恋文

関塚衣旅葉

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妄想 1

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 毎週金曜の放課後になると、彼は小説を読みながら過ごしていた。
彼には付き合ってる彼女がいる。
同じクラスの佐伯さん。
佐伯さんは誰が見てもかわいい女の子で、彼と付き合った時はなんだか納得してしまうくらい美男美女って感じだった。
とても仲の良いカップルなので邪魔するような人間はもちろん居ない。
でも、佐伯さんに思いを寄せる人も、彼に思いを寄せる人もいる。
私もその1人だ。
決して、二人の邪魔はしないけれど、思いはとても強くなっていく。
もう二年目になってしまったこの気持ち。
こっそり、金曜の放課後の彼の姿を見るのが私の楽しみだった。
声はかけないし、彼に名前を知られてるなんてことは無いだろう。

 そう思っていた、高二の秋のある金曜日。
学校の周りの道には銀杏が沢山落ちていて、とんでもなく臭いけど、イチョウの葉で出来た黄色の絨毯はとても綺麗だ。
そんな道をいつか、好きな人と歩きたいなんてふわふわした妄想をしているだけの私のはずなのに。
「荒木さん、ちょっとだけ今時間ある?」
なんと、彼から話しかけられたのだ。
名前も覚えられていたのか…。
静かに頷くと、人の少ない、南校舎へ向かう渡り廊下まで連れてこられた。
今日は金曜日だ、彼女さんを待ってる間に私は何を言われるのだろう、というか初めての会話なのになんでこんなにも冷静なの私。
冷静では無いな、脳みその中は沸騰寸前。
「ごめんね、教室で話せよって思ったよね。大したことじゃないんだけどさ、聞きたいことがあってね」
何を聞かれるのかな、ノート貸してとかだとしても、同じクラスにいる彼女から見して貰えるし…。
「 佐伯美琴さえきみこと がどこにいるか知ってたりするかい?」
別に疑ってるわけじゃないんだけどね、と彼は言った。
今日は確かに休みだったか、分からないけど見かけてない気がするなぁとは思った。
「いえ、私佐伯さんとはあんまり話したことないので分からないですね…」
「そうか…。ごめんね、ありがとう」
そう言って彼は早歩きで教室とは逆の方向へと走っていった。
次の日から三連休なので、私はルンルンで帰った。
初めて彼に名前を呼ばれた日だからね。
きっと明日から楽しいことがあるに違いない。


 また僕は、美琴を守れなかったのか…
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