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~帰路~

回想

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「… … …」

店を出てから途端に、続けて…拓海に何を話せば良いのかわからなくなった。

ひたすら無言で…拓海の背中を追いかける…。

ゴロゴロゴロゴロ…

夜の歩道に、キャリーケースの車輪の音がやけに響き渡るが、静寂よりはましだ…。
ふと、前を行く拓海の方を見やる…。

久しぶりにまともに見る、大きくて広い背中…
肩幅が広くて、誰が見ても男らしい…逞しい身体つきの拓海…。

好きだった…
確かに私は、拓海が…この人が好きだ…

好きだった…。

高校の教室で、からかわれた直後に…いきなり、真剣な目で…私の目を見つめてきて告白された時から…
どんどん、この人を好きになっていった…。

それまで異性と付き合ったことがなかった私は、そんな風に突然、男子に告白されることすら初めてで…
もう、…その後ははっきり言って、完全に舞い上がった…。

初めてのデートは…水族館。
そこで初めて、拓海と静かに手を繋いだ…
何度目か…
何度目かのデートの帰りに、暗くて誰もいない公園のベンチで、初めて、キスをされて…

ゆっくり…だった…

本当にゆっくり、拓海との交際を育んでいった…。
私も拓海も、初めての彼氏、彼女で…
何もかもが手探りだった… 

キスも…その先の、男女の行為も…

今になって思えば…
拓海はものすごく…多分人よりは…他の…一般的な男性よりはきっと随分、そういうことをすることを待ってくれていたんだと、思う…。

初めての体験に泣きそうになりながら戸惑う私の顔を覗き込んで、優しく笑って…
私の頭を、時折優しく撫でながら…
私の中に、ゆっくり入って来た…眉間に、深いしわを刻みながら…

ああ…

なんで今になって…こんなことを…
そんな、初期のことを…思い出してしまうのかわからない…

優しい拓海の姿を今、思い出してどうなる…

もういっそ、嫌いになれたらいいのに…
拓海が悪い人間で…本当に酷い人間だと…悪口を言って、罵りながら…別れを告げられたらいいのに…

私の思考は、その時…そこまで、落ちていた…
どこまでも、狡い思考だ… 
相手が悪いことをしているから、自分も悪いことをしていいと、自分を納得させたいかのような本当に自己中でエゴな考え方だ…。  

「… 拓海 …」

でも、私が発信した…発信してしまった…このまま黙っていては駄目だ…。

私はたまらずに、少し大きな声で、拓海を呼び止めた…。





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