げに美しきその心

コロンパン

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4章

化け物と俗物

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夢を見た。

久しぶりにあの女が出てきた。
俺はあの女が帰って来るのをずっと待っていた。

ずっと待って、ずっと待って。

諦めた。

もう帰って来ない。
俺の傍から皆離れていく。


きっと、俺は独りで死んでいくのだ。
俺もそれを受け入れた。





俺の傍を離れないと言う女が居た。
ずっと、ずっと離れない。
傍にいたいと。

本当なのだろうか、また裏切られるのではないだろうか。

女の顔は、とても美しかった。
だが、懐かしくも感じた。

あんな女に会った事が無い筈なのに、俺は少し可笑しくて笑った。







朝。
シルヴィアは目を覚まし、軽く伸びをする。
漸く体調が戻った。

「ああああ!!!本当に何ていう失態なの!
旦那様を看病するつもりが、自分が倒れてしまうなんて!!」

元気になったシルヴィアは寝台の上で、頭を抱えてのたうち回る。

「情けないわ・・・。もう二度とこんな事が無いように、体を鍛えなくては!!」


拳をぐっと握り、決意を固める。


「一週間ほぼ一睡もせずに動き回るなんて、倒れて当たり前です。
それを鍛えるなんて、人間のやる事では無いです。
化け物です。」

「ソニア!おはよう。またいつの間に居たの?」

「おはようございます。ノックは致しましたよ。
また気付いておられないようでしたので、いつもの様に観さ・・・待機しておりました。」

シルヴィアとソニアのいつもの会話。
お互い顔を見合わせて、微笑む。

「あら、お父様は2週間寝ていなくても全然元気だったわよ?」

首を傾げながらシルヴィアは言う。
ソニアはすかさず言い放つ。

「あの方は化け物です。」

「なら、私はその化け物の娘ね。」

シルヴィアはくすくす笑う。
ソニアは大きく溜息を吐く。

「・・・元気になられた様で良かったです。」

「ええ、もう大丈夫。」

「屋敷の皆様が本当に心配していましたよ。レイフォード様だけでなく、シルヴィア様まで倒れられて。」

「・・・うう。ごめんなさい・・・。」

シルヴィアは縮こまって謝る。

「看病するのは構いませんが、自分の体もご自愛くださいませ。夜はちゃんと寝てください。」

「・・はい・・・。でも、心配で、寝ようとしても色々考えてしまって、目が冴えてしまったの・・・。」

俯きながらシルヴィアは、言い訳をする。

「気持ちは分かりますが、そこは無理にでも頑張って眠ってください。」

「あう・・・。」

有無を言わさないソニアに呻き声を上げるだけのシルヴィア。

「次からは、あんな無茶はなさらないように。いいですね?」

「・・・・はい。」

シルヴィアも周りに心配をかけた事を申し訳無く感じている。
暴走しないように気を付けよう。そう思った。

ソニアは落ち込んだシルヴィアに優しく声を掛ける。

「朝食の用意が出来ています。皆様に元気な顔を見せて、安心させてあげましょう。」

「ええ!分かったわ。」

シルヴィアは大きく頷いた。


寝間着を着替えて、食堂へ向かう途中、シルヴィアがソニアに不安げに尋ねる。

「レイフォード様の事任せてと言ってしまったのに、自分が途中で放り出してしまったみたいで、
凄く申し訳ないわ・・・・。皆、呆れていないかしら・・・」

ソニアは肩を竦める。

「呆れる?
この屋敷の主人が侵された未知の病を特定し、手遅れになる前に応急処置で最悪の事態を未然に防いだシルヴィア様を呆れる人間なんてこの屋敷には居ないですよ。
寧ろ感謝されるでしょう。」

「で、でも完治されるまで、看病するつもりだったの!
不謹慎だけど・・・本当に不謹慎だけど、旦那様の傍に居る事ができたから・・・・。
もう、近寄る事も出来ないでしょう?」

シルヴィアの言葉に、何やら考え込む素振りのソニア。
シルヴィアに言おうか迷っている風で、シルヴィアは不思議に思った。

「ソニア?」

「・・・いえ、何でもないです。」

(私が、言ってやる義理は無い。私はまだアイツを認めた訳では無いからな。)

「??」

ソニアはにやりと右の口角を上げて、意地悪そうに揶揄う。

「不謹慎ですが、レイフォード様を堪能出来ましたか?」

「た、堪能って・・。」

ぼぼぼっとシルヴィアの顔が赤くなる。
それを見てソニアは真顔になる。

「・・・・何かされたのですか?・・・あの男、本当に・・・」

シルヴィアはぶんぶんと首を横に振り、必死に弁明する。

「ち、違うわ!何もされていない、寧ろ私がしたというか・・・・」

どんどん顔に赤みが増す。
それに比例して、ソニアにどす黒い何かが染み出す。

「ほう・・・何をなさったのですか?シルヴィア様。
病人にナニを?」

「ソ、ソニア?何故、怒っているの?」

ソニアの表情に恐怖する。

「いいえ、全く、これっぽっちも怒っていませんよ?」

(怒ってる、凄く怒ってる。)

何故、怒っているのか、シルヴィアには見当がつかない。
これは正直に話した方が良いだろう。
レイフォードの過去の話は端折って、自分のした事だけ話す。

「あの、旦那様がね、酷く魘されていたから、咄嗟に手を握ったの。
それでね、あの、幻覚?かしら取り乱された様子だったので、落ち着いて頂こうと思って。
宥める為に、・・・だ、だ」

「だ!?」

ソニアの顔が引き攣る。
まさかそんな・・・。


「・・・だ、抱き締めたの。」

「・・・・・・・は?」

「え?」

「抱き締めた・・・・だけ、ですか?」

シルヴィアの言葉に拍子抜けする。

「ええ、そうよ?え?え?駄目だった?はしたなかったかしら・・・やっぱり・・・。」

赤かったシルヴィアの顔がさっと青くなる。
ソニアは脱力する。

「・・・まあ、シルヴィア様に限ってそんな事は無いでしょうね・・・。
まだまだですね、私も。」

「え?え?どういう事?」

シルヴィアは訳が分からない風でソニアを見る。

「いえ、いいのです。私が俗物なだけです。
シルヴィア様は、いつまでも純粋で、美しいシルヴィア様で居てください。」

「え?待って、本当に何を言っているの?教えて!」

「さあさあ、朝食が冷めてしまいます。早く行きましょう。」

ソニアはシルヴィアの背中に回り、後ろからシルヴィアを押し前へ進ませる。

「ねえ!ソニア、ちょっと!」

(何?何?もう!後で絶対聞くんだから!)






その後食堂に着いたが、ソニアは話をはぐらかすばかりで、
シルヴィア結局先程の事を聞けず仕舞いで終わった。
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