13 / 16
鉢被りと氷の城
しおりを挟む
「やってきました!こーおーりーのーしーろー」
温泉宿でまったりしつつ一週間。
温泉たまごを食べたりこの地方ならではの美食を味わったり、非常に有意義な時間であった。
お陰様で鉢のツヤも最高潮。
道行く人々に記念の握手を求められるほどに輝いている。
「おお!あのお嬢さんが噂の……見事な鉢だね!」
「あれが……温泉に浮かぶ謎の鉢って怪談になっている……」
「……夜の温泉で会った時は本当に怖かったわ」
なにやら人々がヒソヒソ話をしているが、恐らく私の美しさに感銘を受けているのだろう。
私は上機嫌で氷の城に繋がる橋へと足を踏み出した。
氷の城の雪が晴れるのは一週間。
一年のうち、その時だけ氷の城に渡ることができるのだ。氷の城のある小島にかかる橋はツルツルと滑るので、吹雪が吹いて見通しが効かなくなればすぐに氷の浮かぶ冷たい湖に真っ逆さまだろう。
私は恐る恐る橋を渡る。
氷の橋は恐ろしいほど透明で、ともすれば何もないようにすら見え、どうしても恐怖心が消えないのだ。
うう、氷の湖に落ちたくらいじゃ悪魔族王家の私は死にやしないだろうけど、怖いよー!
しかしルミーナのやつ……
「なーにをノタノタしてるんですか~姫さまー!ほーら、早く早く~」
橋の氷をスルスルーっと器用に滑って、ルミーナは行ったり来たりしていた。
なんだか靴の裏に、ナイフのようなものがくっついているが、なんなんだろう。
武器?
しかしそこそこいる氷の城見学の観光客の間をすり抜けながら滑っているので危険極まりない。
「ルミーナ!危ないから滑るのをやめなさい!」
「え?なんですか~?って、うわっ!」
ルミーナが方向転換をした時……彼女の靴の裏についていた、謎のナイフ状のものがポロリととれた。一本足になったルミーナは、バランスを崩しながらこちらに滑りよってきた。
「こら!だから言ったじゃ……きゃああああ!」
「と、止まらな……」
ドカーーーーーーーーッ
バシャーーーーーーーーーーン
嫌な予感は当たるもの。ぶつかってきたルミーナによって、私たちは氷の湖に投げ出されたのだった……
「フヘクショーーイ!」
ルミーナの特大のくしゃみによって、私は文字どおり飛び起きた。
キョロキョロと周囲を見回すと、そこは見たこともない部屋だった。
氷で出来た、小さな部屋。
私が寝ているこの寝台も、部屋の天井も床も……全てが氷で出来ていた。
壁や天井、寝台の支柱にまで、精緻な氷の結晶の模様が施され、透明度の高い氷のはめられた窓から差し込む陽の光にキラキラと輝いており、幻想的な光景がとても美しい。
そしてどことなく少女趣味な感じがする。
ベッドも子供用なのか、少し小さいし……少女趣味なんじゃなく、本当に子供の部屋なのかも。
私は青く光る氷の寝台をスーッと撫でるように手を這わせた。
不思議なことにあまり冷たくない。
その証拠に……部屋の真ん中に設えらた小さなティーテーブルには湯気の立つ紅茶が置かれていた。
「誰が……ルミーナ?」
そんな筈がない。
だってルミーナは、寝台の下の床の上でゴロリと眠っているのだから。
「うーん、むにゃむにゃ……もう食べられない」
倒れているのかと思いきや……服のお腹をはだけさせ、ぽりぽり掻いている。緊張感がないにも程があると思う。
ルミーナを蹴飛ばしながら、私はあたりを見まわし、窺うように呼びかけた。
「誰かいるの?」
誰もいないのか……何度呼びかけても返ってくるのは沈黙ばかり。
諦めかけたその時、囁きのような声が小さく響いた。
鈴を転がすような小さくて可憐な、子供の声だった。
『あ、あの……えっと、起きたのね……か、体は大丈夫?』
温泉宿でまったりしつつ一週間。
温泉たまごを食べたりこの地方ならではの美食を味わったり、非常に有意義な時間であった。
お陰様で鉢のツヤも最高潮。
道行く人々に記念の握手を求められるほどに輝いている。
「おお!あのお嬢さんが噂の……見事な鉢だね!」
「あれが……温泉に浮かぶ謎の鉢って怪談になっている……」
「……夜の温泉で会った時は本当に怖かったわ」
なにやら人々がヒソヒソ話をしているが、恐らく私の美しさに感銘を受けているのだろう。
私は上機嫌で氷の城に繋がる橋へと足を踏み出した。
氷の城の雪が晴れるのは一週間。
一年のうち、その時だけ氷の城に渡ることができるのだ。氷の城のある小島にかかる橋はツルツルと滑るので、吹雪が吹いて見通しが効かなくなればすぐに氷の浮かぶ冷たい湖に真っ逆さまだろう。
私は恐る恐る橋を渡る。
氷の橋は恐ろしいほど透明で、ともすれば何もないようにすら見え、どうしても恐怖心が消えないのだ。
うう、氷の湖に落ちたくらいじゃ悪魔族王家の私は死にやしないだろうけど、怖いよー!
しかしルミーナのやつ……
「なーにをノタノタしてるんですか~姫さまー!ほーら、早く早く~」
橋の氷をスルスルーっと器用に滑って、ルミーナは行ったり来たりしていた。
なんだか靴の裏に、ナイフのようなものがくっついているが、なんなんだろう。
武器?
しかしそこそこいる氷の城見学の観光客の間をすり抜けながら滑っているので危険極まりない。
「ルミーナ!危ないから滑るのをやめなさい!」
「え?なんですか~?って、うわっ!」
ルミーナが方向転換をした時……彼女の靴の裏についていた、謎のナイフ状のものがポロリととれた。一本足になったルミーナは、バランスを崩しながらこちらに滑りよってきた。
「こら!だから言ったじゃ……きゃああああ!」
「と、止まらな……」
ドカーーーーーーーーッ
バシャーーーーーーーーーーン
嫌な予感は当たるもの。ぶつかってきたルミーナによって、私たちは氷の湖に投げ出されたのだった……
「フヘクショーーイ!」
ルミーナの特大のくしゃみによって、私は文字どおり飛び起きた。
キョロキョロと周囲を見回すと、そこは見たこともない部屋だった。
氷で出来た、小さな部屋。
私が寝ているこの寝台も、部屋の天井も床も……全てが氷で出来ていた。
壁や天井、寝台の支柱にまで、精緻な氷の結晶の模様が施され、透明度の高い氷のはめられた窓から差し込む陽の光にキラキラと輝いており、幻想的な光景がとても美しい。
そしてどことなく少女趣味な感じがする。
ベッドも子供用なのか、少し小さいし……少女趣味なんじゃなく、本当に子供の部屋なのかも。
私は青く光る氷の寝台をスーッと撫でるように手を這わせた。
不思議なことにあまり冷たくない。
その証拠に……部屋の真ん中に設えらた小さなティーテーブルには湯気の立つ紅茶が置かれていた。
「誰が……ルミーナ?」
そんな筈がない。
だってルミーナは、寝台の下の床の上でゴロリと眠っているのだから。
「うーん、むにゃむにゃ……もう食べられない」
倒れているのかと思いきや……服のお腹をはだけさせ、ぽりぽり掻いている。緊張感がないにも程があると思う。
ルミーナを蹴飛ばしながら、私はあたりを見まわし、窺うように呼びかけた。
「誰かいるの?」
誰もいないのか……何度呼びかけても返ってくるのは沈黙ばかり。
諦めかけたその時、囁きのような声が小さく響いた。
鈴を転がすような小さくて可憐な、子供の声だった。
『あ、あの……えっと、起きたのね……か、体は大丈夫?』
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
想い合っている? そうですか、ではお幸せに
四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。
「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」
婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる