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黒幕のすゝめ

不毛な犯人探し

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 同士の力添えを得られなかったぼくは、渋々ながらも組体操の練習に精をだした。全身を覆っていた針のギプスも、体育祭が近付くにつれてすこしずつ和らいでいく。

 徐々に身体の自由をとり戻していきこそすれど、組体操の目玉になる九段ピラミッドだけは未だ成功の兆しをみせなかった。ぼくら生徒たちや、先生にも。ちらりほらりと焦りの色が見え隠れしはじめてくる。

 ピリピリとした空気が作られていく。

 ピラミッドの柱を担っているであろう、数少ない筋肉隆々な細マッチョたちからの視線もすこし痛くなってきた頃のことだ。

「ダメだあ」

 はて、それはいったい誰の声だったか。耳に届くのと時を同じくして、ピラミッドはゆるやかに傾いていきグニャリと歪む。上からの圧力にむぎゅうと挟み込まれた。

 本日二度目になる挑戦も虚しく、人間ピラミッドはあっけなく瓦解してしまった。突貫工事がすぎる。サクッと建てたものはサクッと崩れやすいのが世の道理なのだ。

 一夜城でも八十日はかけるというのに。

「いたい、いたい、いたい」

「早くどけって」

 どれが誰の声だったのかもわからない。それでもみんな揃って悪態をつかずにはいられなかった。度重なる失敗に、誰もが苛立ちを隠すことが難しくなってきている。

「誰だよ、先に崩れたのは」

「お前だろ?」

「俺じゃねえよ」

 あら、まあ。なんと不毛な犯人探しか。この程度の謎じゃあねとため息をついた。さすがのぼくであっても唆られやしない。きっとこのまま探偵も現れないだろうな。

 と、サンドイッチの具になりながら耳を澄ませていたら探偵は颯爽とやってきた。スッと庇うかのように手を横に伸ばす。

「止めろよ。佐野も悪気があってしたわけじゃなかっただろ。練習あるのみだって」

 和島くんだった。

 それは推理というより知っていたのかなと思う。彼はピラミッドの最上段に位置していた。崩れる様を上から見ていたのか、それとも声で知ったのか。あの時の声は、ぼくよりもひと回りは身体の小さい。ひょろりと細い佐野くんのものだったらしい。

「ごめん、ごめん」
 と佐野くんは謝るばかりだった。

 いやいや、と和島くんは首を振る。

「謝る必要なんてないよ。その為に練習してるんだからな。ほら、次は頑張ろうぜ」

 震えている華奢な肩をポンポンと叩き、
「次はいけるよな」
 と励まして、みんなをも促す。

 佐野くんへの文句がはたと止まった。これ以上言おうものなら言った方が悪者だ。みんなパンパンと服をはらう。きりっとした顔をあげ、次に向けて昂ぶらせていく。

 すると、ピッ、と笛が吹かれた。

「よーし、今日はここまでにしておこう」

 先生のありがたき号令だ。

 解散を言い渡して先生は去っていった。ふう、やれやれと口々に言い。肩をぐるぐると回したりしながらみんなは散り散りになって解散していく。

 ぼくも今日はまっすぐに帰ろうかなと足を踏み出したら、後ろから声がかかった。

「守屋、どこ行くんだよ」

 振り返ると和島くんを中心にし、九段ピラミッドのメンバーたちが集まっている。イヤな予感をひしひしと身体中に感じた。ふぅむ、ひょっとしたらこのまま続けようと言いだすんじゃないかと警戒を強める。

 和島くんは軽やかな面持ちで、
「練習しようぜ、練習。こっそり練習して先生たちを見返してやろう」
 清々しく言われてしまった。
 
 警戒した所でどうにかなる話でもなかった。せっかく昂ぶった心を燻らせておくのはもったいないと思ったのかもしれない。

「俺たち、このままじゃあ悔しいだろ?」

「いや、それほどでもないよ」
 とは言いにくい雰囲気になっている。

 みんなの視線を苦々しくも受け止めて、
「また明日にしない?」
 と訊いてみるも、有無を言わさない。
 
 生き生きした目でじっと見つめられ、
「……しないよね」
 ハハ、と苦笑する。
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