【完結 R18】ほかに相手がいるのに

～見えない境界～

独り言

私はハンドバッグを持って、部屋のカギを閉め、すぐさま旅館を後にした。

杉崎さんと下見に来た際に、少しだけ歩いたいくつかの連なる土産店を見て回ることにした。
レトロなステンドグラスが飾ってあるお洒落な喫茶店もあったことを思い出し、そこを最終目的地として、記憶を頼りに散策を始めた。

私にはこんな時に、一緒に連れ立っていくような同僚がいない。課内には同世代の女性はいないし、この引っ込み思案な性格のせいで、なかなか職場仲間としての垣根を越えてまでは、仲良くなれていないのだ…。

まあ、もともと一人には慣れているし、誰かに気を遣わずに、自分だけで行きたいお店にも行ける。

私は気の向くままに、自由に土産店を見て回った。

ふと、木目調の外観の雑貨屋が、目に入る。

ここは確か、杉崎さんと歩いた際に私が気になっていたお店だ…
あの時は店内の人が多過ぎて、杉崎さんに寄りたいと言い出せなかったが、興味をそそる好みの外観だったため、今回私はそこに足を踏み入れた。

店内には、レトロな面白系キーホルダーや、ガラスでできたアクセサリー…様々な装飾品や雑貨が整然と並んでいた。

アクセサリーを眺める恋人同士や、面白おかしく話しながらキーホルダーを眺める学生たち…店内はやっぱり少しごった返していたけど、私は飾ってある、一つのアクセサリーに釘付けになった。

キラキラと光るジルコニアのネックレス…一粒でシンプル…派手過ぎず…光具合によって様々に色が変わる…。

「綺麗…」思わずつぶやいて、手に取ってみる…くさり部分はとても細くて繊細な造りで、触れるとシャランと…小さな音がした。近くに鏡があったので、ネックレスを首に当てる様にして自分自身を映してみる…

「うん…いいかも…」やはり、独り言が思わず出てしまう…
ひとり暮らしをしているせいか、独り言が最近多いという自覚もあって、気を付けなければと思っているところだった。

「うん、いいかも…いいね…とてもよく、似合ってる…。」

声に驚き、ハッと顔を上げて顔を確認するより前に、目の前の鏡の、私の隣に映った人物…

「あっ…！」
私は思わず、首に当てていたネックレスを取り落としそうになった…。

そこに映ったのは…
　優雅に微笑む、杉崎さんだった…。