げに美しきその心

コロンパン

文字の大きさ
上 下
43 / 105
5章

変容

しおりを挟む
書置きに指定された場所に到着する二人。

古びた屋敷の扉に、大男が立っていた。
男の元へ躊躇いも無く進んでいくジュード。

男はジュードに気付き、片方の口角を上げる。

「金は持ってきたのか?」

そしてジュードもニヤリと笑う。

「金?そんな物は無い。俺は娘を迎えに来ただけだ。」

男の顔が醜く歪む。

「あああん?お前何、言ってやがる!!
金を持って来いと書置きに書いてあっただろうが!
娘を殺されてぇのか!?」

ふんっと鼻を鳴らすジュード。
赤い瞳の色が徐々に濃くなっていく。


「・・・・ほう。俺の娘を殺す。
面白い話だ。
この、ジュード・フォン・ビルフォードの娘を、か。」

男はジュードの瞳と名前を聞いて、顔がどんどん蒼褪めていく。
口の端から泡が溜まっていく。


「お、お、お前・・・まさか・・・・
煉獄の・・・・・ききき鬼神・・・!?」


その場で腰を抜かす大男。
そのまま後退りしようとするが、扉にぶつかり足だけがズルズルとその場で動くだけ。


「先程までの威勢はどうした?
俺の娘をどうするって?」

全く笑っていない瞳で、口元だけが吊り上がる。

「め、め、め滅相もない!!
鬼神様の娘様だったとは知らなかったんです!!
直ぐに!直ぐに娘様を連れて来ますから!!」

腰を抜かしたまま、四つん這いの状態で屋敷の中へ引っ込む男の後を追う二人。

「他の奴らも、こいつみたいに素直だといいのだがな。」

ジュードの呟きが聞こえず、レイフォードは辺りを見回す。

(シルヴィアはこんな所に、捕まっているのか・・・!?早く見つけないと。)

そこかしこに穴が開いて、整備が全く行き届いていない屋敷内。
埃だらけで、レイフォードは布で鼻と口元を覆いながら、大男の後に続く。


大男がピタリと立ち止まる。


「こ、ここでさぁ。この中に娘様が居ますんで・・・。」

中へ促す大男。
ジュードは大男の顔を一瞥し、軽く溜息を吐いた後、レイフォードに耳打ちをする。

(レイフォード、ここにシルヴィアは居ない。お前は俺が合図したら、屋敷の奥へ走れ。)

(え、伯はどうされるのですか。)

(言っただろう?敵の殲滅は俺が引き受けると。
経験則から言うとこういう輩は、大概が人質は奥へ隠している。
最奥まで走れ。必ずシルヴィアは居る。)

(分かりました。)

「ここにシルヴィアが居るのだな。」

ジュードは念押しする。
大男はにやけながら頷く。

「へえ!確かにここに居ます!さ、さ中へ。」


「ふん・・・。」

ジュードが中へ入ろうとした瞬間、大男の胸倉を掴み、部屋の中へ投げ飛ばす。

「行け!!」

ジュードがレイフォードに向かって叫び、そのまま部屋の扉を閉める。
中から、数十人は居るであろう野太い男の唸り声と悲鳴が聞こえる。

それと同時にレイフォードは、まだ続いている廊下の奥へ走る。



予めあの部屋に全員を待機させて、そこでレイフォードを殺すつもりだったのか、誰にも遭遇する事なく、奥の部屋に辿り着いた。

明かりが漏れていて、やけに甲高い女の声が聞こえる。

(あの女の声だ。)

その声の主がデボラであると確信したレイフォードは、扉にそっと近づき、聞き耳を立てる。

すると、小さいが自分が探し求めていた声も聞き取れた。

(シルヴィア!)

ドアノブに手をかけ、中に入ろうとした体がピクリと止まる。

先程の声よりも大きく、そして怒りに満ちたシルヴィアの声が、レイフォードの耳に飛び込んで来たからだ。








「貴女は、母親に殴られた事はありますか?」










いきなりのシルヴィアの発言に、
デボラは、一瞬言葉に詰まる。

「なんっ、。」


シルヴィアは構わず続ける。

「貴女は、理不尽に母親に殴られた事はありますか?
まともな食事を与えられずに、ずっと放置された事はありますか?
寒さに震えながら、自分を捨てた母親の帰りを待っていた事は?」


「あんた、何を。」


「全て。全て貴女がレイフォード様になさった事です。」

デボラに何も言わせる事無く、言い切るシルヴィア。

「貴女は幼い子供だったレイフォード様に、
何をしてあげましたか?
母親の愛情を与えましたか?
伸ばした手を取り、抱き締めましたか?」

「・・・さい。」

「貴女がなさった仕打ちは、今もレイフォードの心を深く傷付けたまま。
そしてまた貴女は、こんな愚かな事をして、
どれだけレイフォード様を傷付けるおつもりなのですか!?」

「うるさい!うるさい!黙れ!」

ヒステリックに喚き散らすデボラに動じる事なく、

「いいえ!黙りません!
レイフォード様が貴女を拒絶したのならば、
こんな事をしたとしても、貴女の望みは叶う事はありません。
それでも尚、貴女はこの愚かな事を続けるつもりですか?」

「黙れ!黙れ!さっきから、何なのよ!あんた!
・・・ひっ。」

シルヴィアに喰ってかかったデボラだが、シルヴィアの瞳を見て悲鳴を上げる。

「あ、あんた、何のよ!
その目!さっきまで紫だったのに、何で。
・・・・・・化け物!!!」

「そうです、私は化け物です。
ですが、貴女も化け物です。
子供を道具としてしか見ない貴女は、化け物以外、何者で無い。」

「こんの・・・!」


シルヴィアとデボラが睨み合う。










「そうだな、貴女は化け物だ。」














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

旦那様、私は全てを知っているのですよ?

やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。 普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。 私はそれに応じました。 テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。 旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。 ………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……? それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。 私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。 その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。 ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。 旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。 …………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。 馬鹿な旦那様。 でも、もう、いいわ……。 私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。 そうして私は菓子を口に入れた。 R15は保険です。 小説家になろう様にも投稿しております。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。 そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。 だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。 側室が求めているのは、自由と安然のみであった。 そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

処理中です...