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言い方・・・。

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「さて、料理教室を再開しましょう。」

ポンと手を叩き、中断していたジェフの料理講座再開を促す。

「もうお腹ペコペコですよ~。アリスのお料理が食べたいです。」

私はお腹をさすりながら、アリスに訴える。
アリスはプッと吹き出して笑いながら言う。

「ちょっと待ってて。もうすぐ出来上がるから。」

後ろで蹲ったままのレガートを放置して、私は先程まで座っていた椅子に腰掛け、
飲みかけの紅茶を飲む。

数分後、アリスが料理を運んでくる。

「お待たせ。」

目の前に出された料理は、
ビーフシチュー?ビーフストロガノフ?
取り敢えず肉を煮込んだ料理だ。

洋食屋さんに出てきそうな料理に思わず生唾を飲む。

「昔作ったことがあるんだけど、(この世界の)食材を上手く使えなくて失敗しちゃったのよね。
どうしてもリベンジしたくて、ジェフさんに教わったスパイスを使って見たんだけど。」

見た目からして、美味しいだろうと分かる。
匂いも美味しい。
美味しいに決まっている。

「では、早速。」

パンと両手を合わせる。

「いただきます。」

スプーンで贅沢に大きい肉とスープを掬い、
ぱくりと一口で食べる。

「どう?」

アリスは不安そうに私を見るが、
私はそれどころではない。

このホロホロまでに煮込まれたお肉。
噛まずに溶けていくお肉。

そして何よりくどくないスープの味付け。
濃すぎたら胸焼けするし、
薄すぎたら物足りない。

正に絶妙な私好みの味。

「ほいひぃ・・・。」

そこからは早かった。
カパカパと口に運び、僅か数分で完食した。

「はやっ!」

アリスが驚く。

「ご馳走・・・様でした・・・。」

綺麗になったお皿に合掌する。
漸くアリスに向き直り、

「本当に・・・美味しかったです。
アリスは天才ですね。」

「て、天才とか大袈裟よ!」

顔を赤くさせながらそっぽを向くアリス。
はぁ、可愛い。
その様子を微笑ましく見ていると、先程まで四つん這いだったレガートが、
いつの間にか横に来てアリスの作った料理を食べた。

「・・・こうやってお嬢様を懐柔した訳か。」

アリスの作った料理を憎々しげに見るレガート。

「懐柔って何よ・・・。」

アリスがボソッと呟く。
いや、寧ろ私がアリスを懐柔したのだ。

「レガートさん。逆です。
私がアリスを懐柔したのです。」

至極真面目な顔で私が言う。
アリスが半眼で私を見る。

「いや、懐柔されてないから。」

あれ?違うの?
首を傾げる。
アリスは長い溜息を吐く。

「普通に友達になった、でしょ?そこは。」

あ、そうでしたね。

「ごめんなさい。そうでした。私達は親友なのでした。
レガート、アリスに失礼な事を言わないでください。」

「・・・・申し訳ございません。」

不服そうにレガートは私に謝る。

「私にじゃなく、アリスに謝ってくださいね。」

レガートが凄く嫌そうな顔をする。

「アリス様、・・・・・申し訳ございません。」

嫌々謝っている。

「良いですよぉ、レガートさん。気にしてませんから。」

そう言うアリスはすんごく悪い顔で笑ってた。






一騒動あったので、すっかり遅くなってしまい、馬車でアリスを家まで送る。

「今日は美味しい料理ありがとうございました。」

「こちらこそ、ジェフさんに色々教えて貰えて助かったわ。」

「後、レガートさんがすみませんでした。」

「ああ、いいわよ。私もあんな態度だったし。
お互い様だから。」

まさか、レガートがあんなキャラだとは思わなかった。

「あのレガートはこちらが何も命令しなければ、
基本的には行動は起こさないキャラだから、
ミリアムが変な事をお願いしなければ、
無害なはずよ。」

そうだよな。
今まで此処で生活していて、何も干渉してこなかったから気が付かなかった。
交友関係を裏で管理されていたのは驚いたけど、
それ以外は、ただのイケメンの執事が居るなぁ、位だったし。

「ただ、あの四人みたいに今回の事でまた性格が変わってしまう事はあるかもしれないわね。」

あ、フラグを建てましたね?アリス。

「アリス、それ言っちゃいけない台詞というやつですよ。」

「あ。」

アリスはしまったと言う顔で、口に手を当てる。

「まぁ、彼は攻略対象でも無いし、変わった所でどうとも無いと思いますが。」

「そうよね。攻略対象じゃないものね。」





この世界が現実世界であるという事を言っておきながら、
その事実をすっかり忘れていた私達。

そして私もフラグの建つ台詞を言ってしまった事に気が付くのは、
暫く後になる。








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