上 下
66 / 126

アリスの焼きもちは私にとってご褒美です。

しおりを挟む
え?
この目の前のお嬢さんは何を言っているのかな?

必死の形相で男装とか言ってなかったか?

私が固まっていると、ジュリアンちゃんは更に言葉を重ねてくる。

「あのギルドを偶然通りかかった方が、ミリアム様の姿をお見かけになったと仰っていました。
その際に、ミリアム様が男装なさっていたと。」

「男装かどうかは分からないんですけど、動きやすい服装をしていたのは確かですね。」

アリスも言ってたけど、あの服装は男装になるのか?

「!!!やはり、そうなのですね!!」

ジュリアンちゃんの目が輝き出す。
私は嫌な予感がして、後退りする。
逃がすまいと私の手を両手で握り締める。

「ミリアム様!!」

「は、はい。」

ああ、本当に嫌な予感。

「私達にも、是非!是非!
男装姿を見せてください!!!」


あー、ですよねー。
周りのお嬢さん達も鼻息荒く私に詰め寄る。

「ちょっと待ちなさいよ!」

アリス!

「あら、何かしら?」

ジュリアンちゃんがふんっとアリスを一瞥する。

「ミリアムの男装姿は私が先に見るんだからね!
アンタ達は後よ!後!」

ア、アリス?

「あーら、そんな順番なんて知らないわ?
私達はミリアム様にお願いしているのよ?
ほら、こうやって服も転写機もちゃんと用意しているのよ?」

ジュリアンちゃん達がビラっと沢山の男物の服と何やら小さな機械を見せびらかす。
・・・・ちょっと待ってね。
その服の量・・・。
2、30着位あるのは、私の目が老眼になってる訳じゃないよね?

「て、転写機ですって!!
何それ、詳しく教えろ下さい!」

アリス!?

ジュリアンちゃんが不敵に笑い出す。

「ほほほほほ!!これはね、目的物を忠実に映し出す最先端の物なのよ。
これで男装したミリアム様を映し出して、半永久的にそのお姿を保存できる素晴らしい機械なのよ。
我が家で発明したのよ!」

「な、なんですって・・・・!!!」

アリスがブルブルと震え出す。
ア、アリス?
嘘だよね、アリスは味方だよね?
信じてるよ、アリス?アリス?


「是非とも!!私もその撮影会に参加させて下さい!!!
私も衣装を持参いたしますので!!何卒!!」


アリスが何ともキレッキレの土下座をする。

ああああああああ!!アリスぅううううううう!
裏切者!!!!


「ふん。分かっているじゃないの。いいわ、特別に貴女も参加を認めましょう。」

「ありがとうございます!!」

「アリスさん・・・?」

「はっ!?」

私のゴゴゴゴゴゴゴという不穏なオーラにアリスがびくりと肩を震わせる。

「何、勝手に話を進めてくれてんの?」

「ごめーん、つい?」

あ、正統派ヒロインのてへぺろだ。
ズルい、許しちゃうよ、そんな可愛い顔されたら。


はあああああああと長い溜息を吐く。
でも留飲は下がらないので、アリスにもジュリアンちゃんにも軽い仕返しをしよう。


「まぁ、可愛いお嬢さん達のお願いを断る訳にはいかないですね。
でも。」

私はジュリアンちゃんに近寄る。
そしてジュリアンちゃんを自分に引き寄せる。

「え・・・。」

ジュリアンちゃんが小さく声を上げる。
私はジュリアンちゃんの小さな顎を人差し指と親指で優しく挟み込み、クイと私の顔に近づけるように上げる。

「アリスまで味方に引き込むなんて、貴女も中々策士ですね?」

「あ、あ、あ。あの、ミリアム様ぁ。」

後ろから割れんばかりの悲鳴が上がる。

「きゃああああ!!ジュリアン様!!!」

「何て羨ましい!!」


あれ?

「み、みりあむさま?これはいったい。」

涙目で私を見るジュリアンちゃん。
可哀想な位真っ赤だ。

「ああ、これは顎クイという悩殺技です。」

「あ、あごくい?」

「ドキドキするでしょ?」

「は、はい。とても、心臓が止まりそうです。」

おっと、危うく殺人犯になる所だった。
ジュリアンちゃんがホッと息を吐く。

「あごくい?」

「初めて聞いたわ・・・。」

「何て魅惑的なんでしょう・・・。」

お嬢さん達がうっとりとした顔で呟く。

案の定、アリスはハムスターがヒマワリの種を頬袋に満タン入れた様に頬っぺたが膨れ上がっている。

ちょっとした仕返しだ。
舌を出してアリスを見ると、更に頬っぺたが膨らむアリス。

どれだけ膨らむか気になる所だが、ふと我に返る。
顎クイとか、広めても良いのかな?

「ジュリアン様、ずるいですわ!」

「ミリアム様!私も、私にもそのあごくいをしてください!」

「私も!」

「私も!」

ギラギラした目をしたお嬢さん達が口々に私の顎クイを所望してくる。

「あ、ああ、じゃあ、一列に並んでくれますか?」


「「「「「はい!」」」」」

わー皆良い返事。
私の前にお嬢さん達はお行儀良く一列に並び出す。

「え?本当にやるの?」

アリスが信じられないといった顔で私を見る。

「まぁ、女性のお願いを無下には出来ないから。」

「・・・本当に天然タラシなんだから。」

アリスの呆れ顔に苦笑しつつ、

「さて、と。では始めますか。」

先頭に並んでいるお嬢さんの腰に手を回し、自分の所へ引き寄せる。

「きゃっ!」

小さな悲鳴を上げているが、嬉しそうな顔を期待に満ちた表情だ。
その可愛らしい顎に私の右手の人差し指を添えて、

クイと上に上げる。

「こんな事を所望だなんて、ハンナさんは悪い子ですね?」

「は、は、はい。
ごめんなひゃい・・・。」

ハンナちゃんは顔だけでなく、全身が真っ赤に染まり上がった。





という事をワンセット、繰り返す。

決して手抜きはしませんよ?
女性の願いは叶えなければ。
熱意を込めてしっかりと。

ていうか、列増えてないか?
終わる気がしないんだけど。

十数名のお嬢さんの願いを叶え、

「はい、次のお嬢さ・・・。」

私は言葉を失う。

「・・・・・・。」

・・・・・・・・・・。

一同沈黙。


ソイツだけは空気が読めないのか、嬉々とした表情で明るく口を開く。

「私はそのあごくいではなく、思い切り顎を掴んで、『この駄犬がっ!』と罵って下さい!!」


うわぁ・・・・。

って、いや、お前何、普通に並んでるんだよっ!
律儀に並んでたのかよ!
真面目か!
いや、顎クイの列で顎掴んで罵倒とか、
もう違うプレイだぞ!

周りのお嬢さん達が見えないのか!?
うわぁ・・・・って、ドン引きしてるぞ!

「うわぁ・・・・。」

はい!アリスに至っては声に出てました!
ありがとうございます!

周りドン引きしていようがお構い無く、
この変態、もといリヒトは背筋をピンと伸ばし、
(無駄に姿勢良いな!)
澄んだ瞳をして、
(要望は濁りきってるのに、何でこんな瞳が出来るのか。)
お嬢さん達の列に並んでいた。

「ふふふふ。皆さんの蔑んだ目も大変結構です。
ですが、ミリアム女王・・・。「今女王様って言おうとしたな?」
ミリアム嬢には誰にも敵いません。」

明らかに女王様って言おうとしたな。
やめてくれよ、私をそちらの世界に引き込まないでくれ!

ていうか、ミリアム『嬢』って、そっちの『嬢』のニュアンスが含まれてるよな?
ホントふざけんなよ?

だが、我慢だ。
此処で何らかのアクションを起こせば、リヒトを無駄に喜ばせる事になる。

なので私のとった行動は、


「はい、次のお嬢さん。」

「え!?あ、あの、リヒト様が・・・。」

「誰ですか?私には見えないのですが、誰か居るんですか?
嫌だわ、幽霊かしら?」

「あ・・えと、あ、はい。宜しくお願い致します。」

もう居ないものとして、存在をスルーした。
リヒトの後ろに並んでいたお嬢さんも、最初は戸惑っていたが、
私の意図を理解してくれた様で、そのまま私の所へ来てくれた。



「ああああああああ!!!アリガトゴザイマス!!!」


身悶えて、床に伏すリヒト。
何しても喜ぶんかいっ!!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...