ああ、もう

コロンパン

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この苦しみから解放されたいのです。

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いつまでも殿下への想いが消えないのです。

あの書物庫での事があり、私は殿下に合わせる顔が無いと思いながらも、それでも避ける事は不敬だと、お会いしたい気持ちを正当化し、学園では殿下に挨拶を欠かす事はありませんでした。

婚約が解消されるまででも良い、少しでも殿下のお顔を見たい。
そうしていると、ずるずる未練ばかりが募って行くのです。

殿下は私の事をもう何とも思っていない、それを認めたくない。
挨拶をしても殿下のお顔はまともに見る事が出来ないのです。

殿下のお顔はコーデリア様と居られる所を遠くから眺めている時だけ。
私には向けないあの穏やかな表情を人知れず見つめる事が今の私にはささやかな幸せなのです。

消えないこの恋情をどの様に消し去れば良いのでしょうか。



書物庫へはあれ以来、訪れていません。
またあのような事になっては、また殿下の気分を害する事になり兼ねないから。

ですが、学園に私が居る場所は限られています。
皆様の視線に耐え切れる程、私は強くない。
人気の無い所で、且つ一人きりにならない様な所はそうそうありません。

限られている私の憩いの場。
食堂での食事を終え、私は日当たりの良い学園の庭園のベンチに腰掛け、美しい花々を眺めて自分の気持ちを静めようとしました。



それでも非情な事に、私の気持ちは静まる事はありませんでした。



「アイリーン様?」

澄んだ鈴の様な声。
私に声を掛けてくる女性は一人しかいないのです。

「コーデリア様・・・・。」

私は、上手く声を発せられたでしょうか。
不自然にならない様に顔を声のした方角へ向けます。

そこには白く美しい頬を朱に染めたコーデリア様が立っておられました。
少し肩で息をされているようで、御気分が優れないのでしょうか、私は立ち上がり、彼女のその滑らかな頬に手を添えます。

「どうか、なさったの?
とてもお辛そうに見えるのだけれど・・・・。」

彼女は本当に可愛らしい。
こんな私が敵う筈もない、華奢で儚げで、
この白く細い首も、少し力を入れれば容易く・・・・・折れてしまいそう。

頬から首へ滑らせた私の指。
そんな事を思っているなんて目の前の彼女は想像もしないでしょうね。
歪んだ気持ちに、きっと私の顔も醜く歪んでいるでしょう。

彼女は何故か更に顔が赤く染まり上がります。
ああ、大変だわ。
本当に体調を崩されてしまったのだ。

この事を殿下が知れば、きっと心を痛めてしまう。
傍に居ながら何故、医者を呼ばなかったのかと私は責められてしまう。


「コーデリア様、御気分が優れないようでしたら・・・。」

「い、いいえ!!体調など悪くありません!!
少し、驚いただけなのです!!
アイリーン様がこの様な言葉を掛けて下さるなんて思いませんでしたから・・・。」

ああ、自分の迂闊さを呪います。
そうだったのです。
私は、彼女とは挨拶程度でしか、言葉を交わしていなかったのです。
自分の気持ちを抑える事が出来ず、口汚く彼女を罵ってしまいそうで、
彼女に暴力を振るってしまいそうで。

「そう、なの?それならば良かったわ。
お顔が赤いから、発熱されたのかと思ったの。」

「いいえ、これは・・・。
その、少し早く歩いたと言うか・・・・。
走ったと言うか、息が上がってしまっただけで・・・。」

「まぁ・・・。」

コーデリア様、見かけによらず快活でいらっしゃるのね。
私は驚いてしまって、口に手を当てる。
淑女が走る事は、褒められた事ではありません。
それを自分から私に申告なさるなんて。
まぁ、私にはそれを咎めるつもりもありませんし、誰かに伝える事もしません。
尤も、親しい方が居ない私が誰に伝えるのでしょうね?

「それに、アイリーン様のお優しいお言葉が凄く嬉しくて、私もう感激してしまい・・・。
舞い上がってしまったのです。
はしたなくて申し訳ございません。」

彼女は矢継ぎ早に話し、頭を下げました。
私の醜い感情をお知りになられたら、彼女は同じ言葉を紡ぐ事は無いでしょうね。
私は自嘲気味に笑うだけで、何も言いませんでした。

彼女はそんな私の様子に遠慮がちに口を開きました。

「あ、あの・・・宜しければ、ご一緒しても構わないでしょうか?」

私は少し考えます。
いつもの様にお断りする事も出来ました。
今は、私の方が位が上。
此処が学園だとしても、それは尊重される。
下位の貴族が上位の貴族に強いる事は出来ないのです。

ですが、もしまた殿下のお耳にこの事が入り、叱責されるのは避けたい。

一度だけ、何度もお断りするのは心苦しい。
言い訳をして、私は頷きます。

「ええ、勿論。」

私の言葉に彼女は大輪の花が咲き乱れる程の美しい笑顔を私に見せたのです。

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