げに美しきその心

コロンパン

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2章

皆が優しい

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「「シルヴィア様!!」」

自分の名前を呼ばれて、その声のする方へ目を遣ると、

悲愴な顔をしたアンと、もう一人、大きい茶色の瞳に涙を一杯溜めたメイドがこちらへ駆け寄ってくる。

「あ、アンお帰りなさい。・・・と、もう一人の方は・・ええと、」

昨日は数人の人間としか顔を合わせていないので、まだ挨拶が終わっていないメイドが居る。
彼女もその一人であろう。

シルヴィアは立ち上がり、スカートに付いた泥をパンパンと手で払い、

「初めましてよ、ね?私は・・」

名乗る前に

「じ、じっでますぅぅぅ。じ、じるびぃあざまぁあ。わ、わだじはっ、でーぜと言いまずぅぅ・・・」

とうとう耐え切れなくなったらしく、涙をぼろぼろ流し嗚咽を漏らしながら自己紹介をした。
が、涙声過ぎて、肝心の名前がちゃんと聞きt取れなかった、。

「でーぜ?ん?ごめんなさい。もう一度、お名前を教えてくれるかしら?」

シルヴィアが優しく尋ねると、さらに泣き出して

「で、でええぜだずうううううう、わあああああん!」

「え?え?ど、どうしたの?」

あまりの号泣にシルヴィアは困惑する。
おろおろして、アンに助けを求めるような目線を送ると、

「申し訳ありありません。この子はテーゼと言います。
・・・・私共、先程のレイフォード様達の遣り取りを見てしまい・・・」

シルヴィアは、ああと納得し

「お助けしたかったのですが・・・」

アンが済まなそうに呟く。

「いいのよ、そんな事をしたら貴女達が、レイフォード様に罰せられてしまうわ。本当に気にしないで。
私は大丈夫よ。気を配ってくれてありがとう。」

あの場面でアン達が出てきたら、レイフォードに歯向かった不敬として、確実にアン達は解雇されるだろう。
私の為にこんなに悲しんでくれる、泣いてくれる人達をそんな目に遭わす事は出来ない。


テーゼを宥めながら、

「レイフォード様は馬車で出掛けられたのだけれど、昼食はどうされるのかしら?」

シルヴィアの言葉にアンは苦々しい顔をする。

「レイフォード様は、外で昼食を御取りになるそうです・・・。」

「まぁ・・・、そう。じゃあ、また一人なのね。うーん。」

先程の事があったので、レイフォード様にお詫びをしなければと考えていたが、レイフォード様が居ないならば、仕方が無い。
晩餐の時にしよう。ただ・・・またご飯を一人で食べるのか・・・と少し寂しい気持ちになったシルヴィアに

「シルヴィア様はお優し過ぎます!!」

テーゼがまだ涙が引かない状態で声を張り上げる。

「え?」

「あの人達、シルヴィア様にあんな、シルヴィア様を、下働き扱いして、あんな馬鹿にして、レイフォード様も、シルヴィア様が、居るのに、う、ううぅ・・・」

自分の言葉でぶり返してしまったらしく、テーゼはまた泣き出し、止めようと目元を手で擦り始めた。


「ああ!駄目よ、そんなに擦ったら、目を傷付けてしまうわ。ええと、これは、私の汗で汚いから、確かポケットに・・・」

手に持っていた汗と泥まみれのタオルを机に置き、自分のスカートのポケットを弄る。
そして、ハンカチ2枚を取り出し、

「あ、あった!丁度2枚ね!ふふ。はいテーゼ。
これで涙を拭いて。」

2枚の内の1枚を持ち、シルヴィアがテーゼの頬に手を添えて涙を丁寧に拭き取って行く。
シルヴィアのその行動に驚愕し、涙が瞬く間に引っ込み、テーゼは顔を少し赤らめる。

「ひぐっ、シルヴィア様にこんな事をさせてしまって、申し訳ありません。このハンカチは綺麗に洗ってお返しします。」

涙が止まったのを確認して、シルヴィアは顔を横に振り

「いいのよ、気にしないで。あと、このハンカチはテーゼが良いなら、貰ってくれないかしら?」

顔をサッと青くするテーゼ。

「そうですよね・・・メイドが使ってしまったハンカチなんてもういらないですよね・・・・」

目を大きく見開いて、今度はシルヴィアが驚く。


「ええええ!!どうしてそうなるの!?違うわ!貴女に貰って欲しいだけなのよ。だから、アンにもこちらを貰って欲しいの。」

もう1枚のハンカチをアンに差し出し、

「私にも、ですか?」

アンは首を傾げる。

シルヴィアは頷く。

「そう。もし良かったらでいいのだけれど。
これは私の妹がこちらに来る前に渡してくれたハンカチなの。

『お姉様が幸せで、楽しく過ごせますように。』
って、刺繍を施してくれて、何十枚もよ?
大変だったでしょうに・・・。
でも、私一人では使い切れないから、って言うと

『そちらで仲良くなった人や仲良くなりたい人に渡してください。』 
なんて言って、結局大量に持たされたのよ。」

シルヴィアはハンカチを広げて、刺繍を指差す。
とても細かく、美しい出来映えだ。

「だから妹の言う通り、貴女達と仲良くなりたいなと思って。」

広げたハンカチを四つ折りにし、遠慮がちにアンを見る。
アンは、胸がキュッとなった。
こんなに美しい方にお会いしたことがない。
胸が詰まる思いで、差し出されたハンカチを受け取ろうとする前に、横からテーゼが獲物を掻っ攫う様にシルヴィアの手を両手で握りしめる。

「一生大事にします!!ありがとうございます!!」

テーゼの鼻息が、シルヴィアの前髪を揺らす。シルヴィアは目を瞬かせる。喜んでくれているみたいなので、良かったと安堵し微笑む。

「・・・テーゼ。」

アンの低い声で、ハッとなるテーゼが、慌てて手を離す。

「シルヴィア様ごめんなさい!私つい嬉しくなって・・・。」

「ふふふ、いいの。喜んでくれて嬉しいわ。」

気まずくなったのか、テーゼは手をもじもじさせる。そしておずおずとシルヴィアに請う。

「あの・・・シルヴィア様、厚かましいと思うのですが、そのタオル・・私が洗濯させて戴いても・・」

キョトンとするシルヴィア。何が厚かましいのか分からないが、

「え?お願いしてもいいかしら?」

テーゼにタオルを渡す。テーゼは頬を紅潮し、

「(シルヴィア様の汗が染み込んだ)タオル大切に洗わせて頂きます。」

不穏な言葉はシルヴィアには聞こえなかった。
アンは僅かな時間で同僚が気持ち悪い者に成り果てたと憐れみの目をテーゼに向けた。

「シルヴィア様、ありがとうございます。このハンカチを頂き光栄に思います。」

アンはハンカチを抱きしめ、お辞儀をする。

シルヴィアはにっこり笑い


「これから宜しくね。」

三人で笑い合った。



「あ!そうだ!」

シルヴィアはパチリと手を叩き、アンに

「あの、お昼ご飯なのだけれど、間に合うようであればこちらで食べる事は出来ないかしら?
サンドウィッチとか軽めの物でいいわ。」


「恐らく大丈夫でしょう。厨房の者に伝えてきます。」

そう言ってアンは足早に屋敷へ戻っていく。

「今日は天気が良いから、外で食べたくなったの。」

テーゼにそう言い、軽く伸びをする。

「お昼を食べたら、また草むしり再開ね。」

「お昼からは、私もお手伝い致します!!むしりまくってやりますよ!」

テーゼはむんっと意気込む。

「あら!頼もしい限りだわ!」


昼食を載せたトレイを持って帰って来たアンがテーブルに食事を並べる。
手を拭き、サンドウィッチを頬張り、食べ終わると早々に作業にかかった。






















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