【完結・R18】鉄道の恐怖

生い立ち

「そう…それで、母が去った後…いや、もう、母とも呼びたくはないのですが…まあ、その人が去った後、父がどれほど苦労したかは想像もできません…

私はまだ小さな子供でしたから父の邪魔をすることはできても、助けることなんて何もできはしない…父はずっと苦しんでいたそうです…そんな時に…」

男が空になったグラスをテーブルにゴトリと置く。

「父は…出会ったのです。本当に慎ましやかな女性に…。
父の職場に毎日くる弁当だか総菜屋かの配達の女性…最初はなんの意識もしていなかったようです。

…ですが、毎日明るい笑顔で弁当の配達にくるその女性に、日々、癒され…父は段々とその女性に心惹かれるようになったそうです。

あの人が突然子供を捨てて消えたことで、父は男手一つで仕事とまだ小さい私の子育てをやることになったわけですから…それはもう、精神的にも肉体的にも疲弊していた時期だったようです。

まあ、父はそのような苦労話を私に一切してくることはなく、これはあくまで後になって私が、父の親しかった友人に詳しく聞いた話ではありますがね…。

その弁当屋は父の職場に近かったこともあり、父はそのうち、昼のみだけではなく、夜も、その弁当屋で父と私の弁当を買って帰ったりすることが段々と増えていったそうです。
それでその女性と少しずつ会話も増え、お互いを知るようになり…次第に仲良くなっていった。

もう、大体想像がつきますか…？

私の父は、少しの付き合いの後その女性と再婚しました。二人は心から愛し合い、ほどなくして、とても可愛らしいキラキラと輝く、美しい目をした女の子が生まれました…それが、真由です…」

男が不気味に、言葉を切る。

　　　　　　　　　　　　　
　　「私の愛する妹…真由の、誕生です…」