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~杉崎~

脱出

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俺が、水無月さんの方に向かって声を掛けた瞬間、
細野さんが、大袈裟なくらいにビクと、身体を震わせたのがわかった。

よほど、驚いたのだろう…。

彼女は、少し顔を引きつらせながらもなんとか笑みを浮かべ、その場しのぎの会話を始めた。

つい、さきほどまで…
俺が声を掛けるまで… 
あれほどにひどい言葉を水無月さんに投げつけていた細野さんが…
平然と、俺に向かっていつものようにニコニコと微笑みながら話してくる姿に、

正直なところ、引いてしまった…。

男の前での姿と… 
     女同士の時の姿… 

普段からそれらを使い分けているのかと疑ってしまうほどに、
彼女は俺の認識と、あまりにも違う面を彼女に…そして、俺に見せた。

「… 水無月さん、行こうか… 」

本当は途中から話を聞いていたものの、後々の影響などを考えればやはり、なぜ、そんな酷い言い方をするのだと細野さんを糾弾する意味を見出せず…

そして正直に言うと、俺自身が…智花を裏切っている事実を彼女に向かって堂々と言えないからこそ、
俺はせめてもの手段として、その場から彼女を連れ出すことにした…。

細野さんが、目を皿のようにして、
俺たち二人の動向を見ていることはわかっていながらも…
彼女の華奢な肩にそっと触れると、彼女はほんの少し、身体を震わせた。

彼女は、あのように過激な言葉を浴びせられて…どれほどにショックを受けているだろう。

とにかく今すぐに彼女の話を聞いて、
彼女の中にあるストレスや不安を、少しでも取り除きたい…
まだ、始業のチャイムまで、ほんの少しだが時間が残っている。

なるべく時間を空けずに、彼女の話を聞くべきだ。
そう思った俺は、普段使われることのないあの部屋を思いついた。

週末、なかなか返事をよこさない智花に再び連絡をし、福岡へ行く予定日が決まったところだ。  
そのことも彼女に伝えよう…。

それさえ、済めば… 
智花と、きちんと話がつきさえすれば…
そして、あの男が、彼女をどうにかして諦めてくれさえすれば…

やっと、堂々と…周りに後ろ指を刺されることなく、彼女と一緒にいられる…

俺は微かな希望を胸に抱きつつ、
    心無い言葉で傷付いたであろう彼女を、あの部屋に促した。


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