ああ、もう

コロンパン

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恥ずかしい私

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「殿下です。」

私の言葉を信じられないのか呆然とした殿下は、直ぐに首を横に振ります。

「い、いいや!嘘だ!そんな事ある筈が無い!!」

殿下が私の言葉を否定なさります。
それでも私は背筋を伸ばし言い切ります。

「いいえ。私は殿下をお慕いしています。」

「嘘だ、嘘だ・・・。そんな事は・・・。」

首を激しく振り、頑なに拒む殿下。
私は立ち上がり殿下の隣へ座り、殿下の手に触れます。

「本当です。私は初めてお会いしたあの日から殿下を、殿下だけをずっと。」

伝わって欲しい。その思いだけでした。
殿下の目をこんなにしっかりと見る事は久しぶりです。

殿下も私の目をちゃんと見て下さいます。

「で、では何故、顔合わせの時、あんな顔をしたのだ?」

「あれは・・・。」

あの時の事を思い出し、はしたなくも笑みが零れました。

「王太子殿下とお顔が、その、似ていらっしゃらないなぁと、失礼ながら思ってしまっただけなのです。
ただそれだけなのです。」

王太子殿下と殿下の御髪の色は金色ですが、お顔の造形は全然違います。
王太子殿下は優し気な印象であるのに対して、殿下はとても凛々しくて、スッと流れる様な切れ長の瞳は近寄りがたい印象を与えますが、お二人共とてもお優しいのは同じだとその後気付きました。

私の言葉に殿下は私の大好きな翡翠の瞳を、これでもかと大きく見開かれ、

「そ、そんな事を思っていたのか!?」

ああ、いけませんね。

「申し訳ございません。無礼だとは思ったのですが、王太子殿下とお話をした後に殿下との顔合わせが直ぐに設けられましたでしょう?
勝手ながら、殿下の事を王太子殿下と似ているのかと想像していまして・・・。
実際にお会いした時・・・少し驚いてしまって・・・。」

私は少し俯きがちにお話しました。
とても失礼なお話です。
勝手に殿下のお姿を想像して、勝手に驚くなんて。
けれど、ちゃんとお話しないと殿下に私の想いを信じて貰えない様な気がしたのです。

「直ぐに思いを正し、殿下に我が公爵家のお庭をご案内させていただきました。
私の拙い案内にも、殿下は真剣にお聞き下さり、緊張していた私に時折微笑みかけて下さって。
私は殿下のそのお優しい人柄に惹かれました。」

「・・・俺は笑っていたのか?」

不意に殿下がそう問われます。
私は顔を上げ、不思議そうなお顔をされた殿下と目が合います。

私はゆるりと頷き、

「ええ。あの、とても優しい笑みで、私は自分を案じて下さったと感じました。」

そう答えました。

「そう、か・・・・。」

殿下は顎に手を当て思案されている様です。

「俺もあの時、酷く緊張して自分がどう振舞っていたのか・・・・正直覚えていない。
貴女と会えた喜びで、舞い上がっていた。」

「まぁ・・・・。」

私は顔が熱くなり、今自分が殿下に触れているのだと気が付き、慌てて手を引こうとしました。
ですが、その手を殿下に取られ、私は肩を震わせます。
殿下は何故か瞳を歪め、私に近づかれます。

「ならば・・・・、慕ってくれていたのならば、何故俺の近くに来なかった?」

「そ、それは・・・。」

私は言い淀みました。
殿下は更に私の腰に手を回し体を引き寄せます。

「俺は貴女に避けられているように感じて、俺との婚約を嘆いている様に感じた。
苦しくて、何度も貴女と話をしようと試みた。
だが、貴女は挨拶が終われば、逃げる様にその場から去って行った。」

殿下の表情がお辛そうで、そのお顔を見て私は殿下を苦しめてしまったと胸が締め付けられました。

「殿下、殿下・・・。ごめんなさい・・・・。
私、殿下の噂を聞いて、殿下に嫌われたくないと思って・・・・。」

「噂?」

「・・・・殿下はしつこい女性はお嫌いだと・・・。」

「その噂は、一体何処から聞いた。」

殿下の声が一段と低く聞こえました。

「殿下との、婚約パーティーでお祝いに来られたご令嬢の方達が教えて下さったのです。」

咎められていると感じましたが、私はキチンとお話しないといけません。

「・・・・・っふざけやがって!!」

下を俯かれ、そう大声を上げる殿下。
きっと、私に向けての言葉なのでしょう。

「申し訳ございません・・・。」

私は力無く謝罪しました。
そうするしか無いと思いました。

殿下は私の手を強く握り、

「いや、今のはアイリーンに向けての言葉ではない。
アイリーンにそんなふざけた空言を吹いた女と俺自身に腹が立った。」

私の手を握る力を緩め、私の頬へと優しく触れます。

「俺が早く貴女からこの事を問い質していれば、貴女を苦しませる事は無かった。
本当に済まない。全て俺が不甲斐ないせいだ。」

私を見る殿下の瞳があまりにも優しく、そう言って浮かべる微笑みが、あの時の、
殿下と初めてお会いした時の微笑みと同じで、私は不覚にも涙が零れ落ちてしまったのです。

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