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~彼氏~
対面
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「あ、…多分、俺のだ… 水無月さんのも…かな」
「…あ… はい、私の…」
私の手を包み込んでいた杉崎さんの手が、そっと、私から離れた。
分かりやすいように、持ち手にスカーフを巻いていた私の薄紫色のキャリーケースが確かにコンベアーの入口あたりに見えた。
すぐに、杉崎さんが歩み寄る。
「はい、どうぞ」
杉崎さんが自分の荷物の後に、私の荷物を抱えて、私に渡してくれた。
「ありがとうございます…」
荷物は受け取った。
出張も、無事に終了した。
あとは、家に帰るだけだ…。
これで…私と杉崎さんが一緒に居られる正当な理由はもはや、なくなった。
もう、行かなきゃならない…拓海が待っている場所へ。
私は意を決して、口を開く。
「… あの、杉崎さん… 多分、そこまで彼が…迎えに来ているので、もう、ここで…」
「え… … ?」少し、驚いた表情を見せる杉崎さんに、私自身、動揺する。
「…いえ、その…杉崎さんに気を遣わせちゃうかもしれないので…ここで、別れてた方がいいかもって…」
これは… 半分本心で、半分は…本当は、違った…。
杉崎さんに気を遣わせたくないというのは、半分、建前で…
本心は、ただただ、拓海と杉崎さんを…この二人を、会わせたくなかった…
確信はない…
でも、もしかしたら…拓海は、私の気持ちに既に気付いているかもしれない…。
私と杉崎さんの間に何かあるのではと…なんらかの、疑いを持っているかもしれない…。
こんな時の拓海は、絶対に、子供だ…
二人揃って対面した場合に、杉崎さんに対して、面と向かって何を言い出すかわからない…
ひょっとしたら、とても失礼なことを口にするかもしれないと、私の不安は時間とともに増してきていた。
だけど、杉崎さんの回答は、私の希望するものではなかった。
「…いや…水無月さん…むしろ、おかしくないかな…俺が言うのもなんだけど、一緒に出張に行った二人が、手荷物受け取った途端、出口前でバラバラに行動するって…彼には俺も、前に何度か会ってはいるんだし、少なくとも、彼に挨拶くらいはしておかないとね…あ…でも、水無月さんさえ良かったら、だけど、ね…」
「… そう、ですね… すみません… 」
杉崎さんの言うことは至極、もっともだ…。
大人な対応…
今にでも逃げ出したいと思っている子供思考の私とは全く違うことに、心から恥ずかしくなった。
数歩、歩いて立ち止まった杉崎さんは、私をゆっくりと振り返り、再び口を開いた。
「ただ…この後、彼と何かあったら…いや…違うな…彼に、何か…されたら…きちんと、包み隠さず俺に話して欲しい…言いたいことは、それだけだよ…」
「… はい …そう、します…」
何か、あったら…?
拓海に、何かされたら… ?
それはひょっとして、仮に、私がこの後、拓海を怒らせた場合の話をしているのだろうかと漠然と想像しながら、私は静かに頷き、ゲートを出た…
瞬間…
「葉月っ…!!」 大きな声で、いきなり名前を呼ばれた。
「… …拓海 … 」
やっぱり、いた…
拓海が…ゲートを出て、一番に見える喫茶店の柱の前に、腕を組んで、立っていた…。
その表情が、あまりにも…笑顔なことに…
私は余計に、底知れぬ寒気を覚えた…。
「…あ… はい、私の…」
私の手を包み込んでいた杉崎さんの手が、そっと、私から離れた。
分かりやすいように、持ち手にスカーフを巻いていた私の薄紫色のキャリーケースが確かにコンベアーの入口あたりに見えた。
すぐに、杉崎さんが歩み寄る。
「はい、どうぞ」
杉崎さんが自分の荷物の後に、私の荷物を抱えて、私に渡してくれた。
「ありがとうございます…」
荷物は受け取った。
出張も、無事に終了した。
あとは、家に帰るだけだ…。
これで…私と杉崎さんが一緒に居られる正当な理由はもはや、なくなった。
もう、行かなきゃならない…拓海が待っている場所へ。
私は意を決して、口を開く。
「… あの、杉崎さん… 多分、そこまで彼が…迎えに来ているので、もう、ここで…」
「え… … ?」少し、驚いた表情を見せる杉崎さんに、私自身、動揺する。
「…いえ、その…杉崎さんに気を遣わせちゃうかもしれないので…ここで、別れてた方がいいかもって…」
これは… 半分本心で、半分は…本当は、違った…。
杉崎さんに気を遣わせたくないというのは、半分、建前で…
本心は、ただただ、拓海と杉崎さんを…この二人を、会わせたくなかった…
確信はない…
でも、もしかしたら…拓海は、私の気持ちに既に気付いているかもしれない…。
私と杉崎さんの間に何かあるのではと…なんらかの、疑いを持っているかもしれない…。
こんな時の拓海は、絶対に、子供だ…
二人揃って対面した場合に、杉崎さんに対して、面と向かって何を言い出すかわからない…
ひょっとしたら、とても失礼なことを口にするかもしれないと、私の不安は時間とともに増してきていた。
だけど、杉崎さんの回答は、私の希望するものではなかった。
「…いや…水無月さん…むしろ、おかしくないかな…俺が言うのもなんだけど、一緒に出張に行った二人が、手荷物受け取った途端、出口前でバラバラに行動するって…彼には俺も、前に何度か会ってはいるんだし、少なくとも、彼に挨拶くらいはしておかないとね…あ…でも、水無月さんさえ良かったら、だけど、ね…」
「… そう、ですね… すみません… 」
杉崎さんの言うことは至極、もっともだ…。
大人な対応…
今にでも逃げ出したいと思っている子供思考の私とは全く違うことに、心から恥ずかしくなった。
数歩、歩いて立ち止まった杉崎さんは、私をゆっくりと振り返り、再び口を開いた。
「ただ…この後、彼と何かあったら…いや…違うな…彼に、何か…されたら…きちんと、包み隠さず俺に話して欲しい…言いたいことは、それだけだよ…」
「… はい …そう、します…」
何か、あったら…?
拓海に、何かされたら… ?
それはひょっとして、仮に、私がこの後、拓海を怒らせた場合の話をしているのだろうかと漠然と想像しながら、私は静かに頷き、ゲートを出た…
瞬間…
「葉月っ…!!」 大きな声で、いきなり名前を呼ばれた。
「… …拓海 … 」
やっぱり、いた…
拓海が…ゲートを出て、一番に見える喫茶店の柱の前に、腕を組んで、立っていた…。
その表情が、あまりにも…笑顔なことに…
私は余計に、底知れぬ寒気を覚えた…。
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