短編集

Rentyth

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五、刹那

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「時間とは、一瞬一瞬を繋いで作られるものなのです。」

教室の前に立つ先生が声高に主張する。

「なのでっ、一瞬一瞬を大事にしましょうっ。」

正直、くだらないと思う。大体、一瞬ってなんだ。何分の一秒になったら一瞬なんだ。…まぁ、そんな子供じみた事、口に出したことはないけれど。

本日最後の授業も終わり、放課後を知らすチャイムが鳴り響く。
ほんの少し違和感があった。
なんだか、『ズレて』いるような、妙な違和感。首をひねりながらも帰り支度をする。教室を一歩出たとき、ガクンと躰が落ちた。

「…え…っ…」

廊下がない。

ヒュッと息を吸った頃には、ざわつく廊下に一人へたり込んだ自分。通り過ぎる生徒達が、好奇の目線を投げてくる。

「大丈夫か?」

名前の分からないクラスメイトの差し出す手を断り、大丈夫だと立ち上がる。まだ足には落ちる感覚がまざまざと刻みつけられていて、少しだけ膝が笑った。
上靴を履き直すフリをして、爪先で廊下の床を確認した。トン、トンと、何事もなかったかのように上靴を跳ね返してくる。
いや、しかし。確かにあの時、床はなくなったのだ。あの瞬間、確かに躰が落ちたのだ。

(…あ。)

嗚呼、そうか。腑に落ちた。きっと、あれが、『一瞬』だったのだろう。まるでフィルムが一枚抜け落ちたかのような、アレが、一瞬で、瞬刻で、須臾で、刹那だったのだろう。瞬きと呼ばれる時間なのだろうと。

まだ残るチャイムに先程の違和感はなく、ざわつく廊下はいつもと変わらない。ただ、これまでより少しだけ慎重に、家への一歩を踏み出した。
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