1 / 9
1.神託
しおりを挟む「エクレール。君との婚約は破棄させて貰う」
ああ、ついに来たか。
聞きたくはなかったけれど、待ち望んでいたような、そんな気もする。
全身から力が抜けていく。もうどうでもいいか、とも思うが、これまでを思い返すとそれだけでは済まされない徒労感が溢れてくる。もう、とうに諦めていたけれど、悔しいと感じてしまうのが不思議だった。
これからを思うとどうにかなってしまいそう。思わずわたしは目を閉じ、これまでを思い返していた。
わたし、エクレール・サレバントーレは、侯爵家の長女として生まれた。
ミルクティー色の髪はちょっぴり珍しいけど、瞳はブラウンで、顔立ちは平凡。取り立てて特技があるわけでもなく、大勢に埋没してしまう程度の個性しか持ち合わせていない。両親はわたしを可愛がってくれたけど、それは普通のものだ。家門もそれなりの歴史はあるが特別な役目があるわけでもなく、政治的に力を持っているという事もない。
ごく普通の貴族令嬢、ごく普通の女の子。
そんなわたしの命運は、五つの誕生日に覆ってしまった。
『亜麻色の乙女が聖なる力で、この国に繁栄をもたらすでしょう』
女神様から神殿に神託が下ったのだ。
神託にある乙女の亜麻色、というのが、わたし以外に該当しなかった。それでわたしは神託の乙女だと断定されたのだ。
それからわたしの生活は一変した。生活の場を神殿に移され、そこで女神様へ祈りを捧げる毎日。神の信徒となったのだから、他の神官と同じ様に質素な装いで、食べる物も贅沢は禁止された。
それは別段気にならなかった。まだ貴族の生活というのが身に染みてなかったからかもしれない。ただ、礼儀作法も厳しくなって、覚えられないと鞭で打たれるのは辛かった。
そのうちに第一王子殿下との婚約を結ばされ、わたしは聖女と呼ばれるようになる。
聖女というのは聖なる力で奇跡を起こすのだそうだ。女神様の神託もあるし、わたしが繁栄をもたらすのは確実で、なら今からそう呼んでも問題ないだろうとそういう事らしい。
最低限の食べ物と最低限の衣類。それでも毎日お腹いっぱい食べられるのだから文句はない。どうして家族と会うのを制限されたのかは分からないけれど。それも修行の一環だったのかもしれない。
王子殿下と交友を深めるために、月に一度お城へ向かう。拙いながらも、学んだ通りの挨拶をするけど、殿下はあまり乗り気でない事が多かった。「もっと綺麗な格好をしてきたらどう?」と言われたけれど、わたしが着ているローブは神殿が用意しているものだ。文句なら神殿に言って欲しい。
それに、わたしにはドレスを用意する手立てなんかない。家族に手紙を出しても返事は来ないし、清貧を尊ぶ神殿はご覧の通りだ。
殿下は何も知らないのだろう。だからこんな事が言えるのだ。
それが悔しいような悲しいような気がして、その日わたしはろくに話をする事ができなかった。
そんなわたしに殿下は呆れて、二人の間には沈黙ばかりが広がる。そうなると段々と殿下に会うのが苦痛になっていった。
そうまでしたものの、何年経っても聖なる力は発現しない。わたしの努力する日々はそれからも続いた。
2
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆
ラララキヲ
ファンタジー
魔物の被害に疲れた国は異世界の少女に救いを求めた。
『聖女召喚』
そして世界で始めてその召喚は成功する。呼び出された少女を見て呼び出した者たちは……
そして呼び出された聖女は考える。彼女には彼女の求めるものがあったのだ……──
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り
怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」
そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って…
リリーアネの正体とは
過去に何があったのか
タイムロスがあった聖女はこの役目を下りたい
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。
【完結】止めろ婚約破棄!
瀬織董李
ファンタジー
ある日王太子が婚約破棄をしたいと言い出した。
うわ、こいつ破滅型だとは思ってたけど、本気で破滅する気だな。
王太子の側近視点で、出てくるのは王太子と側近一人だけです。
止めろといいつつ、側近は止める気ありません。タイトル詐欺(笑)
一話1500字程度。六話くらいの予定。
→……七話まで伸びました
【完結】俺の暗殺を企んでいる(と思しき)婚約者に婚約破棄を叩き付けたら、社会的に抹殺されたっ!?
月白ヤトヒコ
ファンタジー
学生時代の自由と恋愛を謳歌していたら、嫉妬をしているのか、婚約者が怪しい行動を取り始めた。
そして、婚約者から送り付けられた物を飲食すると体調がおかしくなることに気付いた。
きっと、婚約者は俺を暗殺しようと企んでいるに違いない。
俺はそんな婚約者を、断罪することに決めた。
設定はふわっと。
※2話目以降、会話や長セリフ多め。
※途中、ガッツリ下ネタ入りますが、エロはありません。
※人によってはギャグに見えるかもしれませんが、ブラックです。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる