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動き出した城
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街に着いた私達は、取り敢えず宿を確保して翌日イバラの城に向かうことにした。
今日はこの街の名物を食べてゆっくりしたい。長旅の疲れを癒して鉢も磨かないとね!
やっと王子様に会えるんだし!
私達は街の中ほどにある適当な宿屋にはいり、受付の女性に声をかけた。
「すみません、今夜の宿を取りたいんだけど……」
「ごめんよ、後にしとくれ!いま大変なんだ!」
「え?あ、ちょ……」
白髪の混じった黒髪の初老の女性は、こちらを見もせず止める間もなく走って宿の外に行ってしまった。
「なにかあったのかしら?」
「んんー言われてみれば、広場の方が騒がしいですね。ちょっと行ってみましょうか」
「え、そう?全然聞こえないけど、わかったわ。行きましょう」
「耳あか溜まってるんじゃないですか?きったなーい」
鼻をつまんで子供のように手を振るルミーナにイラッとして、思わず殴り飛ばした私は、悪くないと思う。
広場に近づくと、確かに騒ぎが起きているようだった。
人々が集まり、ガチャガチャと武器を運んだりしていてなんだか物々しい雰囲気だ。
その証拠に、珍妙な鉢が歩いていてもみんなビクッとするだけで特に声もかけてこない。
私は手近な街人を捕まえると、声を掛けた。
肩を叩いて呼び止めると、中年の男性は急いでいるのか、迷惑そうな顔をしながらも立ち止まってくれた。
「なんだ姉ちゃん……うお、ビックリした!ケッタイなもん被ってるな。都ではそれが流行してんのか?」
「流行ってないわ。私の中では産まれた時から大ブームだけど。それよりなにかあったの?なんだか物々しい雰囲気だけれど」
「流行ってないのか……なかなか良い鉢なのに勿体無い。いや、なんでか知らんが、イバラの城のイバラが突然暴れだしたらしいんだ。いきなり長く棘の蔓を伸ばし出して、この街に向かってきているらしい」
「イバラが?!呪いの産物だとしても植物でしょう?!そんなことあり得るの?!」
驚愕に目を見開く私に、男性は困ったように眉を下げながら答えた。
ちなみに目を見開いたところで誰にもわからないが、雰囲気で察してくれている模様だ。
「俺もそう思うが、実際にイバラがこっちにせまって来ているんだから仕方ねえ。城ごとなのかイバラ部分だけなのかはわからねえが……なにせこんな事はこの街が出来て以来初めてだ」
「街が出来て以来……」
確か、観光ガイドによればこの街はおよそ二百年前に出来たはずだ。
イバラの城はそれより前……一体いつからあるのかはよくわかっていない。
「そうさ、街が出来る前は、イバラが移動してたのかどうかもわからねえからな。まあとにかくそんな訳で俺もイバラ退治に行かなきゃならねえ。姉ちゃんは旅人だろう?とっとと逃げた方が身のためだぜ」
「おじさん……」
そう言うと、おじさんは歯をキラリと光らせ無駄に格好良く去って行った。
良いおじさんだった。頭がピンクのモヒカンじゃなければ惚れていたかもしれない。
私がおじさんの背中を見送っていると、それまで静かに後ろで待っていたルミーナの声が聞こえた。
「イバラが……チッあの野郎……」
「ルミーナ?」
訝しんで振り返ると、ルミーナはハッと何かに気づいたような表情でかぶりを振った。
そしてすぐにいつもの緊張感のない笑顔に戻ると、コテンと首をかしげる。
「姫様。この街は危険なようですね。早く城に帰りましょう」
「え?でも、イバラの城に……」
「こんな辺鄙な街に真実の愛はありませんよ。それより姫様を危険に晒すわけにはいきませんから」
強硬に帰還を主張するルミーナを疑問に思い、?拙まれた手を振りほどこうと私は抵抗した。
「いやよ!第一、わが国の民が危険に晒されようとしているのに、王族たる私が逃げるわけにはいかないわ!」
「姫!」
「……確かに私はそれほど強くない。けれど何か出来ることはあるはずよ」
「呪いのイバラは強力な呪力によって強化されています!普通の植物とは違うのです!ヤツの蔓のひと振りは、近づく者を全て吹き飛ばす程の威力があるのです!」
ルミーナは焦ったように言い募る。
しかし私にはその険しい表情よりも、引っかかることがあった。
「……ルミーナ。ヤツって誰?あんた、何を知っているの?」
「……っ!」
私の問い掛けに、ルミーナは顔を逸らして黙り込んでしまった。その様子にこれ以上聞いても答えるつもりはない、という意思を感じた私は、ため息をひとつつくとイバラの城のある方に向かって歩き出した。
「姫様!」
「ダメよ。どう言われても引くつもりはないわ。……それに……」
「それに?」
駆け寄ってきたルミーナの、揺れる瞳をしっかりと見据え、私はニッコリと微笑んだ。
「何があっても、ルミーナが守ってくれるわ。悪魔軍団最強の、悪魔中の悪魔だもの!」
「姫……はあ~あ……姫様にはかなわないですね……」
ルミーナは、諦めたように天を仰いで苦笑した。
今日はこの街の名物を食べてゆっくりしたい。長旅の疲れを癒して鉢も磨かないとね!
やっと王子様に会えるんだし!
私達は街の中ほどにある適当な宿屋にはいり、受付の女性に声をかけた。
「すみません、今夜の宿を取りたいんだけど……」
「ごめんよ、後にしとくれ!いま大変なんだ!」
「え?あ、ちょ……」
白髪の混じった黒髪の初老の女性は、こちらを見もせず止める間もなく走って宿の外に行ってしまった。
「なにかあったのかしら?」
「んんー言われてみれば、広場の方が騒がしいですね。ちょっと行ってみましょうか」
「え、そう?全然聞こえないけど、わかったわ。行きましょう」
「耳あか溜まってるんじゃないですか?きったなーい」
鼻をつまんで子供のように手を振るルミーナにイラッとして、思わず殴り飛ばした私は、悪くないと思う。
広場に近づくと、確かに騒ぎが起きているようだった。
人々が集まり、ガチャガチャと武器を運んだりしていてなんだか物々しい雰囲気だ。
その証拠に、珍妙な鉢が歩いていてもみんなビクッとするだけで特に声もかけてこない。
私は手近な街人を捕まえると、声を掛けた。
肩を叩いて呼び止めると、中年の男性は急いでいるのか、迷惑そうな顔をしながらも立ち止まってくれた。
「なんだ姉ちゃん……うお、ビックリした!ケッタイなもん被ってるな。都ではそれが流行してんのか?」
「流行ってないわ。私の中では産まれた時から大ブームだけど。それよりなにかあったの?なんだか物々しい雰囲気だけれど」
「流行ってないのか……なかなか良い鉢なのに勿体無い。いや、なんでか知らんが、イバラの城のイバラが突然暴れだしたらしいんだ。いきなり長く棘の蔓を伸ばし出して、この街に向かってきているらしい」
「イバラが?!呪いの産物だとしても植物でしょう?!そんなことあり得るの?!」
驚愕に目を見開く私に、男性は困ったように眉を下げながら答えた。
ちなみに目を見開いたところで誰にもわからないが、雰囲気で察してくれている模様だ。
「俺もそう思うが、実際にイバラがこっちにせまって来ているんだから仕方ねえ。城ごとなのかイバラ部分だけなのかはわからねえが……なにせこんな事はこの街が出来て以来初めてだ」
「街が出来て以来……」
確か、観光ガイドによればこの街はおよそ二百年前に出来たはずだ。
イバラの城はそれより前……一体いつからあるのかはよくわかっていない。
「そうさ、街が出来る前は、イバラが移動してたのかどうかもわからねえからな。まあとにかくそんな訳で俺もイバラ退治に行かなきゃならねえ。姉ちゃんは旅人だろう?とっとと逃げた方が身のためだぜ」
「おじさん……」
そう言うと、おじさんは歯をキラリと光らせ無駄に格好良く去って行った。
良いおじさんだった。頭がピンクのモヒカンじゃなければ惚れていたかもしれない。
私がおじさんの背中を見送っていると、それまで静かに後ろで待っていたルミーナの声が聞こえた。
「イバラが……チッあの野郎……」
「ルミーナ?」
訝しんで振り返ると、ルミーナはハッと何かに気づいたような表情でかぶりを振った。
そしてすぐにいつもの緊張感のない笑顔に戻ると、コテンと首をかしげる。
「姫様。この街は危険なようですね。早く城に帰りましょう」
「え?でも、イバラの城に……」
「こんな辺鄙な街に真実の愛はありませんよ。それより姫様を危険に晒すわけにはいきませんから」
強硬に帰還を主張するルミーナを疑問に思い、?拙まれた手を振りほどこうと私は抵抗した。
「いやよ!第一、わが国の民が危険に晒されようとしているのに、王族たる私が逃げるわけにはいかないわ!」
「姫!」
「……確かに私はそれほど強くない。けれど何か出来ることはあるはずよ」
「呪いのイバラは強力な呪力によって強化されています!普通の植物とは違うのです!ヤツの蔓のひと振りは、近づく者を全て吹き飛ばす程の威力があるのです!」
ルミーナは焦ったように言い募る。
しかし私にはその険しい表情よりも、引っかかることがあった。
「……ルミーナ。ヤツって誰?あんた、何を知っているの?」
「……っ!」
私の問い掛けに、ルミーナは顔を逸らして黙り込んでしまった。その様子にこれ以上聞いても答えるつもりはない、という意思を感じた私は、ため息をひとつつくとイバラの城のある方に向かって歩き出した。
「姫様!」
「ダメよ。どう言われても引くつもりはないわ。……それに……」
「それに?」
駆け寄ってきたルミーナの、揺れる瞳をしっかりと見据え、私はニッコリと微笑んだ。
「何があっても、ルミーナが守ってくれるわ。悪魔軍団最強の、悪魔中の悪魔だもの!」
「姫……はあ~あ……姫様にはかなわないですね……」
ルミーナは、諦めたように天を仰いで苦笑した。
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