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特に作戦は無い。

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ガタゴト。
馬車の中。

「いただきます!!」

私はパァン!!と良い音を立て、両手を合わせる。
そしてアリスからの愛妻弁当の蓋を開ける。

『愛妻違う!』

と、アリスからのツッコミが入りそうだが、今は不在なので好き勝手な事を言えるんだぜ?

「おお・・・!!これは・・・。」

私の好きな物入れたと言ってくれたアリスの言葉通り、そのお弁当は私の大好物ばかりだった。

「すげぇな。アリス嬢これを一人で全部作ったのか?」

私が感動で震えているのを良い事に、向かいからひょいと顔を覗かせて、手を伸ばしてきた。
瞬間、私の高速の手刀によって叩き落とされたのは言うまでもない。

「ってぇえええ!!アンタ、もう少し加減っていうの覚えろよ!!
俺の手斬り落とすつもりかよ!!」

セイさんは手首を摩りながら涙目で私を睨みつけてくる。

「無論、そのつもりでしたが?」

言い切る私にセイさんは顔を蒼褪める。
私はお弁当を指差す。

「当たり前でしょう。これは、アリスが、私の為に、早朝にも関わらず、愛情を、篭めてくれた、(愛妻)弁当です!
私が食べるよりも先に、何故セイさんが食べようとするのかが理解できません。
食べたいのならそれ相応のお願いの仕方があるでしょう?」

強調する様に一句ずつ切って話した。

「す、すみませんでした・・・。」

セイさんは謝った。
分かればいいのだ。

「って、ええ?いやいや、俺が悪いのか?」

悪いに決まっている。
何を困惑しているんだね。

私は無言でセイさんを見続ける。
耐え切れなくなったのかセイさんは、視線を逸らすように私に頭を下げる。

「俺にも食べさせて下さい。お願いします。」

「よかろう。」

私も鬼では無い。
普通に食べたいとお願いするのなら、快く渡していた。
何も言わずに食べるのは駄目だ。

セイさんに分ける為、私はお弁当を持ち上げる。

ヒラヒラ。
一枚の紙が落ちる。

私とセイさんは同時にその紙を見る。


『このお弁当はミリアムとセイさんのお弁当です。
決してミリアムのだけじゃないからね。
ちゃんと二人で分けて食べてね。』


・・・・・・・・・・・。


気まずい空気が流れる。

「まぁ、そういう事ですね。」

「そういう事って何だよ。」

「お気になさらずに、さぁ、アリスの愛情の篭ったお弁当ですよ。」

「アンタ・・・・。まぁ、いい。」

二人は気まずいままアリスの弁当を頬張る。

「!!美味い!!」

セイさんが目を輝かせる。
当たり前だ!!天使の作った弁当だぞ!!
不味い筈が無いだろうが!!

私は肉巻きおにぎりを食べる。

「うめぇ・・・。うめぇ・・・・。」

「ちょ、ミリアムさん。その言葉遣い・・・。」

私は無心でアリスのお弁当を貪る。
もう、エンペラードラゴンなんて指先一つだ。

「で、エンペラードラゴンはどうするんだ?」

「ふぁ?」

私は口一杯のまま返事する。

「行儀悪すぎる!!」

ごくん。飲み込んだ。

「どうするとは?」

「は?え?どうやって倒すんだって聞いてるんだけど。」

「別に、何も。」

「べ、は、え?何も?」

「はい、何も。」

顔面が真っ青になるセイさん。
どうした?

「エ、エ、エンペラードラゴンに何も策を練ってないのか!?」

思わず立ち上がりそうになるセイさんだが、馬車の天井が低いのでまた座る。

「ア、アンタなぁ・・・。アンタが強いのは分かる。
だが、皇帝と冠されるだけあって、強さは本物だ。
無策で挑むのは無謀としか言えない。」

私はニヤリと笑う。
セイさんは少し後ろに体を引く。
そんなにビクつかなくても。

「まぁ、どうにかなるでしょう。
何も私だけが単身で向かう訳でも無いし。
先に討伐に向かっているハンターさんが結構ダメージを与えているでしょうしね。
弱っているのであれば、もう純粋にぶっ飛ばすだけです。」

「ぶ、ぶ、ぶっ飛ばす!?」

私は拳を握り、頷く。

「そう、渾身の力を籠めてぶっ飛ばす。」

「は・・・・。」

口が開いたままのセイさん。
アリスのお弁当で私のやる気満々だ。
そして、夫に会える喜びでもう今は何が来ても負けない気分だ。

「明日の為に、今日はゆっくり休みますよ!
ドラゴンをぶっ飛ばして、さっさと帰りましょう!」

「お、おう。」

セイさんは私の勢いに押されて諦めたようで、ただ返事をするだけだった。

待っておれよ!!
エンペラードラゴン!
デイヴィッドさん!!

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