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妻
しおりを挟む俺はドアの前に立ち、
夫の仮面を冷静に、装着する。
「ただいま…」小さく声を掛ける。
妻がリビングのソファーに寝転んだ状態で、少しだけ俺の方を振り返る。
いつもの風景…
まるでトドのように…ごろんと横になっている俺の妻。
ナッツをつまみながら赤ワインを片手に、最近はまったと言っていた韓国のイケメン俳優が出ている連続ドラマを見ている。
キッチンは洗い物とゴミがごちゃごちゃと置かれている…後ですぐやらねば…
帰宅早々、溜息が出そうになるのをなんとかこらえる…。
「おかえりなさい、今日も遅かったのね… 残業?」
「いや、今日は軽い接待だったよ…でも結構、飲まされちゃったな…」
「そう… 付き合いも大変ね…お風呂、まだ温かいから入ってね。ふふふ…」
笑ってドラマを観ながら、さして興味もないのだろう…
素っ気ない声だけがこちらへ届けられる…
「ありがとう。そうする」
すぐに風呂場へ向かい、頭を冷やすかのようにシャワーを浴び始める。
身体を洗いながら…
彼女の白い肌…柔らかな胸…
彼女の…俺が鋭く奥を突き上げた時の…あんと身じろぐ少し高い声を、思い出す。
ああ やっぱりもう少しだけ…
もう少しどころか …
もういっそずっと…彼女と居たい…
この家には、安らぎがない
妻に一言、家事について注意しようものなら、その後は確実に数倍にして返される…
こちらが疲弊するまで言い返してくるから…もはや文句なんて言わずに、自分でやった方がマシなのだ…
俺は風呂から上がり、聞こえてもいないほどの小声で「おやすみ」と妻に声をかけ、静かに自室に向かった。
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