鉢かぶり姫の冒険

ぽんきち

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鉢被りと氷の城

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「やってきました!こーおーりーのーしーろー」

温泉宿でまったりしつつ一週間。
温泉たまごを食べたりこの地方ならではの美食を味わったり、非常に有意義な時間であった。
お陰様で鉢のツヤも最高潮。
道行く人々に記念の握手を求められるほどに輝いている。

「おお!あのお嬢さんが噂の……見事な鉢だね!」

「あれが……温泉に浮かぶ謎の鉢って怪談になっている……」

「……夜の温泉で会った時は本当に怖かったわ」

なにやら人々がヒソヒソ話をしているが、恐らく私の美しさに感銘を受けているのだろう。
私は上機嫌で氷の城に繋がる橋へと足を踏み出した。



氷の城の雪が晴れるのは一週間。
一年のうち、その時だけ氷の城に渡ることができるのだ。氷の城のある小島にかかる橋はツルツルと滑るので、吹雪が吹いて見通しが効かなくなればすぐに氷の浮かぶ冷たい湖に真っ逆さまだろう。

私は恐る恐る橋を渡る。
氷の橋は恐ろしいほど透明で、ともすれば何もないようにすら見え、どうしても恐怖心が消えないのだ。

うう、氷の湖に落ちたくらいじゃ悪魔族王家の私は死にやしないだろうけど、怖いよー!
しかしルミーナのやつ……

「なーにをノタノタしてるんですか~姫さまー!ほーら、早く早く~」

橋の氷をスルスルーっと器用に滑って、ルミーナは行ったり来たりしていた。
なんだか靴の裏に、ナイフのようなものがくっついているが、なんなんだろう。
武器?
しかしそこそこいる氷の城見学の観光客の間をすり抜けながら滑っているので危険極まりない。

「ルミーナ!危ないから滑るのをやめなさい!」

「え?なんですか~?って、うわっ!」

ルミーナが方向転換をした時……彼女の靴の裏についていた、謎のナイフ状のものがポロリととれた。一本足になったルミーナは、バランスを崩しながらこちらに滑りよってきた。

「こら!だから言ったじゃ……きゃああああ!」

「と、止まらな……」

ドカーーーーーーーーッ
バシャーーーーーーーーーーン

嫌な予感は当たるもの。ぶつかってきたルミーナによって、私たちは氷の湖に投げ出されたのだった……



「フヘクショーーイ!」

ルミーナの特大のくしゃみによって、私は文字どおり飛び起きた。
キョロキョロと周囲を見回すと、そこは見たこともない部屋だった。

氷で出来た、小さな部屋。
私が寝ているこの寝台も、部屋の天井も床も……全てが氷で出来ていた。
壁や天井、寝台の支柱にまで、精緻な氷の結晶の模様が施され、透明度の高い氷のはめられた窓から差し込む陽の光にキラキラと輝いており、幻想的な光景がとても美しい。
そしてどことなく少女趣味な感じがする。

ベッドも子供用なのか、少し小さいし……少女趣味なんじゃなく、本当に子供の部屋なのかも。

私は青く光る氷の寝台をスーッと撫でるように手を這わせた。
不思議なことにあまり冷たくない。
その証拠に……部屋の真ん中に設えらた小さなティーテーブルには湯気の立つ紅茶が置かれていた。

「誰が……ルミーナ?」

そんな筈がない。
だってルミーナは、寝台の下の床の上でゴロリと眠っているのだから。

「うーん、むにゃむにゃ……もう食べられない」

倒れているのかと思いきや……服のお腹をはだけさせ、ぽりぽり掻いている。緊張感がないにも程があると思う。
ルミーナを蹴飛ばしながら、私はあたりを見まわし、窺うように呼びかけた。

「誰かいるの?」

誰もいないのか……何度呼びかけても返ってくるのは沈黙ばかり。
諦めかけたその時、囁きのような声が小さく響いた。
鈴を転がすような小さくて可憐な、子供の声だった。

『あ、あの……えっと、起きたのね……か、体は大丈夫?』
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