鉢かぶり姫の冒険

ぽんきち

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鉢と侍女

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私の起きた気配を察したのか、侍女がノックをしたので入室を許可する。

「姫様、本日もご機嫌麗しゅう……」

「ハッ!ご機嫌なわけないでしょう!相も変わらず私の頭を占拠しているこの鉢で、肩は凝るし最悪よ。まあもはやこれが通常運転だから凝ってるかどうかなんてわからないけどね!」

「……ブッ……コホン、失礼致しました。お顔を洗われますか?」

「ちょっと、ルミーナ!あんたわかって言ってるでしょう!まあ、いいけど!タライを床に置いてくれる?」

「あはは、姫様、朝から面白~い!タライ置きますね~!」

侍女であるルミーナとは乳兄弟で、気の置けない仲だ。
そのためこの様な掛け合いは日常茶飯事で、私のこんな悪態にも慣れたものである。

私は服を脱いでからルミーナの置いてくれた大きなタライの真ん中に立つと、少し意識を集中した。

「ふおお……水よ、こい!」

私の掛け声とともに、鉢の中から何の脈絡もなく水が溢れ出し、頭から足先までバシャーンとずぶ濡れになった。

全く便利な鉢である。
本当は別に掛け声とかは必要ないのだが、そこはそれ。気分の問題だ。
お陰で湯浴みも一瞬だ。

そして驚きの自動乾燥機能付きで、髪も勝手に乾いてしまう。
さすがに服はなかなか乾かないんだけどね。鉢からちょっと離れてるからね。

「いやー、便利ですよね、その鉢。ちょっと羨ましいくらいです」

「そう。良かったらあげるわ」

「いや、結構です」

「チッ……」

まあ、例えルミーナが望んだとしても、あげることは出来ないのだけど。
あげられるならあげたいわ、こんなもん!


ルミーナの差し出した布で身体を拭いた後、私は朝食用のドレスに着替えた。
当然ながら被りの服ではない。
鉢が通らないので当たり前だ。

鉢頭のまま可愛らしいドレスに身を包んだ私は、更に滑稽になったが気にしない。

「では、食事の間に移動致しましょうかね」

「ええ。もう皆揃っている頃よね」

二人で連れ立って城の廊下を歩いていると、様々な者達とすれ違う。
獣の顔をした者や、頭にハート型の悪魔の耳がついている者、背中に羽根が生えている者と、本当に様々だ。

皆、私の顔……というか鉢を見ても驚かない。
もはや見慣れたものだからね。
自慢じゃないが十六年間、この邪魔くさい鉢を被って生きてきているのだ。


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