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~杉崎~

制御

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「はあっ… … 」

俺は… 一人になって、やっと、ゆっくりと息を吐く…。

彼女はたった今…

マンションのドアの中に、そそくさと消えてしまった。

いきなり… 馬鹿な男に、部屋に上げてくれないかと言われたのだ…。

さぞ、彼女を驚かせたに違いないし、我ながら、なんと身勝手な提案なのだ…。

今…こんな風に冷たい夜風にさらされ、一人冷静になって考えれば、
俺はいきなり、そして図々しくも何を言っているんだと自分を戒めることが出来るのに…

あの瞬間は、とても無理だった… 

気付けば、普段俺がおよそ言うこともない、おかしなことを口にしていた。

何が、珈琲を一杯飲ませて欲しい…だ…
  
そんなものは、近くにあるカフェに二次会がてら入ろうと、ただ…提案すれば良かっただけの話、なのに…人の良い彼女は断ることをしなかった…。

「 … … … 」

朝は細野さんに邪魔をされたものの、夕方になって…やっと彼女が残業で一人になった瞬間をつかまえ、
食事に誘った…。

出張から帰った後の、彼女のよそよそしさがあまりに気になって…

俺と…あんなことをした後だから、気恥ずかしさなどの感情か…などと無理矢理に思い込もうとしたが、
やはり完全に…物理的に、彼女が俺を避けているように…見えてしまっていた…

俺の、嫌な想像…

俺の一番嫌な想像は、あの男の存在だった…。

だからこそ…
自分でも今振り返って思うくらいだが、みっともないくらいに…彼女に質問をした…。

その時の彼女の動揺が…その表情から見て取れた。

きっと、本当は俺に話したくないことも…俺が無理矢理に言わせてしまった形だろう…

だけど… もはや… 気になって… 
気になり過ぎて… 
あのまま、気になることをなんら聞かずに、店を後にすることが、出来なかった…

「はあ… … 」

どうしても、ため息が出る…。

知らなかった…
自分自身がこんな男だったとは、これまで一度も自覚したことがなかった。
信じられないくらいに、小さい…小さ過ぎる…

これではもはや、あの拓海という男とさほど変わらない。

彼女の話では…

彼女は男に別れを告げたが、納得は得られなかったような話をしていた。
つまり、二人は綺麗に別れることが出来ていない状況…

そして、俺自身も智花との話はついていない。

この状況下で… 
俺は何ひとつ、彼女に対しても、拓海に対しても
強気に出ることはできないというのに…

この… 
何か、どうしても、苛立ってしまうような負の感情… 

原因はわかっている…。

彼女の発言

拓海を、彼女の家に泊めたという…あの一言。

彼女のあの発言を聞いた瞬間から、どうにも感情のコントロールが効かない…

 そもそも、本当にそれだけ…だろうか … 

少なくとも…別れ話に不満を漏らしている男を家に泊め…そのまま、本当に…何事もなく済んだのか…  

あの男が…あの、子供じみた男が…
おとなしく、彼女の隣に静かに眠って、一夜明けたとでも… … 

「… … …」

気になる…  
男が、彼女の部屋に泊まった後の展開を… 
嫌な想像を、どうしても、してしまいそうになる…。

ああ…  
今、彼女の恋人でもない俺が…こんなことを気にすること自体… おかしいことなのに…

こんな感情は、知らない…

   これは、…嫉妬…  …  なのか… …

今まで感じたことがない感情。
自分自身が、自分の中の醜い感情に飲み込まれ、油断すれば…彼女に酷いことをしてしまいそうで、自分で自分が怖い…
だが…なんとか、抑えなければ…

俺は不安定な感情をなんとか落ち着けながら、夜空を見上げる。

ドアが開けば、笑顔を見せよう…彼女を不安がらせたくはない…
おとなしく、まずは珈琲を飲んで、冷静に彼女と話をしよう…  

  俺は静かに、再びドアを見つめた…。





















































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