【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

覚悟

哲也が言葉を続ける。

「俺は…、ふふ…　」

突然、何を思ったのか小さく笑い出す姿が、やけに恐ろしい…
突然不機嫌になったり、くすくすと笑いだしたり、本当に奇妙な男だ…

今もなんとなく、目の焦点が合っていないような気がする…。
もしかすると俺は、哲也に対して、言ってはならないことを口走ってしまったのだろうか…

哲也はいまだ俺の手首をつかんだまま、ギリギリと力を込めてくる…　　痛い…

「おかしくはない…俺は、いたって正常だ…　おまえの言う、異常とは…おかしな感情とは、どういうものだ…　ん…？」
鋭い目つきが、決して逃がさないとばかりに俺を捕える。

「あ…いえ…　そ…　その…　」
まるで、長年の条件反射のように、途端にビクつく態度になりかける俺…
本当に、情けない…

このくらいの脅しで怯んでどうする…
今日こそ、本当に全部思っていることを…不審に思っていることを、この男にぶつけなければ、
毎回…同じことの繰り返しだ…　
そう自分を鼓舞して、なんとか言葉を続ける。

「普通に考えて、おかしいでしょう…兄であるあなたが、妹である真由にキス…するなんて…ましてや、身体に…胸に、触れるなんて…一般的に、おかし…」
「おかしくなど、ない…　そもそも、君は大きな勘違い…いや、思い違いをしている…」
「は…、　…　…？」どういう、意味だ…？
「俺の話を聞く…　覚悟はあるのかな…　それとも、やめておくか…？　」
「…　はい…？　」

しまった、敬語になってしまったが、今はそんなことはどうでもいい…

　　　　　覚悟とは、なんだ…　　

今更、何を言う…　つくづく、もったいぶった話し方をする男だ…

貴様が兄でありながら、妹である真由に淫らな欲望を抱いていることなんて、もうとっくに、俺にはわかっている…

「…　いいのか、本当に話しても…？　」

やはり男は、余裕ぶった表情で笑っている…　
癪に障ること、この上ない…

「ああ…」

「…あの夜…おまえは真由が寝ていたというが…　それは、違う…　

真由はね…起きて、いたんだよ？」

「　は…　？…　　」

男の言葉に、

　　　俺の声が、思わず

　　　　　　裏返った…