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何だこれ

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紳士淑女の皆様、どうも、朝昼晩といかがお過ごしでしょうか?
私?私は目の前の光景を悟りの境地で眺めている次第であります。
ナルシスト王子は何故そんな憧れの目でデイヴィッドを見ているのか。

「王子様なんですね。凄いな、俺初めてお会いしたかもしれないです。」

「そ、そうだろう!本来なら、王族とは会うこと自体稀だからな!」

「それに凄く綺麗な髪の色ですね。銀色の瞳も初めてです。」

「なっ!はっ!そ、そうか!?そう思うか!?」


・・・・・私は・・・・・何を見せられているのか。
デイヴィッドは物珍しそうにナルシスト王子の顔を見つめている。
それにドギマギした王子が満更でもない顔でデイヴィッドを見る。

え?
ここ、そういう世界だった?
乙女ゲームって言われたけど、違ってた?

もおおおお。
なら早く言ってよお!
そういうつもりでこちらも態勢整えるのにぃ!

ようし!
さぁ、来い!
私を楽しませてくれ!

「君はハンターだと言ったが、階級は何だね?」

ん?

「一応、Sです。」

「な!Sだと!!!」

何処から湧いた脳筋!?

「ええと、君は?」

「俺はウルフィンだ!騎士団長の息子で日々強くなるために鍛錬をしている!」

自分の胸に親指を当て、バァン!という効果音が出てそうなポージングだ。

「へぇ~、そうなんだ。」

出た!抑揚のない返事!
あれ、絶対興味ないやつ!

「Sランクのハンターなら、さぞかし腕が立つのだろう?
俺と腕試しをしないか?」

ああ、ここは脳筋の役を全うしているのか。
ていうか、

「いや、デイヴィッドさんはこれから私の家に行くのでそんな暇はありません。」

「おお!ミリアム嬢!
君も俺とそのハンターの勝負を見に来たのか!?」

あれ?話が通じていない?
勝負が確定している、誰も承諾していないのに?

「私の話を聞いていました?
デイヴィッドさんは私の家に行くので、貴方とは勝負はしないのですが?」

「何!?ミリアム嬢の家に行くだって!?何故だ!?
お前は一体ミリアム嬢の何なんだ!?」

「恋人ですけど、何か?」

「「な、なんだって!!」」

私の答えにナルシスト王子と脳筋が仲良く声を上げる。
胸に手を当て、大袈裟な動作で自分の世界に酔いしれるナルシスト王子。

「ミ、ミリアム!それは本当なのか!?」

「本当ですよ。」

だからもう諦めてくれ。

「ならば、尚の事勝負だ!!」

おい!何言ってんだ?脳筋!!
だからやんねぇって言ってるだろう!

「ミリアム嬢は俺が嫁に貰い受けるんだ!
俺がミリアム嬢に勝てる強さを得るまで彼女に待って貰っているんだ!」

え?一言も言ってません。
待ってもいない。
何言ってんの、この人。
あ、違うよ?デイヴィッド!そんな目で見ないでくれ!
私はぶんぶんと首を横に振る。
デイヴィッドはふうと息を吐いた。
どうやら信じてくれたようだ。

「う~ん。そういう事なら、ウルフィン君の言う通り勝負しないといけないかな?」

マジで?
私はデイヴィッドを見ると、肩を竦める。
やれやれだ・・・。

「よし!早速勝負だ。」

此処で?
二人はもうその気だ。
私達ギャラリーは二人から離れる。

どうやら、刃物を使った勝負では無いみたいだ。

「拳と拳をぶつけ合う漢の勝負と言う訳か。」

「何、シリアスな顔になってるの?」

思わず、劇画調の顔になってしまったぜ。

「ていうか、ミリアム。大丈夫なの?ウルフィン様、一応学園で一番実力がある設定よ?ミリアムには負けたけど。」

うん、まぁ。
負けてたね。

「分からぬ。」

「え?」

「いや、だって今世では初めましてだから、どれだけ強いかは知らないしな。
でも、ハンターランクSなら強いのでは?」

前世は争いを好まない人間だったけどね。
まぁ、きっと大丈夫だ!

アリスと私の会話を余所に、脳筋とデイヴィッドは準備万端の様だ。

「いつでもいいぞ!」

「俺も。」

闘志漲る脳筋とゆったりと立つデイヴィッド。
何故か仲立ちの王子。

「それでは行くぞ!・・・・始め!」

王子の合図と共に地を蹴って、デイヴィッドへ駆けだす脳筋。

「はあっ!!」

右ストレートを繰り出すも、デイヴィッドはするりと躱す。
その脳筋の右腕に触れ、勢いをそのままに脳筋を反転させた。

ズダンッと仰向けにひっくり返る脳筋は自分が何をされたのか分かっていない様子で、眼上のデイヴィッドを見開いたまま呆然としている。
デイヴィッドは徐に手を脳筋の額に翳し、

「はい。俺の勝ちね?」

ペコンとデコピンをした。

「ふむ。あれが戦場ならば、奴は脳天を割られておる。」

顎に手を当て、私は解説する。

「何、その言い方。」

「何か、武闘派系漫画に居そうな主人公の師匠みたいじゃない?」

「ま、まぁ何となく分かるけど。」

明らかに実力差があり過ぎる。
軽い感じで脳筋の力を往なすデイヴィッドは相当の鍛錬を熟してきたのだろう。
幾らこの学園で強かろうと、実戦で戦ってきた人間と比べると可愛い物だ。

デイヴィッドは脳筋を助け起こし、服に付いた土を払ってやる。

「ごめんね?依頼以外で戦うの好きじゃないんだけど、俺もミリアムの事譲れないから。」

うおほっ!!
止めて!そんなこっ恥ずかしい事平然と言わないで!
横のアリスがによによしてるから!



「ふ、くくくくっ。」

仰向けのまま脳筋が笑い出す。

「あーははははは!」

壊れた。

「アンタ!なんて強いんだ!!俺の師匠になってくれ!!」

何これ。
何見せられてんの私。

脳筋がデイヴィッドの両肩を掴む。

「え?いきなり何?」

困惑気味のデイヴィッド。
そらそうなるわな、私も困惑だもん。

「アンタの強さに惚れた!!俺はもっと強くなりたい!」

「いや、俺は別に人に教える様な柄では・・・。」

「そこをなんとか!!」

「そう言われても・・・。」

デイヴィッドが助けを求める様な視線を私に送る。
ふう。

私は首をボキボキ鳴らしながら二人に近づく。
そして脳筋の肩を握り潰すつもりで掴む。

「よう、兄ちゃん。人の男に手を出したら困るんだよ。
教えるなら、私が教えてやるよ。
ん?遠慮しなくていい。きっちり、しっかり教えてやるよ。
一生忘れない様に、な?」

脳筋の肩がミシミシ言うけれど、私は力を緩めない。
脳筋が涙目だけど、それでも止めない。

そこへザッと一歩踏み出す男が。
もう予想は付くがな。


「ぜ、是非とも!私にも!!」


だから、お前は呼んでないんだよ!!!

「あれは誰?」

デイヴィッドがアリスに聞いている。

「あ、あれはリヒト様で、ちょっと特殊性癖のある人です。」


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