21 / 21
夫婦
残像
しおりを挟む
既に夜の9時を過ぎていた…。
なんとなく最近真っ直ぐに家に帰るのが嫌で、今朝はつい、妻に嘘をついてしまった。
仕事で遅くなりそうだと…
本当は残業もそれほど予定しておらず、特に誰かと約束もしていない。
「今日も、ここにするか…」
俺は最近発見して気にいっている小料理屋に、ゆっくりと足を踏み入れた。
値段が手ごろで美味い店…
今月はもう、これで4度目だ。
普段はテーブルに座るが、今日は週末だからか店内が客でにぎわっていたため、一人、カウンターに座った。
「いらっしゃいませ、何にしましょう…?」
いつものおやじが、俺に笑いかける。
週に一度のペースで来ているから、そろそろ顔を覚えられたのかもしれないと、ふと思う…。
「あの…今日の…日替わり定食を」
「はい、しばらくお待ちを~ 日替わり定食、一つ!…」
俺ににこやかに笑いかけ、おやじがここからは暖簾で見えないが、キッチンの方に声をかける。
「はい…」女の…か細い声が、奥から聞こえた。
夫婦だろうか…
俺はほとほと、考える…
家庭でも職場でも、夫や妻が近くにいる環境…
夫婦でともに経営している会社や、自営業の飲食店…
俺には絶対に考えられない…
多分、耐えられない…
夫婦はあくまで、程よい距離感がいいと思うのだが、世間は割とそうでもないことも多い…。
世間で言う、おしどり夫婦…
夫婦で仲良くレストランを経営などはざらにある話だが、俺にはあり得ない話…
「あなた、用意できました。」すぐ近くで、女の声がした。
定食だから、提供が早いのかもしれない…
ほどなくして、四角の大きな盆を抱えた白く華奢な手がまず目の端に映り…俺は女の顔を見る…。
「… … … 」
思わずぎくりとして、言葉を失った。
少し垂れ目ではあるが…色気のある目元…睫毛の影が肌に映るほどに、長い…
小さな、桃色の唇…
細く、頼りなげな白い腕が、そんな重そうな盆を持って大丈夫かと、見ていてなんとなく不安になるほどだ…
全体に華奢な身体つき…
顔は伏せているものの、一目で美人だとわかった。
「お客さん、お待たせしました~!」店主が女から盆を受け取り、俺の前に置く…。
「…ああ、ありがとう、ございます… 」現実に、引き戻される…。
女は、ぺこりとこちらに無言で頭を下げて、奥に引っ込んでいく…。
肩幅が狭い… 白いうなじの後れ毛がなんとも、艶めかしい…。
妻とは… 少なくとも、今の妻とはまるで違う…
全身から、色香が漂っている女…
妻が、もしも…ああであれば、
あるいは俺も… 男として、機能するのかもしれない…
俺はその女が消えて行った残像を追うかのように奥を見つめつつ、ハッとする…。
初対面の女に、何を想像をしている…?
無意識ではあったが、不躾に見つめ過ぎたかもしれない…
「いただきます…」
俺は反省の気持ちで自分自身を戒めつつ、箸を手にした。
なんとなく最近真っ直ぐに家に帰るのが嫌で、今朝はつい、妻に嘘をついてしまった。
仕事で遅くなりそうだと…
本当は残業もそれほど予定しておらず、特に誰かと約束もしていない。
「今日も、ここにするか…」
俺は最近発見して気にいっている小料理屋に、ゆっくりと足を踏み入れた。
値段が手ごろで美味い店…
今月はもう、これで4度目だ。
普段はテーブルに座るが、今日は週末だからか店内が客でにぎわっていたため、一人、カウンターに座った。
「いらっしゃいませ、何にしましょう…?」
いつものおやじが、俺に笑いかける。
週に一度のペースで来ているから、そろそろ顔を覚えられたのかもしれないと、ふと思う…。
「あの…今日の…日替わり定食を」
「はい、しばらくお待ちを~ 日替わり定食、一つ!…」
俺ににこやかに笑いかけ、おやじがここからは暖簾で見えないが、キッチンの方に声をかける。
「はい…」女の…か細い声が、奥から聞こえた。
夫婦だろうか…
俺はほとほと、考える…
家庭でも職場でも、夫や妻が近くにいる環境…
夫婦でともに経営している会社や、自営業の飲食店…
俺には絶対に考えられない…
多分、耐えられない…
夫婦はあくまで、程よい距離感がいいと思うのだが、世間は割とそうでもないことも多い…。
世間で言う、おしどり夫婦…
夫婦で仲良くレストランを経営などはざらにある話だが、俺にはあり得ない話…
「あなた、用意できました。」すぐ近くで、女の声がした。
定食だから、提供が早いのかもしれない…
ほどなくして、四角の大きな盆を抱えた白く華奢な手がまず目の端に映り…俺は女の顔を見る…。
「… … … 」
思わずぎくりとして、言葉を失った。
少し垂れ目ではあるが…色気のある目元…睫毛の影が肌に映るほどに、長い…
小さな、桃色の唇…
細く、頼りなげな白い腕が、そんな重そうな盆を持って大丈夫かと、見ていてなんとなく不安になるほどだ…
全体に華奢な身体つき…
顔は伏せているものの、一目で美人だとわかった。
「お客さん、お待たせしました~!」店主が女から盆を受け取り、俺の前に置く…。
「…ああ、ありがとう、ございます… 」現実に、引き戻される…。
女は、ぺこりとこちらに無言で頭を下げて、奥に引っ込んでいく…。
肩幅が狭い… 白いうなじの後れ毛がなんとも、艶めかしい…。
妻とは… 少なくとも、今の妻とはまるで違う…
全身から、色香が漂っている女…
妻が、もしも…ああであれば、
あるいは俺も… 男として、機能するのかもしれない…
俺はその女が消えて行った残像を追うかのように奥を見つめつつ、ハッとする…。
初対面の女に、何を想像をしている…?
無意識ではあったが、不躾に見つめ過ぎたかもしれない…
「いただきます…」
俺は反省の気持ちで自分自身を戒めつつ、箸を手にした。
0
お気に入りに追加
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる