げに美しきその心

コロンパン

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1章

9年越しの再会(4)

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「え・・」

予想もしていない問いかけに、シルヴィアは二の句が継げない。
目を大きく見開き、ただレイフォードを見つめるしか出来なかった。

それが気に障ったのか、レイフォードは侮蔑の表情を浮かべ、言い放つ。

「聞こえなかったのか?お前は本当にシルヴィアかなのか?なんだ、その醜い身体は。」


シルヴィアは理解した。この身体、それは5年前のある病気に罹った後、元々過保護だった家族が更に過保護になり外に出る事にいい顔をせず、部屋に引き籠るようになり、身体はそれに比例して脂肪が付いていき、僅か半年で前の体重の二倍にまでになってしまった。

さすがにこれは、と感じたシルヴィアはソニアに頼んで脂肪を落とすのを手伝ってもらったのだが、一度付いた脂肪は中々落ちず、元の体型には程遠い状態なのだ。


「申し訳ございません。脂肪を落とす努力はしたのですが、間に合わず・・・」

「言い訳はいい!!どうせ、怠惰に過ごした結果だろう。お前のような醜い女を妻にせねばならんとはな。
とんだ貧乏くじを引いたものだな、俺は。」

シルヴィアの言葉を遮り、レイフォードは更に続ける。

「父上がお前の父親と懇意でなければ、すぐにでもこの結婚なぞ、破棄するものを。忌々しい。」

「・・・・・・」

結婚を破棄する発言に、ショックを隠せないシルヴィア。声を出そうにも唇が震えて、言葉を紡げない。
シルヴィアが何も話さないのを良いことに、レイフォードは髪をかき上げながら、シルヴィアを睨み付け


「今更、どうする事も出来ん状況だ。仕方がない。結婚はしてやる。」


「レ、レイフォード様、ほん・・・」

「俺の名前を呼ぶな!!お前に名前を呼ばれるのも不愉快だ。」

「・・・!で、ではどのようにお呼びすれば・・」

「知るか、自分で考えろ。成婚の儀も必要ない。署名だけでも夫婦にはなれるからな。
お前が妻だと周りに知られて嘲笑されるのは我慢ならん。
夜会にも顔を出すな。父上がお出になる時は不服だが、参加しろ。但し、俺と一緒ではなく、俺より後に来い。」

「・・・分かりました。」

シルヴィアは小さく頷く。

「レイフォード様!!何をおっしゃっているのですか!?こんな、シルヴィア様を蔑ろにするような・・」

レイフォードの発言に愕然として、口を開けたまま固まっていたゴードンが我を取り戻し、堪らず主人に意見してしまった。

「なんだ、ゴードン?こんな女を妻にしなければならない俺が可哀想だと思わないのか?」

レイフォードは右の眉毛を上げ、舞台俳優のように大袈裟に両手を広げる。

「私は、シルヴィア様が醜いとは思いません。美しく素晴らしい女性です。レイフォード様もシルヴィア様とちゃんとお話されましたら、シルヴィア様が素晴らしい女性であると思い直される筈です。」


ゴードンはシルヴィアの隣まで歩み寄り、レイフォードを一瞥した後シルヴィアを見る。
俯いていたシルヴィアだが、ゴードンの言葉を受けてばっと顔を上げる。

ゴードンはシルヴィアの表情に胸が激しく痛んだ。顔色は青く、眉はハの字に下がり瞳には涙が溜まっていた。
そうなるのは当たり前のことだろう。恋焦がれていた相手からの完全なる拒絶、罵倒。絶望だろう。
もっと早くにレイフォードを制止すれば良かったと歯嚙みする。

ゴードンがシルヴィアを庇った事に逆上したレイフォードはまた信じられない事を口走る。

「はっ!!ゴードン正気か?この女が?美しい?ははっ、冗談だろう。
・・・なんだ?ゴードンお前こんな女が好みなのか?女の趣味が悪いな。」

「またそのような事を・・・!」

「もういい、こいつと同じ空間に居るのが気分が悪い。」

背を向け、部屋の奥の机へ向かい、机の引き出しから書類を取り出し、脇に立てていたペンでその書類に何かを書き入れた。その書類を手にまたこちらへ向かってくるレイフォード。
書類を床に放り投げ、

「ほら、お前の署名をして教会に提出してこい。それを持って此処から出ていけ。俺は寝る。」

そう言って、寝台に戻りレイフォードは横になった。

シルヴィアが床に手を伸ばそうとするよりも前に、ソニアが書類を回収し、シルヴィアの手を取った。

「行きましょう、シルヴィア様。」

穏やかな口調でソニアが退室を促した。

「・・ええ。」

消え入りそうな小さな声でシルヴィアは答える。

扉へ向かう二人をゴードンはただ見つめるだけ。何と言っていいか分からなかった。

「・・・・・失礼いたしました。」

ソニアが先に退室して扉を固定し、シルヴィアは部屋を出た。

扉を閉めるソニアが憎悪の籠った目で寝台で寝ているレイフォードを見ていたのに気づいたゴードン。
あんな目をする人間がこの世に居たのかと思うほど、恐怖で凍り付いた。








数時間後、外で爆発音がしたと思い、慌てて飛び出したメイドは一本の大木が倒れその傍らにソニアが佇んだ姿を目撃する。





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