げに美しきその心

コロンパン

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3章

夜会(2)

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馬車の中、ノーランとシルヴィアは談笑していた。

「父上、本当は今日シルヴィのエスコートをなさりたかったみたいでな、家を出る寸前まで
『体調は悪くないか?いつでも変わってやるから、遠慮するな。』って。
ははは。『私が名指しされたので、大丈夫です。』と言ってやったよ。
その時の父上の顔が、は、ふふふ。もう、シルヴィに見せてやりたかったよ。」

笑いが抑えられず、口元に人差し指を当てる。

「ミシェもね、すごーくシルヴィに会いたがってたよ。シルヴィが苛められてないか?
泣いていないか?とても心配していた。私に確認してくれと念押しされてしまったよ。」

シルヴィアは胸がキュッとなる。
心優しいミシェル。いつも私に心を砕いてくれた。私は大丈夫よ。

「お兄様。私は大丈夫だから、心配しないでとミシェルに伝えてください。
また、顔を見に伺うからとも。」

ノーランの顔が少し顰められる。

「はぁ、伺うか・・。もう、レイフォード家の人間だものな・・。寂しいものだ。」

「うふふ。旦那様の妻ですもの。」

ピクリと眉を顰めるノーラン。

「旦那様・・・ね。ねぇ、シルヴィ?ソニアからの報告書をちらりと盗み見たのだけれど。」

悪びれも無く言うノーランにシルヴィアは首を傾げる。

「あの三男坊、シルヴィに耳を疑う様な事を言いやがったって書いてたけど、
私はどうにも許し難いのだよ。シルヴィが何もしなくても良いと言っていたけれどね。」

シルヴィアは淡く儚げな笑いを浮かべ、

「お兄様、これは私の試練です。私が怠けていたから、このような結果になったのです。
頑張って、頑張って旦那様の傍に居る事を認めて頂く為に、私はこの試練を乗り越える。
皆さんに協力して貰ってますが、逃げ出す訳にはいきません。
だから、お兄様。見ていてください。私は以前の私を取り戻します。」


ノーランをじっと見据える。
ノーランは顔を覆い、体を震わせる。

「あああああ!シルヴィ!何て気高い!何て尊い!この女神が私の妹である事を誇りに思うよ。
女神を蔑ろにするアイツを私の手で・・・ああ、シルヴィに嫌われたら私は死んでしまう。
くそ、シルヴィが慕っている内は。
シルヴィ、三男坊には手は出さないが私も君の手助けをする事は許してくれるだろう?」

シルヴィアは顔を輝かせる。

「お兄様!ありがとうございます!今日お兄様にご相談したいのは正にその事なのです。」

「おお、そうなのかい!シルヴィ。この兄に何をお願いするのだい!?」


シルヴィアの手を取り、ノーランは身を乗り出す。
そんな二人にソニアは冷静に伝える。

「もうすぐ到着しますよ。お話は後程になさってください。」

「そうね。じゃあお兄様、参りましょう。」

馬車から降り、夜会の場、ダイオン侯爵家へ入る。
ノーランのエスコートで大広間へ向かう。



ノーランとシルヴィアが入ってくると、一斉にこちらへ視線が集まるのを感じた。
ノーランを見て頬を染める女性。
シルヴィアを見て扇で口元を隠し嘲笑する。

ノーランは嘲笑した女を見つめ、顔を覚える。そしてにっこりと笑いかける。
女はポッと赤くなり、扇を落としかける。

(ふふ。何を勘違いしているのか知らないけれど、私は今後シルヴィに害を為す者の顔を
忘れないだけだからね。)

大広間の奥の壁際まで移動し、無礼な女へ意識を飛ばしていると

「お兄様?」

「ん?何だい?シルヴィ。」

「私なら大丈夫ですからね?嗤われるくらい、慣れてますから。」

ノーランは苦笑する。

「慣れてしまうのは、とても哀しい事だよ。」

「ふふふ。そうですわね。でも、本当に慣れてしまいましたの。
そのおかげで心が強くなりましたから、良い事でもあります。
昔ほど泣かなくなったでしょう?私。」

胸を張るシルヴィアをノーランは愛おしそうに見る。

「シルヴィは昔からそんなに泣かなかったじゃないか。
もう少し私達に甘えてくれても良かったのに、君は自分の力でちゃんと立ち上がる。
本当に尊敬するよ。」

「あら、良くお兄様に泣かされていましたけれど?」

「ははは。あれは君の気を惹きたかっただけだよ。イザーク兄さんに懐いていた君のね?」

片目を瞑りノーランはお道化てみせる。


「ふ、ふふふ。蛙を投げつける事が?」

「そうだよ。どうしたらいいか分からなかったからね。もう、色々試したさ。」

「全部逆効果でしたよ。あの頃のお兄様の事意地悪でちょっと嫌いでしたもの。」

「だろうね!私の事を見かけたらすぐ逃げていたものね。ショックで立ち直れなかったよ。」

肩を竦めるノーラン。

「でも、私が初めて誘拐された時に凄く心配してくれて、お兄様は私の事を嫌いで意地悪されていないのだと気が付きましたの。」

「あの時は自分の心臓が凍り付いたように感じたよ。このままシルヴィが戻らなかったら、私はもう生きて行く気力を失うと。君に謝罪も出来ず、嫌われたまま君に会えなくなるなんて、絶対に嫌だと思ったね。
父上がシルヴィを救出してくれて、心から神に感謝したよ。
そして、自分でもシルヴィを守れる力を身に着けよう。そう思ったね。」


ノーランの瞳が悲しげに揺れる。
シルヴィアは微笑み、

「あの日からお兄様、剣の鍛錬に没頭されていましたね。いつの間にかイザークお兄様やお父様よりもお強くなられて・・・。そんなお兄様にご相談したい事はそれに関係があるのです。」

「剣の鍛錬?でどういう事かな。・・・・まさか。」

シルヴィアは大きく頷く。

「はい、お兄様に剣のたんれ・・「駄目だからね。」

途中でノーランに被せられてシルヴィアは言葉が詰まる。

「父上にも言われただろう?危ない事は駄目だって。」

「でも、でも、私、どうしても痩せなければいけないのです。」

シルヴィアは食い下がる。

「何故そこまで、痩せようとするの?」

「・・・旦那様に妻と認めて貰いたいのです。以前の私に戻ることが出来れば少し、自分に自信が持てるかと。」

ノーランは嘆息する。

「はぁ、君は十分美しいのに。全く忌々しいあの三男坊め。」

俯くシルヴィアのある頭を撫でて

「そこまで言うのなら、仕方ないね。父上は私から話しておくよ。ただ、私が教える事は出来ない。」

「・・・!?じゃあ・・・。」

シルヴィアはノーランを見上げる。

「君の側に凄腕の先生が居るだろう?」

「ソニア、?の事?」

ノーランはにこりと笑う。

「私は教えるのか頗る下手くそだからね。彼女の方が適任だ。彼女にも伝えておくから、彼女に教えて貰いなさい。」

「・・ありがとうございます。お兄様。」

これ以上も無い極上の笑顔を見せるシルヴィアにノーランが悶絶する。


「はああああ。天使!こちらこそありがとうございます!!」






シルヴィアとノーランの会話が終わった丁度その時に、二人に近づく一人の男性が居た。


「失礼、君が僕の弟の奥方かな?」

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