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見なさいアリス

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あのままの勢いで走り続け、気付いたら学園に着いていた。
どんだけだよ!と自分でツッコんだ。
ご飯も食べていない。
荷物も何も持って来ていない。
手ぶらである。

何しに学園に来たのかと。
着替えていたのがせめてもの救いだ。

食堂とか開いてるのかな。
と思ったけど、手ぶらなのである。
よってお金も持っていなかった。

前世では朝食抜きでも平気だったのに、寧ろ朝食を食べたら腹を下す体質だったのに、今のこの体はちゃんと三食ご飯を食べないと、全ての機能が低下する。
お腹が空いたら機嫌が悪くなるのは一緒。
どうしたもんかと、芝生を見る。

・・・草とか、食べれないかな?
おばあちゃんの山で食べられる草とかよく食べてたし。
思考能力の低下した私はボーッと眺めていると、後ろから声がした。

「何、地面を眺めてるのよ。」

「あ、アリスだ。」

振り向くと、可愛い顔で小首を傾げているアリスが立っていた。
私の顔を見るとギョッとした顔になる。

「え!?アンタ、何にも持ってないじゃない!!どうしたのよ、てかシュタイナー様と一緒じゃないの?しかも何か顔が虚ろじゃない!何かあったの!?」

いっぱい言われた。

「ええと、ちょっとしたハプニングで、家の窓突き破って走っていたら学園に着いたの。」

「ちょっとしたハプニングで窓を突き破る事態に驚きだわ。だから何も荷物を持ってないのね。」

冷静にツッコむアリスに頷く。

「朝食前だったから、何も食べてなくて体に力が入らない・・・。」

「それで、そんな生気の無い顔をしてたのね。無表情で顔色が悪いと本当に幽霊みたいで怖かったわ。でも、食堂に行けば、ご飯食べれるじゃない。」

そうか、幽霊みたいな顔をしていたのか、それは悪い事をした。
セイさんとかが言ったら粛清ものだが、アリスになら何を言われても良いと思える不思議。

「何も持って来てないから、お金も無い。」

「ああ・・・。しょうがないわね、お昼に食べようと思ったお弁当、食べる?」

女神か!!
私は何度も何度も頷いた。

「いつも無表情なのに、なんでそんな輝いた目をしてるのよ。」

アリスは苦笑いで、バスケットを開く。

「サンドウィッチ!!!しかもハムとキュウリ!」


涎が出てくるのを押さえずに、キラキラと輝くサンドウィッチを凝視する。
私はパシンッと手を合わせる。

「いただきます!!」

そう言って、サンドウィッチを手に取り齧り付く。

「うめぇ・・・。うめぇええ。マスタードまでちゃんと塗っているとか神か!!」

「そこまでのモンでも無いし。」

はにかむアリス。
いや、もう神か。
朝から良いもん見させていただきました。ありがとうございます。




「で、結局ちょっとしたハプニングって何だったの?」

腹も満たされ、一息ついてアリスが当然の如く問い掛ける。
聞くよな、まぁ。

「う~ん。恥部を晒す様な出来事に耐え切れず、逃げ出しただけというか。」

「ああ・・・、昨日何か言ってたわね。デイヴィッドさん絡みと言う訳ね。」

悟ったアリスが呆れた顔で言う。

「そんな所です。」

「それでも窓を突き破るのはどうかと思うけど。」

相も変わらず冷静なお言葉。
私はぐもぐもとサンドウィッチを頬張り、今日の授業をどうすべかと考える。

「お~い。」

緊張感のない呼び声。

「お~い。」

分かり切っているのだが、返事をしたくない。
さっきの恥がまだ残っているのだ。

「ミリアム~。お~い。」

名を呼ばれた。
くそ、答えるしかない。

「・・・・・何だ。」

「なんという無愛想!人が折角荷物持って来たのに。」

私の嫌々の返事に大袈裟な身振りのデイヴィッドの持つ手には確かに私の荷物。
しかもシュタイナーと一緒に来ている。

「ミリアム、あんな事して怪我はしていないの?」

シュタイナーが優しく気遣う。

「・・・大丈夫です。」

ホッとした顔でシュタイナーはデイヴィッドを見る。

「ミリアムの荷物、デイヴィッドさんが持って行ってくださるって仰って、私もお一緒したの。
デイヴィッドさんはこれからギルドに行くそうよ。道中で色々お話を聞かせて貰ったわ。
とても沢山の依頼を熟されて、尊敬するわ。」

シュタイナーの顔が何か、うっとりしている。
私の眼光が鋭くなる。
横にアリスも何事かと二人を凝視している。


「ああ!!貴方は!!」

ああ、くそ。
嫌な予感がする。
昨日からの嫌な予感が現実になるのか。

そのまま歩き出そうと足を一歩踏み出す。

「デイヴィッド殿ではないか!どうしたのだ?」

「ああ、ええと、ノエル王子様。おはようございます。」

凄いな!名前覚えてるとか。
私なんかまだ朧げなのに。
そういや、人の名前覚えるのだけは得意だったな。

芸能人の名前とか何で知ってんの、って思ったもんな。
俳優さんとか、私全然知らなかったのにすらっと出て来るんだよ。
私が覚えれないのが問題なのかな。

おっと、またトリップしてた。

頬を紅潮させて走り寄って来る王子を目を細めて睨む。
それにも気付かず、王子はデイヴィッドの傍で立ち止まる。

「今日もデイヴィッド殿に会えるとは、今日はなんて素晴らしい日なのだ!」

殿て・・・。

「え?ああ、そうなんですか?」

王子の押しに引き気味に答える。
デイヴィッドは私にどういう事と目配せする。
私に聞かれてもと思っていたら、私に漸く気付いた王子が少し気まずげに笑う。

「あ、ああ。ミリアムに用があったのか。
そうか、そうだな。昨日言っていたな・・・。」

そのしょんぼりはどちらに向けてですかね?
説明を求めます。

「そうです。ミリアムの忘れ物を届けに来たんです。」

デイヴィッドは私の鞄を顔の高さまで掲げる。
私に向けてニヤニヤ笑いかけるが、私はそれどころではない。
恐らく王子が来たという事は、この後の展開も・・・・。


「師匠っ!!どうしたんだ!まさか俺に鍛錬をつけに来てくれたのか!?」

そうだよな、うん、分かってたんだ。
そうなるんだよ。

「ミ、ミリアム?一体これどういう事?」

私は悟りの境地で訊ねてきたアリスに答える。

「見なさい、アリス。これが昨日言っていた真の人たらしというモノだ。」

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