【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

色とりどり

『坂下、今日久々に外に蕎麦でも食べに行かないか…？つい最近、近くにいい店発掘したんだが…』

昼少し前に、別部署の同期の男から内線電話がかかる。
蕎麦か…最近食べていないから行きたい気もする…。

だが、今日は運悪く、真由の手製の弁当がある…。
いや…運悪くなどと言ったら罰が当たるし、真由がものすごく怒りそうだ…。
今日の俺には、真由が一生懸命作ってくれた、弁当がある…

さすがに、これを食べずに外食するのは気が引ける。
俺は内心残念に思いながらも、やんわりと断りの返事をする。

『ごめん…今日は嫁さんの弁当があるから無理なんだ…』

『へ～～坂下、最初の頃はよく持ってきてたけど最近なかったじゃん…まあでも、ベントーあるなら仕方ないか、また誘うな』

『ああ、すまん…』

俺は同期とのやり取りを済ませ、昼のチャイムと同時に弁当を持って会社の食堂横にある休憩室に向かう。

デスクで食べると、弁当持参は珍しいなと茶化されたり、下手したら弁当の中身を覗き見されそうで落ち着かない…。

蕎麦にありつけなかった以上、
今日は一人、ひっそりと弁当をつつきたい気分だ…。

休憩室へ足を踏み入れると、ちょうど自販機に近い窓際の席が空いていた。

俺はそこに腰掛け、本当に久々に保冷バッグから弁当を取り出す。

なんだかこの動作すら懐かしく…気恥ずかしい気持ちすらしてくる。

新婚の頃は毎日真由が早起きし、一生懸命作った愛妻弁当を持たせてくれて、職場でいつもラブラブだなと揶揄われていたっけ。

俺は自販機で弁当のお供に缶のコーンスープを買い、準備万端…　ゆっくりと弁当の蓋を外す。

「お…　…　」

鮮やかな黄色のだし巻き卵に、タコのウインナー…ひじきの煮つけに、鶏の唐揚げ…

その日の弁当箱の中身は、ものの見事に俺の好物だけで埋め尽くされていた…。

真由　一体、どうしたんだろう…　　

真由の一連の珍しい行動を疑問に思いながらも、

その時の俺はまだ能天気に、
　　　弁当をつつこうとしていた…。