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小動物

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サラサラの黒髪に…生白い顔…、ん、え?
                 
さっきの泣き声って…、…男…??…

いまだ座ったまま、ハンカチを手にして…号泣中…
         
「うっ…んっ…くっ…」…あろうことか…まだ、嗚咽を漏らしている…

青白い頬に…とめどなく流れる涙…赤くなった目…

途端に、ズクンっ… と、俺の下半身が…震える。
…な…なんだこれ… 俺…どうしちゃったんだ…声の主は男だってわかったのに…

男相手に、俺…なんで興奮…しかけてんだ…

あまりに泣き過ぎて消耗したのか…ソイツがなかなか席を立たないので…気付けばシアターには俺とソイツ以外、誰もいなくなって、どうやら次の映画の準備のために、係の人がやってきたようだ。
普段は知らない人なんかに声をかけない俺だけど…俺はつい…おせっかいを。

少し震える声で、ソイツに声をかける。

「だ…大丈夫、ですか…そろそろココ、出ないといけない…みたいですよ?」

ソイツは俺の声にハッとして、俺を見上げる…
大きな目に…涙が浮かべたままの表情で…

やっと正面から顔を見ると…うさぎ…いや…捨てられた子犬…なんかすごく…可愛い… 

下から見上げられ…男相手なのに…俺の心臓は、バクバクとなった。

「あ…えっ、…すっ…すみません…今すぐ…!」

ソイツは膝に載せていた荷物をわしづかみにして、慌てて席を立つ。
俺にお辞儀をして、立ち去ろうとして…通路の段差につまづいて…転びかけ「あっ…!」と小さく叫ぶ。
        
…大丈夫なんか…この人…ちょっと、笑いそうになるけど、俺はなんとかこらえる。

「…っ…!あ…そうだ…眼鏡…っ…あ、れ…あれ…?」

わたわた眼鏡を探す姿に、なんだか、のび〇みたいだな…と思いつつ、座席を見ると、ドリンクホルダーに眼鏡が入っているのに気付く。
俺は「ありましたよ…」と声をかけ、すぐに眼鏡を手にして、ソイツの前に差し出す…つもりが…俺ってば…初対面の…しかも、男相手に…一体、何、やってんだろう…

フレーム部分をもって、両手でソイツの耳にかけてやって…
「どうぞ…気を付けて、帰ってください…」だって…

… 誰だ誰だ誰だ…おまえ…いつから紳士キャラ、になった…?

ソイツは涙目のまま、にこっと俺に笑いかけ、
「あ、有り難うございます…僕、メガネないと、全然見えなくって…」 
 
…今、コイツ、自分のこと…僕…って言ったか…? 僕…って響き、なんか…滅茶苦茶…可愛いんですけど…

んー……俺ってどっか、変になっちゃった…のかな…

     「あ…いえ、全然、では…」

そう、俺はなんとか冷静に言って、その日ソイツと別れた。

思い切って連絡先を…聞けばよかった…俺の後悔…は、そこだった。
いやいや、野郎相手に…何、考えてんだ…俺のその後悔を…俺の理性が、すぐに打ち消したのだけど…

結局俺はそいつを…ほどなくして捕獲…いや、発見することになる…。


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