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私を倒せ。話はそれからだ。

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首をポキポキ鳴らしながら、近寄る。

「済みませんが、デイヴィッドが困っているので、それくらいにして貰っていいですかね?」

デイヴィッドに群がる男達へ、隠そうともせず殺気を向ける。
途端に顔を蒼褪めて、震えあがる男達(一部は紅潮させて震えているのだが、無視の方向で)。

「ミ、ミリアム・・・。そ、その・・・・デイヴィッド殿とどうしても話したくてだな・・・。」

「お、俺も師匠に鍛錬をつけて貰いたくて。」

「わ、私もです!!この身体で経験したくて!!」

「僕はデイヴィッドさんと一緒にお茶したかっただけだよ?」

言い訳めいた事をほざく野郎共に、何処かデジャヴを感じさせる。
私からデイヴィッドにシフトチェンジされても困るのだよ。

一体いつ乙女ゲームからBLゲームになったの、此処は?
いや、大好物なんだけど、涎物なんだけど。
その主人公が自分の伴侶なのは頂けない。
いや、良いんだけど。(良いのかよ!?と何処からかツッコミが来ても気にしない。)

前世でも彼はそっちの気の人に言い寄られていた事がある。彼は真に受けなかったが、私には分かった。長年培った腐センサーを舐めないで欲しい。
共通の友人の結婚式の二次会の幹事を頼まれた私達は、その店の店長と話をしていた。
その時に私は察知した。

店長の彼を見る目の熱量に。
(こ、こいつ、狙ってやがる!?)

蓮が発言する度に、うっとりする様な目で彼を見ていた。
ちょっとあからさま過ぎなのではと思ったのだが、彼は全く気が付かない。
ニコニコと話をしているだけ。
因みに共通の友人も薄っすら気が付いていて、私が切り出すとやっぱり!と言う顔をした。

「結愛ちゃん、どうすんの?アイツ狙われてるじゃん?」

と友人は軽く言ったが、それに対して

「勿論、受けて立つよ。蓮は譲れんのでね。」

一人の人間としてその人と真っ向から勝負した。
人を好きになるのに性別は無い、これは私の本心。
性別を超えても好かれる蓮を私は寧ろ誇らしいと思った。
それ程に彼の内面は美しいのだ。

そして正々堂々と勝負し、私は勝った。(蓮には呆れられたが)
何故か感謝された。

曰く、

嫌悪せずに、自分をライバルだと見てくれた事が嬉しかったそうだ。

それ以降、その店長とは友人になった。





なので、私は更に指もポキポキ鳴らしながら、目の前の4人に笑顔で伝える。

「デイヴィッドはこれから、ギルドに行くんです。貴方達の相手をしている暇はありません。
どうしても、と言うのなら。」

私は間を置いて、再度口を開く。

「私を倒してからにして貰いましょう。」

静寂。
静寂だが、私の漏れ出る殺気に尋常じゃない程取り乱して王子、脳筋、ヤンデレは脱兎の如く逃げ出した。


「は、は、はああああああああ!!!」

ホント、コイツは通常運転だな。
その場で蹲ったドMは悶え転がっている。

私は殺気を消し、デイヴィッドの肩を叩く。

「君は人間ホイホイなんだから、知らない人にホイホイ愛想を振りまくんじゃありませんよ。」

「ホイホイ?ゴキブリみたいな言い方するよな。
まぁ、分かった。」

分かってないな、これは。

「でも、珍しいお菓子って何だったんだろうな~。」

女子かっ!
今回もスイーツ好きかよ!?

「お菓子なら、家にも沢山あるから、好きなだけ食べたらいいよ。」

「おお~。ありがとう。んじゃあ、ギルド行って来る。帰りも迎えに行こうか?」

「いや、いいよ。」

「そう?あの4人の事嫌がってる様に見えたから。」

心配してくれているのは嬉しいのだが、もう彼等の標的は君になっているのだから、デイヴィッドが来た方が余計ややこしくなる。

「アリスとお兄様と一緒に帰るし、大丈夫だよ。」

「分かった。」

大きく頷いてデイヴィッドはギルドへ向かった。

私は呆気に取られたままのアリスとシュタイナーを率いて教室へ。



「ふおおおおお!!!見向きもされない快感!!流石、ミリアム様!!彼女は私を分かって下さる!!」

と言っていたのを見ていたお嬢さん方に報告を貰ったが、私は聞かなかったことにした。






授業も滞りなく終了し、アリス達と帰宅途中。

「お!ミリアム。今終わったのか。一緒に帰ろう。」

デイヴィッドとセイさんと合流した。
彼に至っては待ち伏せという策を弄する強かさは持ち合わせていないので、本当に偶然なのであろう。
ふふふ、これも私とデイヴィッドの真の絆と言えよう。

無表情にぐふぐふほくそ笑んでいると、セイさんが引き気味の目で見てくる。
あん?何か文句あんのか?

私のメンチにスイッと視線を逸らす。

あ、そうだ。
セイさんに構っている場合ではない。


「ねぇ、デイヴィッド。」

「ん?」

「今日、ギルドで依頼受けて来たの?」

「おお。」

「昨日言ったと思うけど、私デイヴィッド達とパーティーを組むから、その依頼一緒に行くよ。」

「え?」

初耳って顔をしている。
いや、絶対言ったからね。
どんだけ忘れるの早いんだよ。
私の感情を察知して、一瞬で思い出したデイヴィッドは取り繕う様に笑う。

「ああ!言ってた、言ってた!分かった。一緒に行こう。」

軽い感じで返事をするデイヴィッドをギョッとした顔でセイさんが見る。

「おま!そんな気軽に了承すんなよ!今回の依頼も討伐なんだぞ!危険・・・・。」

そこまで言いかけてセイさんの言葉が止まり、考え込む。

「危険、ではないな・・・。寧ろ戦力・・・。いや、しかしそんな簡単でいいのか?貴族の令嬢だぞ、一応。もし何かあったら、俺達処刑されるんじゃないか?銀華さんとか、シュタイナー様とか・・・。」

ブツブツ言ってる。
危ない人だなぁ。

セイさんの肩をシュタイナーが軽く叩く。

「大丈夫だって。討伐って言っても、今回のはドラゴンみたいに強力なモンスターじゃないし。
俺達が油断しなければイケる、イケる。」

だから、二回言うのは駄目だって。

「そうそう、イケる、イケる。」

まぁ、私も言うけどね。
あ、セイさんの顔が引き攣ってる。

「今回のモンスターは何なの?」

「パイソンタイガーっていう虎みたいな牛みたいなやつ。」

セイさんを無視してデイヴィッドに聞いた。
牛。
私は顎に手を当てる。
虎とも言っていたが、私にはもう牛という単語しか頭に入って来なかった。

「因みに何頭?」

「10頭。」

「ふむ。それは食用にもなる?」

「うん。」

へへへへ。

「あ、でもちゃんと10頭倒したっていう証拠が必要だから、ギルドに納品してからだからね、食べるのは。」

「了解。」

私達の会話にセイさんが蒼褪める。

「嘘だろ・・・。討伐モンスター食う気かよ。」

「食う!」


肉ぅううう!!肉が食いたい!!
無性に肉が食べたい気分になった。
私にかつてないほどのやる気が漲った。






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