて!!
レイフォード様と庭園を散歩して、その後は・・・って、えええええええ!!
ソニア、いつから居たの!?」

シルヴィアがベッドの上を跳ねて、ベッドの横に座っているソニアに驚く。
表情一つ変えずに、ソニアは淡々と語る。

「ずっと居ましたよ。シルヴィア様が締まりのない顔で涎を垂らしながら、
眠っている姿をずーーーうっと見ていましたよ。」

「涎!?」

シルヴィアは口の周りを拭く。
ソニアはしれっと言う。

「嘘ですけどね。」

「嘘!?」

シルヴィアの声が裏返る。
ソニアはふ、と笑って、

「涎は嘘ですけれど、幸せそうな夢を見ておいででしたのは分かりましたよ。」

「うう・・。」

顔を覆うシルヴィア。


「本当に良くご無事で・・・。」

ソニアが真剣な表情に変わる。

「ごめんなさい・・・。」

シルヴィアも眉根を顰めて謝る。
ソニアは苦笑してを宥める。

「攫われたのはどうしようもないですけれど、その後が、ですね。」

シルヴィアはぎくりとする。

「私は護身術の為に、剣の鍛錬をお教えした訳では御座いません。
今回は、女性で力が弱かったから良かったものの、
本来なら淑女である貴女が男を庇うなど。
本当に、この程度のお怪我で良かったですよ・・・。」

シルヴィアの手を握り、自分の額に当てるソニア。
ソニアを本当に心配させてしまったと、シルヴィアは猛省する。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。
もう、旦那様が怪我をしてしまうと思ったら、体が勝手に動いてしまって・・・。
軽率だったと自分でも思うわ・・・。
そのせいで、旦那様にも更に嫌われてしまったみたいだし・・・。」

ソニアが片眉を上げる。

「嫌われた?ちょっと待って下さい?
あれの何処が嫌われているなんて・・。」

シルヴィアはしょんぼりして小声で話す。

「だって、とても怒っていらしたもの・・・。
あんなに怒鳴られたの、最初の頃以来だったわ。
絶対嫌われたわ。」


ソニアは流石に愕然とする。
シルヴィアはここまで鈍かったのかと。

「シルヴィア様、怒鳴られた後、というか気絶する前の事を覚えていないのですか?」

シルヴィアは首を傾げる。

「え?」

「・・・・・。」

あ、これは抱き締められたショックで忘れているな・・・。
ソニアは悟る。


ソニアはジュードにその時の状況を聞いていた。
レイフォードに抱き締められた事を、忘れてしまっているシルヴィアに、
その事を教えるべきか、否か、
少しの間悩み、
面白いから黙っておこうと結論付けた。

「ソニア、一体どうしたの?」

シルヴィアが尋ねるが、ソニアは微笑み

「何でもありません。もう、今日は遅いので、お休みになられてください。」

そう伝えて、シルヴィアを寝かしつけた。






翌日、目が覚めたシルヴィアは、起きて早々、机に向かい手紙を書く。
ミシェルへの手紙だ。
折角仕立ててくれたドレスを、たったの一度着ただけで駄目にしてしまった事を謝る手紙だ。


ソニアにも謝ったのだが、

「シルヴィア様が無事ならば、ドレスなんて幾らでも作れますから。」

と言ってくれた。
ミシェルにも直接会って謝りたいのだが、
しばらくレイフォードの屋敷から出てはいけないと、外出禁止令が発令されて、
それが解消されないと、シルヴィアは外へ行けなくなった。

せめて手紙をと、早馬に託し、シルヴィアは朝食の為に食堂へ向かった。


食堂にはゴードンとレイフォードが居た。

シルヴィアはレイフォードとゴードンに挨拶をする。

「もう体は平気なのか?」

心配そうにシルヴィアを見るレイフォードに

「はい!かすり傷だけでしたので、大丈夫です。」

と元気に答える。

ゴードンを見ると彼は、心の底から安心した顔を見せる。

「シルヴィア様、本当にご無事で良かったです。」

涙目のゴードンを見て、シルヴィアは本当に皆に心配をかけてしまったのだと、痛感する。

「ゴードン、本当に迷惑をかけてしまってごめんなさい・・・。
私は、ね、もう大丈夫だから。」

ゴードンの瞳に溜まった涙を、自分のハンカチで拭い取ろうとした時、

「ゴードン。朝食の用意を。」

レイフォードが低めの声でゴードンに告げる。

「・・・かしこまりました。」

ゴードンは苦笑し、その場を去る。
レイフォードが先程とは打って変わって、不機嫌になっているのが、シルヴィアでも分かった。



沈黙。

シルヴィアはレイフォードに嫌われている事を思い出した。

(そうだった。レイフォード様を怒らせてしまったのよね・・。)

レイフォードが席に着いたので、シルヴィアはレイフォードから離れた席へ座ろうとする。

「おい、何故そんなに遠くに座るんだ。」

「え・・・?」

レイフォードが自分の隣の席を指す。

「此処へ座れ。」

シルヴィアは固まった。
何故、レイフォードが自分を隣に座らせるのか。
それしか頭に浮かばず、その場で立ち尽くしていると、
焦れたレイフォードが立ち上がり、

シルヴィアの所へ近寄ってくる。
そしてシルヴィアの手を取り、強引にシルヴィアを引っ張って行く。

慌てるシルヴィア。

「旦那様!旦那様!?」

レイフォードは不機嫌なまま。

「俺の隣はそんなに嫌か?」

シルヴィアはぶんぶんと首を横に振って否定する。

「ならば、いいだろう?」

結局レイフォードの隣に座って、食事を摂る事になった。
以前も食事中ずっと見られていたが、
今回も同様に、しかし視線の熱量が以前より温度が高いのだが、
シルヴィアは間近にレイフォードが居る事で、一杯一杯で、
気付く事はなかった。


扉の前で控えていたソニアとゴードンは

「あれで、何故気が付かれないのですか・・・?」

「仕方がありません。シルヴィア様ですから。」

「・・・・そうですね。シルヴィア様ならば、ですね・・・。」


等と囁き合っていた。
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