1 / 1
第1話『警視庁公安部自衛隊監視班』
しおりを挟む
朝の成田空港。
筋骨隆々の男たちが帽子を深く被り、厚着をしてロビーにやってきた。
警視庁公安部の畠山正警部補は彼らをウクライナ帰りの日本人義勇兵と断定した。
「こちら畠山。マルタイがロビーにやってきた」
マルタイ。すなわち捜査対象だ。彼ら筋骨隆々の日本人義勇兵は公安監視対象なのだ。
「了解、秘撮します」
大河内和夫巡査部長が年下の上司である畠山の言うことに従う。
要するに隠し撮り。空港保安ゲート監視室に特別に入れてもらった公安の皆が無言でパシャパシャと自衛官の顔写真を撮る。
マル自の公安警官の畠山正警部補と大河内和夫巡査部長には部下の巡査長、巡査クラスの班員捜査員が4人ついていた。
警部補といっても、畠山はまだ25歳であった。キャリア警察官というやつだ。この場の責任者にあたる。3ピースのスーツを着こなす彼はイケメンと言って差し支えないであろう。
「おいおい、あいつ知り合いだぞ。あいつも、あいつも、ウクライナに義勇兵かよ」
その畠山警部補に半ばタメ口を利く大河内。年が35歳だから、ふたりの関係性は階級と年齢が交錯するものだった。ウクライナ帰りの自衛官と知り合いらしい大河内もまた、元自衛官であった。
そこへ新米巡査がすっとぼけたことを言う。
「公安さん、何でウクライナ帰りの自衛官を撮るんです?」
畠山が余裕の笑みで応じた。
「おや? 成田空港の所轄の人かな? 君も新人か。奇遇だね、僕もだよ」
口角を上げる畠山に対して、大河内は不機嫌そうだ。
「おいおい説明聞いてなかったのか」
新米巡査はへこむ。
「皆そういって教えてくれなくて」
たはー、と肩を落とし、頭をぼりぼりとかく大河内。
「すまんな畠山さん、こいつはたぶん今日配属されたばかりなんだ」
「ははは」
「いいよ、説明してやる。アメリカから日本に、ウクライナ戦争に協力しろと圧力があってな。自衛官を退役させて義勇兵として派兵させてた訳。そいつらがクーデターでも起こしたら目も当てられないからな。俺たち公安の自衛隊監視班が調査しているのさ」
畠山がポンと肩を叩く。
「さすが元空挺レンジャーの大河内さん、詳しいですね」
Pチャンイヤホンからは公安総務課の女性警察官、村上遥警部補の指示音声が聞こえる。女性だ。
「こちら村上です、盛り上がってるところ悪いですが、送ってもらった画像が自衛官のリストと照合できたので、もう上がってもらっていいですよ」
大河内が背伸びした。
「んじゃ、帰るとしますか、畠山警部補殿」
畠山は苦笑する。
「よしてくださいよ、あなたのほうが10も年上なんだから」
大河内は真面目な顔になると、成田空港警備隊の公安部門責任者に頭を下げた。
「それじゃ、成田公安の皆様、マルタイの尾行は頼みます」
成田空港警備第三課(公安部門)の責任者が無愛想に応じる。
「承っている」
……バス型の警察車両に乗り込む畠山と大河内。末端の公安捜査官4名も乗りこんだ。
バスは走り去っていった。
それを見送った新米巡査は言う。
「何だったんだ彼らは」
成田公安の責任者が答えてやる。
「あれがマル自。自衛隊監視班だ」
* *
東京都千代田区──警視庁。
警視庁公安部公安総務課第五公安捜査第10係自衛隊監視班、通称マル自に出勤する人らがいた。
警視庁13階、公安部オフィスに出勤する畠山警部補と大河内巡査部長が目指したのは、マル自班長のデスクだった。
「おはようございます班長。こちらが今朝の成田帰りのウクライナ義勇兵のデータになります」
ハンサムな班長がにっこりと笑う。
「ご苦労だった、畠山君、大河内君。このあとマル自幹部でミーティングを開こう」
……同じフロアのとある会議室では先に入室した畠山と村上が会話していた。
「村上さん?」
「畠山さん?」」
「あの時のオペレーションでは助かりました」
村上がにっこりと笑う。眼鏡をかけ清楚な雰囲気の彼女に畠山は見惚れてしまった。
遅れて、班長と大河内が入室する。
「わりい、遅れた」と大河内巡査部長。
班長がコーヒーメーカーの前に立ち、皆が少し驚く。
「始めるか。コーヒー淹れるよ」
自らコーヒーメーカーの前に立つ班長は警部の階級を持っていた。
村上がすかさずフォローする。
「私やりますよ」
それを丁重に断り、コーヒーを淹れるのは田村秀俊たむらひでとし。彼こそがマル自の班長だ。
「ジェンダー平等で行こうよ。畠山くん、配ってくれ」
ソーサーに置いたコーヒーを配る畠山。
「はい。そう言えば普段は通信越しでイツメンの皆で顔を合わせるのは初めてですね」
畠山が多少くだけた言葉を使っても田村班長は咎めなかった。
「そうだな、公安の特性的に滅多に顔を合わせないからな」
皆が着席する。
「マル自班長、警部の田村秀俊です。年は45歳。公安一筋で修羅場を渡り歩いてきた。何でも聞いてくれ」
皆が頼もしく思う。
「おお」
田村は続ける……
「私はノンキャリアだが、畠山くんはすごいぞ、なんとキャリアで25歳で警部補だ」
「へえ~」と皆。
最年少の畠山が立ち上がる。
「もう言われてしまいましたが、畠山正です。至らぬ点もあるかとは存じますがよろしくご指導ください。」
それを村上遥が遮った──
「ちょっと待って」
村上がパソコンを叩く。
「あっ、畠山正晴法務大臣のご子息だ!」
「え!!?」
大河内が大袈裟に驚く。畠山は別種の驚きを隠せない。
「もう調べたんですか!?」
「村上は天才ハッカーだからな」
田村が教えてやった。
大河内が頭を下げる。
「お見それしました、畠山警部補」
「私にもお見それしてないの?」
村上がふくれっ面になる。
「すいません」
大河内は謝った。田村は笑った。
「改めて、村上遥です。階級は畠山警部補と同じだけど一応2コ先輩なので」
「最後は俺だな。自衛隊出身の大河内です。年は35。一応空挺レンジャーやってました」
「空挺レンジャー……」
田村が膝を叩く。
「自己紹介は終わったようだな」
田村は立ち上がる。
「俺たちはチームだ。公安一筋の警部、法務大臣のお坊ちゃま、天才ハッカー、元空挺レンジャー、俺たちは個性を組み合わせて国を守るんだ。そのことに自信を持て」
「はい!」
皆が元気よく応える中、畠山は警部みずからが淹れたコーヒーに礼を述べた。
「ごちそうさまでした」
皆コーヒーを飲み干した一同。
田村が采配を振るう。
「では仕事にかかろう。村上と大河内は班員を指揮してウクライナ義勇兵を正式な書類にリストアップ。俺と畠山は上に報告する書類をまとめるぞ」
今ここに、警視庁公安部自衛隊監視班が始動する──!
筋骨隆々の男たちが帽子を深く被り、厚着をしてロビーにやってきた。
警視庁公安部の畠山正警部補は彼らをウクライナ帰りの日本人義勇兵と断定した。
「こちら畠山。マルタイがロビーにやってきた」
マルタイ。すなわち捜査対象だ。彼ら筋骨隆々の日本人義勇兵は公安監視対象なのだ。
「了解、秘撮します」
大河内和夫巡査部長が年下の上司である畠山の言うことに従う。
要するに隠し撮り。空港保安ゲート監視室に特別に入れてもらった公安の皆が無言でパシャパシャと自衛官の顔写真を撮る。
マル自の公安警官の畠山正警部補と大河内和夫巡査部長には部下の巡査長、巡査クラスの班員捜査員が4人ついていた。
警部補といっても、畠山はまだ25歳であった。キャリア警察官というやつだ。この場の責任者にあたる。3ピースのスーツを着こなす彼はイケメンと言って差し支えないであろう。
「おいおい、あいつ知り合いだぞ。あいつも、あいつも、ウクライナに義勇兵かよ」
その畠山警部補に半ばタメ口を利く大河内。年が35歳だから、ふたりの関係性は階級と年齢が交錯するものだった。ウクライナ帰りの自衛官と知り合いらしい大河内もまた、元自衛官であった。
そこへ新米巡査がすっとぼけたことを言う。
「公安さん、何でウクライナ帰りの自衛官を撮るんです?」
畠山が余裕の笑みで応じた。
「おや? 成田空港の所轄の人かな? 君も新人か。奇遇だね、僕もだよ」
口角を上げる畠山に対して、大河内は不機嫌そうだ。
「おいおい説明聞いてなかったのか」
新米巡査はへこむ。
「皆そういって教えてくれなくて」
たはー、と肩を落とし、頭をぼりぼりとかく大河内。
「すまんな畠山さん、こいつはたぶん今日配属されたばかりなんだ」
「ははは」
「いいよ、説明してやる。アメリカから日本に、ウクライナ戦争に協力しろと圧力があってな。自衛官を退役させて義勇兵として派兵させてた訳。そいつらがクーデターでも起こしたら目も当てられないからな。俺たち公安の自衛隊監視班が調査しているのさ」
畠山がポンと肩を叩く。
「さすが元空挺レンジャーの大河内さん、詳しいですね」
Pチャンイヤホンからは公安総務課の女性警察官、村上遥警部補の指示音声が聞こえる。女性だ。
「こちら村上です、盛り上がってるところ悪いですが、送ってもらった画像が自衛官のリストと照合できたので、もう上がってもらっていいですよ」
大河内が背伸びした。
「んじゃ、帰るとしますか、畠山警部補殿」
畠山は苦笑する。
「よしてくださいよ、あなたのほうが10も年上なんだから」
大河内は真面目な顔になると、成田空港警備隊の公安部門責任者に頭を下げた。
「それじゃ、成田公安の皆様、マルタイの尾行は頼みます」
成田空港警備第三課(公安部門)の責任者が無愛想に応じる。
「承っている」
……バス型の警察車両に乗り込む畠山と大河内。末端の公安捜査官4名も乗りこんだ。
バスは走り去っていった。
それを見送った新米巡査は言う。
「何だったんだ彼らは」
成田公安の責任者が答えてやる。
「あれがマル自。自衛隊監視班だ」
* *
東京都千代田区──警視庁。
警視庁公安部公安総務課第五公安捜査第10係自衛隊監視班、通称マル自に出勤する人らがいた。
警視庁13階、公安部オフィスに出勤する畠山警部補と大河内巡査部長が目指したのは、マル自班長のデスクだった。
「おはようございます班長。こちらが今朝の成田帰りのウクライナ義勇兵のデータになります」
ハンサムな班長がにっこりと笑う。
「ご苦労だった、畠山君、大河内君。このあとマル自幹部でミーティングを開こう」
……同じフロアのとある会議室では先に入室した畠山と村上が会話していた。
「村上さん?」
「畠山さん?」」
「あの時のオペレーションでは助かりました」
村上がにっこりと笑う。眼鏡をかけ清楚な雰囲気の彼女に畠山は見惚れてしまった。
遅れて、班長と大河内が入室する。
「わりい、遅れた」と大河内巡査部長。
班長がコーヒーメーカーの前に立ち、皆が少し驚く。
「始めるか。コーヒー淹れるよ」
自らコーヒーメーカーの前に立つ班長は警部の階級を持っていた。
村上がすかさずフォローする。
「私やりますよ」
それを丁重に断り、コーヒーを淹れるのは田村秀俊たむらひでとし。彼こそがマル自の班長だ。
「ジェンダー平等で行こうよ。畠山くん、配ってくれ」
ソーサーに置いたコーヒーを配る畠山。
「はい。そう言えば普段は通信越しでイツメンの皆で顔を合わせるのは初めてですね」
畠山が多少くだけた言葉を使っても田村班長は咎めなかった。
「そうだな、公安の特性的に滅多に顔を合わせないからな」
皆が着席する。
「マル自班長、警部の田村秀俊です。年は45歳。公安一筋で修羅場を渡り歩いてきた。何でも聞いてくれ」
皆が頼もしく思う。
「おお」
田村は続ける……
「私はノンキャリアだが、畠山くんはすごいぞ、なんとキャリアで25歳で警部補だ」
「へえ~」と皆。
最年少の畠山が立ち上がる。
「もう言われてしまいましたが、畠山正です。至らぬ点もあるかとは存じますがよろしくご指導ください。」
それを村上遥が遮った──
「ちょっと待って」
村上がパソコンを叩く。
「あっ、畠山正晴法務大臣のご子息だ!」
「え!!?」
大河内が大袈裟に驚く。畠山は別種の驚きを隠せない。
「もう調べたんですか!?」
「村上は天才ハッカーだからな」
田村が教えてやった。
大河内が頭を下げる。
「お見それしました、畠山警部補」
「私にもお見それしてないの?」
村上がふくれっ面になる。
「すいません」
大河内は謝った。田村は笑った。
「改めて、村上遥です。階級は畠山警部補と同じだけど一応2コ先輩なので」
「最後は俺だな。自衛隊出身の大河内です。年は35。一応空挺レンジャーやってました」
「空挺レンジャー……」
田村が膝を叩く。
「自己紹介は終わったようだな」
田村は立ち上がる。
「俺たちはチームだ。公安一筋の警部、法務大臣のお坊ちゃま、天才ハッカー、元空挺レンジャー、俺たちは個性を組み合わせて国を守るんだ。そのことに自信を持て」
「はい!」
皆が元気よく応える中、畠山は警部みずからが淹れたコーヒーに礼を述べた。
「ごちそうさまでした」
皆コーヒーを飲み干した一同。
田村が采配を振るう。
「では仕事にかかろう。村上と大河内は班員を指揮してウクライナ義勇兵を正式な書類にリストアップ。俺と畠山は上に報告する書類をまとめるぞ」
今ここに、警視庁公安部自衛隊監視班が始動する──!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……
紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz
徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ!
望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。
刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる