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~帰路~
追及
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「… 理由は… 」私は小さく、声を発する。
「ああ… 理由… 話せよ…」
拓海の声がさきほどより一層、低くなる…。
不機嫌な時の声だ…
やはり、お腹が満たされようが、そうでなかろうが、
突然、このような話をされれば、不機嫌になるのは当然かもしれない…
この後の、拓海の反応が怖い…
やはり、こんな状況で突発的に言うべきではなかったのかもしれない…
そう…頭の中で繰り返し思ったが、もう、別れの言葉を口にした以上、なかったことにはできない…
後戻りはできない…。
私は拓海の様子を目の当たりにして、ともすれば萎えそうになる気持ちを再び奮い起こし、話し始める。
「…今、遠距離… 遠距離恋愛…だし…なかなか、気軽には会えないし…」
「…遠距離… 会えない…? そんなこと… そんなことが、理由……?」
「… … … 」
違う…
拓海に、そんな風に確認されて…
そして、自分で口にしてみて、やっぱり、わかる…
拓海との遠距離恋愛は、今回の別れを決意した理由には、ならない…。
会えないという理由も、今の私には全くと言っていいほど、あてはまらない…。
そうだと、自分の中で完全にわかっているのに…
咄嗟に、そんなことを口にした自分を、浅はかに感じた…。
「… 大体さ…おまえって、…もともと…そんな、だったっけ…?…」
拓海がこれから言おうとしていることが、なんとなくだが、わかる気がした…。
「… … …」
「遠距離がどうとか、そんなさ…寂しがり屋な、性格だったっけ…?」
「… … …」
拓海の言う通りだ…
拓海と離れていても……本当はちっとも、寂しくなんてなかった…
「おまえ、口を開けば飛行機が苦手って言って全然… 俺んとこ、来ねえし… てか、一回しか来てないし…」
「… … …」
その通りだ…
「いっつもこっちに…東京に来るのってさ、俺ばっかだったじゃん…俺が時々こっちに来るからなんとか、遠距離…遠距離恋愛、続けられてたんじゃねえの…?」
「… … …」
もっともだ…。
私はこれまで…拓海との距離を…東京と福岡の距離を…遠いと…寂しいなどと、感じたことがない…。
飛行機が苦手なのは本当だが、今、思えば…
拓海に心から会いたいと思えば…空路以外の手段で…陸路で福岡へ行くこともできたはずだ…
だけど私は…そう、しなかった…。
「なあ…葉月…さっきから何…考えてる…?黙ってないでさ…なんか言えよ…俺の言ってること、なんか間違ってる…?そもそもこれまでが…俺だけの一方的な思い…一方通行だったってこと…なのかよ…。」
「… … … 」
何も、言えない…。
拓海は間違ってなんかいない…。
駄目だ…
拓海が言っていることがあまりに正し過ぎて…あまりに正論過ぎて…言葉が見つからない…。
酷いのは私だ…
自分の拓海に対する感情が薄く見えてしまうのか…他人にドライだねと、笑って指摘されながらも…
これまでずっと、その気持ちがなんなのか深く追求せずに…拓海の優しさに…流されて、甘えて来ただけだ…
信じて疑わなかった…。
なに一つ、返す言葉が見つからない…。
「… おまえさ… なんでそんな、だんまりなわけ… ?」
「…拓海…ごめん…本当は理由なんて、ない…嫌いになったわけでも…本当に、ない…」
… …ただ、…他の人を…杉崎さんを好きになっただけ…それがすべてだ…。
「… はあ… 意味、わかんねえし… 理由もない…だけど、もう無理…別れてくれ…? 」
「… … うん… ごめん… 」
「…はあ… マジ、意味不明… 話に…なんねえな… ああ…なんか俺、猛烈に喉…乾いた… 」
拓海が掠れた声でそう言って、おもむろに珈琲を飲み干す…続けてお水も一気に、喉に流し込む…。
「… ごめん、拓海…だから私と…もう…別れ…」
「…あ… もう、こんな時間だ…とりあえず、店、出よう…葉月」拓海がレシートを手にして、突然立ち上がる。
「… まだ、話… 終わってない… 拓海、聞いて…」
ここで、終わらせたい…。
私はその一心で、拓海を見上げる。
「わかってる…俺だって全然、話せてない…でも、ここじゃ…取りあえず一旦、外…出よう… 」
拓海は私の言葉をさらりと流して、足早にレジへ向かう。
「… う、ん… 」
私は慌ててキャリーケースを手にして、拓海の後を追った。
「ああ… 理由… 話せよ…」
拓海の声がさきほどより一層、低くなる…。
不機嫌な時の声だ…
やはり、お腹が満たされようが、そうでなかろうが、
突然、このような話をされれば、不機嫌になるのは当然かもしれない…
この後の、拓海の反応が怖い…
やはり、こんな状況で突発的に言うべきではなかったのかもしれない…
そう…頭の中で繰り返し思ったが、もう、別れの言葉を口にした以上、なかったことにはできない…
後戻りはできない…。
私は拓海の様子を目の当たりにして、ともすれば萎えそうになる気持ちを再び奮い起こし、話し始める。
「…今、遠距離… 遠距離恋愛…だし…なかなか、気軽には会えないし…」
「…遠距離… 会えない…? そんなこと… そんなことが、理由……?」
「… … … 」
違う…
拓海に、そんな風に確認されて…
そして、自分で口にしてみて、やっぱり、わかる…
拓海との遠距離恋愛は、今回の別れを決意した理由には、ならない…。
会えないという理由も、今の私には全くと言っていいほど、あてはまらない…。
そうだと、自分の中で完全にわかっているのに…
咄嗟に、そんなことを口にした自分を、浅はかに感じた…。
「… 大体さ…おまえって、…もともと…そんな、だったっけ…?…」
拓海がこれから言おうとしていることが、なんとなくだが、わかる気がした…。
「… … …」
「遠距離がどうとか、そんなさ…寂しがり屋な、性格だったっけ…?」
「… … …」
拓海の言う通りだ…
拓海と離れていても……本当はちっとも、寂しくなんてなかった…
「おまえ、口を開けば飛行機が苦手って言って全然… 俺んとこ、来ねえし… てか、一回しか来てないし…」
「… … …」
その通りだ…
「いっつもこっちに…東京に来るのってさ、俺ばっかだったじゃん…俺が時々こっちに来るからなんとか、遠距離…遠距離恋愛、続けられてたんじゃねえの…?」
「… … …」
もっともだ…。
私はこれまで…拓海との距離を…東京と福岡の距離を…遠いと…寂しいなどと、感じたことがない…。
飛行機が苦手なのは本当だが、今、思えば…
拓海に心から会いたいと思えば…空路以外の手段で…陸路で福岡へ行くこともできたはずだ…
だけど私は…そう、しなかった…。
「なあ…葉月…さっきから何…考えてる…?黙ってないでさ…なんか言えよ…俺の言ってること、なんか間違ってる…?そもそもこれまでが…俺だけの一方的な思い…一方通行だったってこと…なのかよ…。」
「… … … 」
何も、言えない…。
拓海は間違ってなんかいない…。
駄目だ…
拓海が言っていることがあまりに正し過ぎて…あまりに正論過ぎて…言葉が見つからない…。
酷いのは私だ…
自分の拓海に対する感情が薄く見えてしまうのか…他人にドライだねと、笑って指摘されながらも…
これまでずっと、その気持ちがなんなのか深く追求せずに…拓海の優しさに…流されて、甘えて来ただけだ…
信じて疑わなかった…。
なに一つ、返す言葉が見つからない…。
「… おまえさ… なんでそんな、だんまりなわけ… ?」
「…拓海…ごめん…本当は理由なんて、ない…嫌いになったわけでも…本当に、ない…」
… …ただ、…他の人を…杉崎さんを好きになっただけ…それがすべてだ…。
「… はあ… 意味、わかんねえし… 理由もない…だけど、もう無理…別れてくれ…? 」
「… … うん… ごめん… 」
「…はあ… マジ、意味不明… 話に…なんねえな… ああ…なんか俺、猛烈に喉…乾いた… 」
拓海が掠れた声でそう言って、おもむろに珈琲を飲み干す…続けてお水も一気に、喉に流し込む…。
「… ごめん、拓海…だから私と…もう…別れ…」
「…あ… もう、こんな時間だ…とりあえず、店、出よう…葉月」拓海がレシートを手にして、突然立ち上がる。
「… まだ、話… 終わってない… 拓海、聞いて…」
ここで、終わらせたい…。
私はその一心で、拓海を見上げる。
「わかってる…俺だって全然、話せてない…でも、ここじゃ…取りあえず一旦、外…出よう… 」
拓海は私の言葉をさらりと流して、足早にレジへ向かう。
「… う、ん… 」
私は慌ててキャリーケースを手にして、拓海の後を追った。
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