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目が潰れそうだ

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自分の軽率な行動によって何処に行こうにも、
お嬢様達が後ろに数人付いて来る。

後ろを振り返る。

「きゃ!!」

「ミリアム様がこちらを見られたわ!!」

顔を上気させて私を潤んだ瞳で見つめる。

「はは・・・。」

何も言えず、前を向き歩みを再開する。

どうやら、この学園のお嬢様達の8割がファンクラブに入会したそうだ。

男性も2割入会しているらしい。

そして何故か攻略対象の王子達も入会している。
勿論ウルフィンもだ。

あの脳筋野郎も完全に諦めさせる事も出来なかった。
次に来るようであれば、手が滑ったと言って本気で亡き者にしてやろうか・・・。


・・・・冗談として。(若干本気)


うーん。
うーん。

まぁ、野郎が迫ってくるので無ければ、いいのか・・・な?
いいよね?

女の子が来る分には私としてはウェルカム。
嫌われるより好かれてる方が良いに決まっている。



良しとしよう。

無理矢理自分を納得させる。
教室に入り、自分の席に着く。

「あの、ミリアム。」

隣の王子が遠慮がちに話しかけてきた。

「はい、何でしょうか。」

最近無視しまくってたので流石の私も良心の呵責を感じて、素直に応えた。
それが余程嬉しかったのか、目が爛々と輝いている王子。

う・・・。また王子が犬に見えてきた。

「昨日のウルフィンとの勝負を見ていた。」

「ああ、はい。(居ましたもんね。)」

「騎士団長の息子のウルフィンは本当にこの学園で一番強いんだ!
それをあんな風に簡単に打ち負かすなんて、
お前は誰に剣術を教えて貰ったんだ?」

興奮気味に話す王子。
ああ、尻尾が見えてきた。

私は猫派、私は猫派。
言い聞かせる様に精神を落ち着かせる。

「私は誰にも教えを受けてませんよ。」

「え・・・。じ、じゃあどうやって・・・。」

「ウルフィン様にも言いましたが、書物で読んで学びました。」

「そ、それだけで、あんな動きが・・・。」

やっぱり俄には信じ難いだろうな。
私も信じない。
だが、もうこれを押し通すしかない。

「私自身もあんなに上手く体が動くとは思いませんでしたよ。」

顎に手を当て、俯きながら暫く考え込む王子。
内心焦るが、顔には出さない。

パッと顔を上げて私を見る。
何故かキラキラした眼差し。

「ミリアムは凄いな!!本を読んだだけで剣術を体得できるなんて。
羨ましい事だ。
俺なんて、中々上達しなくて騎士団長によく怒られているんだ。」

純粋な瞳をしている。
罪悪感が。

「それは、どうも。」

そう返すので精一杯だ。
王子の目をまともに見たら、私は浄化されて灰になってしまう。

「是非ともコツを教えて欲しいものだな。」

うん、うんと頷きながら、私の言葉を完全に信じている王子。
こんな純粋な人間で大丈夫か、この国は。

心配になってくる。

期待を含んだ目で私を見るが、それは無理だ。
これ以上、王子と関わりたくないし、何より

「私は教えるのが壊滅的に下手なので、申し訳ありませんが。」

そう、私は本当に教えるのが下手だ。
人に何かを伝えるのが上手くないとも言える。

自分の頭の中では分かっている事を、言葉で表現できない。

以前も何回か、この動きはどうやるのか教えてくれと、おじ様やおば様に聞かれた時。

『こう、バッとして、ガッと来たら、ギュルンって回って、ズバッです。』

と説明して、皆の目を点にさせた事があるのだ。
あの時の、

『結愛ちゃん実力はプロ並になのに、人に教えるのは赤ちゃんレベルだねぇ。』

おば様の言葉が忘れられない。

思い出して微妙にダメージを食らっていると、
王子がしょんぼりと肩を落とす。

「そう、か・・・。済まない。
厚かましいと思っているんだが、ミリアムとどうにか接点を持ちたくて・・・。」

「そう、言われましてもねぇ。」

「いいんだ!これから学園で過ごす時間は沢山あるんだ。
だから・・・悪かった!!」

あ、走ってった。










残された私の元にアリスがやって来る。

「私の幻覚かしら。
ノエル王子、ミリアムと話してる時、
千切れんばかりに尻尾がぶんぶん振ってるの見えたんだけど。」

「アリスにも見えたんですか、私もです。」

「俺様がもう死に設定になったわね。」


アリスはクスリと笑う。
まぁ、俺様よりかわんこ属性の方がマシだ、扱いやすいからな。


私は王子が走って行った方角を遠い目をしながら見つめた。

















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