【完結・R18】鉄道の恐怖

清春編

先制攻撃

『俺は君の兄ではない』

…真由の兄の、
その一瞬周りを凍りつかせるような表情と低い声は、俺をゾクリとさせた。

「え…　…」俺は言葉を、失う。
「お兄ちゃん…そんな…」真由も驚きの表情を浮かべる。

男の、暗い表情…
なんだ…　何か、怒っているのか…　俺は何か、失敗…したのだろうか…


「　…　なんてね…　冗談ですよ…　ふふ…　」

真由の兄が、さっきとは打って変わった柔らかな表情で、ニコリと微笑む。

「え…　…」やはり言葉が出てこない。

「一度、言ってみたかっただけです…　俺は君のお父さんじゃない、って…あの、よくある花嫁の父親の台詞…。
まあ、私は兄なんですがね…。」

真由の兄は、笑ってそう説明する。
さっきの射抜くような視線は、その表情からは綺麗に消えていた。

「あ…　…　」

なんだ…　

冗談、だったのか…
初対面で、相手がどのような人物かもわからないこの状況で、
この冗談はさすがにキツイ…ものがある…。

俺は情けないことだが、膝が笑って、その場から崩れ落ちそうになる。

「あっ…清春さんっ！！　大丈夫…！？…」
「あ…　うん…ごめん、真由…　…」　　

なんだか格好が悪くて…情けない気持ちになる…。

「あ…っと、大丈夫かい？…冗談が過ぎたかな、これは失礼しました…清春君…と、呼んでもいいかな…？
初めまして…真由の兄の、哲也と言います。以後、よろしく…」

そう言って、真由の兄はにこりと、笑った。

「…こちらこそ、よ…よろしくお願いします…。」
俺は、真由に半身を支えられながら、なんとかお辞儀をして、挨拶をする…。

先制攻撃を受けた…　　ような、感覚…

それが…　　　真由の兄、

　　　哲也との最初の出会いだった…。