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〜二人〜

抗えない感情

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杉崎さんが私の手を握ったまま…
       無言で、私を見つめてくる。

欲しい…

     抱きたいと…

間違いなく、そう言われた…。

そんなことは、ダメに決まっている…
私自身は拓海と…
杉崎さんは林さんと…きちんと別れてから…

それが、人との付き合い、ケジメであり、筋である…頭ではわかってる…本当に。

そうすべきだ、そうでなければならない。

人はいついかなる時でも正しく、他人を傷つけないように、自分が非難されないように、真っ直ぐに生きなければならない…。

実際今までそうやって…私は、生きてきた…。

人を傷付けたいとも思わないし、今まで傷付けた自覚すら、ないのだから…。


だけど…

   だけど、本当にそうだろうか…。

どんなに正しい人間でも…
その、長い一生の間に、人を傷つけたことがない人間など、この世に存在するのだろうか…。

何気ない一言や、からかいの言葉が気付かぬうちに誰かの心を傷付けていたり…

自分が良かれと思って起こした行動が、実のところ、相手に、違う意味で、受け取られるかもしれない。

私はきっと…
自分が正しいと思いこんで生きてきただけで、今までにたくさん…人を傷つけているに違いない。

でも…今は違う…無自覚じゃない…
ちっとも正しくない…。
私は、完全に人として間違っている…のに、自らの意志で、完全に…ダメな女になろうとしている。

拓海に自分の気持ちを伝えないまま、
 杉崎さんと…次の段階へ進もうとしている…
  林さんにだってもう…合わせる顔がない。

知られれば、
拓海と林さんを失望させ…
     間違いなく、傷付けるだろう…



それでも…

    そうだとしても…

私は今この瞬間、 
杉崎さんと一緒にいたいと…
彼の身体に…熱い肌に、今すぐ触れたいと思っている。

触れたいし、触れられたい…
 キスしたいし、力強く…抱きしめられたい…

杉崎さんの身体を見たいし、
 彼の欲望全てを…この身体で、感じたい…。

もう…理性なんて、無いに等しい…

        欲望に、抗えない…


「…水無月さん…今…頷いた…?
 俺の言ったこと…言っている意味…
        本当に、…わかってる…?」

                        杉崎さんの握る手に…力が込もる。

「…はい…意味…は、わかっています…」

                       私はそう言って、隣に立つ杉崎さんを見上げる。

        目が合う。

杉崎さんの瞳の奥が、まるで動揺しているかのようにゆらりと揺れている…。

「…私も…同じ気持ちです…杉崎さん… …」

言葉を発した途端、さらに手を強く握り込まれ、息が止まりそうになる。

「…そろそろ、行こうか…」 
    杉崎さんの、少し上擦った声…

私はコクリとうなずき、
   手をぎこちなく繋がれたまま…
      
    無言で彼の少し後ろに続いた…



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